表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/75

7

その日のお迎えの時間、一華はドキドキとした。

顔には出さなかったが、やはり「大人」への威勢の裏では母親に対する恐怖が見え隠れしていた。


信じて貰えないかもしれない。

自分が起こした問題の方が、母親の中で大きいかも知れない。


不安は在った。

が、しかし…保育士達は騒動の事を言わなかった。

彼女らも又、保護者との揉め事を避けたかった。


そうすると、一華の方も話をわざわざ上げる気にならない。

机をひっくり返し、騒動を起こした事を知られて一発お見舞いされる事は望まない。

ちらりと保育士達の顔を見た。

一華のクラス担当の2人は、こちらを意図的に見ない様にしているのを感じる。


先生も母を恐れている。

自分の母親を。


口元に笑みが浮かんだ。

ならば今日の事は口に出さない。

いつか…の時に使う。そう、考えた。


大人は時間が経つにつれ「何故その時言わなかったか」を問われるが、子供はどこで何を言おうが責められはしない。

もっと早く言いなさい。と、少々苦言を呈される事があるかないかだ。

何故なら「未熟な者」だからだ。


大人の場合は違う。

仕事上責任ある行動をしなければならない。

しかし、保育士達はそこから逃げた。


そのツケはクラスの主導権を「大人」から「子供」へ。

「保育士」から「宮木一華」へ移動させた。


と、言っても…園内での権力であり、幼児のお遊びで影響力は無いものと同じ。

保育士の言う事を聞かないだの、給食やおやつの時間に量や希望のおやつ名を挙げるだの、文句を言うだけの、大人の世界とは違い可愛らしいモノだった。


保育士からすれば、支配下に置くのと園内の規定内で我がままにさせるのとは、何も変わらない。

物を投げ合って、怪我をされる事だけが担当保育士からしたら面倒臭いだけで、行儀が悪くなろうが馬鹿であろうが…この先の未来に影響があろうがどうでも良かった。


問題を園長に報告した際に、保育士達が言われた事は一つ。

穏便に。


保護者との争いが生まれない様に。

子供達がけがをしてニュースにならない様に。


子供の内面など、一匙も気にかけず、頭の隅にも無い言葉。

最初は「熱心」だった保育士などは転園や転職をし、残ったのは怠惰な老年の保育士が多い。

それに感化された先輩達。

一華のクラス担当も、熱意が冷めるのに時間はかからなかった。


「はい…はい、物は投げないでね」


もう保育士の、子供への視線は宙に浮いている。

先生に構って貰うのが好きな園児がその膝に乗り、満足げに保育士の手を使ってお人形ごっこを行っている。


一華は飽きていた。

子供達からの母親に対する悪口も、自分に対する侮辱も無くなった今、平和過ぎて何もない。


ふと、室内のドアの無い荷物置きに目が行った。

キラキラした物が窓からの光で反射し眩しい。

机の上の描きかけの絵を置いて立ち上がり、側まで来た。


知らないキャラクターのキーホルダー。


触ると手足がプラプラと揺れる。

好みでは無かったが、おもちゃをほぼ与えられない一華からすれば、珍しく動きが面白く思えた。


ブチっ


遊んでいる間に鞄から外れた。

壊れてはいない。

しかし、付け方が分からない。

もたもたしている間に、邪魔くさくなって…そのままポケットへ入れた。

ポケットの中で、手の中のキーホルダーを弄ぶ。


無くなった事に持ち主は気が付くだろうか。

誰か見てはいなかったか。


辺りを見渡したが、鞄の持ち主は後ろを向いているし、他の子は絵を描いたりおもちゃの箱をひっくり返したりと、各々一華を気にも留めていない。

保育士達も例に洩れず、一華を見ていない。


一華はそっとその場から離れた。


夜、家の電話が鳴る度にびくびくと怯えた。

持って帰る気は無かった。

ただ、あれから帰宅まで、ポケットにある事を忘れていた。

一華は自分にそう言い訳する。

本当は、ずっと忘れた事など無い。


絵を描いた紙を片付ける時も、遊具で遊んでる間も、ポケットにあるのを撫でていた。

帰る時、鞄を肩にかける時にすら撫でて、本当の持ち主が気付いてないか横目で見ていた。


帰宅後、ジリジリとなる電話口から、無くなった物の話が出ないか、冷や冷やしている。

祖母も兄も普段通り夕食を食べ、母も普通。

一華だけが、始終気を揉む。


布団に入り、目を閉じる頃…やっと不安を忘れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ