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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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19

「亜妃…今日は…」


気の進まない皓兄は、浮かない顔をしながら目の前に紙を広げた。


「これは顧客のリストだ」


その一枚を目の前に置くと、側に居た黒いスーツを身に纏った男を呼んだ。


「今までは黒子…こいつ等を使っていたが、お前にも行かせろと通達が来た」


あ、この人達、やっぱり黒子なんだ。


亜妃は皓兄の説明を意識半分で聞いていた。


何人いるんだろう。この前の人とは違う?


「亜妃!」


皓兄の声で亜妃はハッとする。


「話を…聞いてくれ」


声を荒げた事を悔いる様に、顔を背けた。


「ごめん」

「いや…。…お前は言葉が分からないから…黒子が付く。今日はこいつが」


横に立つ無表情の黒子を指さした。

出しゃばった真似はしません。そう言いたげな佇まいで、亜妃に視線も向けない。

真っすぐ顔を前に向け、口を閉ざしていた。


「こいつは…翻訳機だと思ってくれ。全て…聞いた事はお前に伝える」

「分かった。よろしくね…えっと…」


手を差し出して握手をしようとしたが、名前が分からない。


「名前は…?」

「…覚えなくても良い」

「え、呼ぶとき困る」

「後藤です」


差し出された手には触れず、黒子の後藤は頭を下げた。


「後藤さんか」

「亜妃様。敬称は付けずにお呼びください」

「敬語も使うな。規律が乱れる」


皓兄が冷たい視線を後藤に向けた。


「左様でございます」


深々と腰を折る。

どう見ても亜妃はおろか、皓兄よりも年上に見えたが、年功序列など無い一族なのだと理解した。


「分かった」


差し向けられた部屋には、男女が居た。

その中心に居るのが客だった。


客室の一室かと思ったが、どうもそうでは無い。

初日に案内された広い部屋にベッドが一つ、真ん中に置かれた部屋と同じ作りだった。


「オニキス…君、オニキスだろ?」


視点の合わない目で、客の男はベッドから起き上がった。

その部屋に居た男女は皆、裸だった。


「会ってみたかったんだ」


そう言いながら、隣にいる裸の女をベッドから蹴り落した。

意識がないのか、ゴツッと音を立てたが動く気配がない。


「シーツを」


黒子が指摘すると、男は乱暴にベッドに半分残っているシーツを剥がし、自分の腰に巻いた。


「顔…見せてくれ…君が…大老の…」


ゾンビの様にズルズルと歩き、亜妃の顔に触れようとしたが、後藤が止めた。


客は舌打ちをし、ベッドに戻るが裸の女達は何も言わず明後日の方を見ている。

男は両手を開き「置く物を置いて行って」と言うと、ベッドに腰かけている女の髪を掴んだ。


「こちらに」と、後藤は持って来ていた袋から、サイドテーブルの上の銀のトレイに粉状の物が入った袋と液体の入った注射器、新しいガスライターを並べ、使われた後の物を部屋に置かれたボックスに入れた。


「あっ…あ…あ…ん」


女の声が聞こえ、亜妃はぞくりとした。

あの、姉が見せた…アレの声がベッドの方からした。


「あ…あ…あぁ…」


声のする方を見ると、頭と膝をベッドに付け、腰だけが高く上がった女に男が腰を打ち付けている。


「あ…あ…」


開いた口から、押し出される様に声が漏れるが、目は虚ろでどこを見ているか分からない。

腕が力なくプラプラと揺れていた。


「はっ…はっ…あ、新しいのくれないか?」

「分かりました」


後藤が客に答えた。

手が冷たくなり、硬直した亜妃に男が気付くと、ふっと馬鹿にした様な顔をした。


「オニキス。お前知らないのか…?」


女の尻を広げ、自分が打ち付けている物を見せつけた。


「お前も仲間に入るか?」


グッと勢いよく前へ動くと、女がよがり声をあげた。

後頭部の髪を鷲掴み、男は女の顔を亜妃に向ける。


口を大きく開けて蠢いている女は、どうも醜悪に見えた。

視線はこちらを見ず、上を向いて白目がちだった。


「亜妃様。行きましょう」


黒子が退室を促すと、客の男は馬鹿みたいに笑った。


「お前の初めては俺にくれよ!」


男は叫んだが、それを後藤は後になっても訳さなかった。

次の部屋に向かう間、さっき話していた事を訳さないのかと聞くと「新しいモノを所望でした」と後藤は返して来た。


亜妃は吐き気を感じたが、後藤の押すワゴンの中は一つしか減っていない。

まだまだ回る部屋は有るのだった。


「さっき…みたいなのが?」


続くの?


「慣れてください。慣れれば…大丈夫ですよ」


何に慣れろと言うのか。

…慣れれば後藤の様に無表情で居られるのか。


『何を見ても…』


皓兄が言う通り、無表情で居られる様になるのだろうか?

姉にされた事を、思い出すのに?


あのベッドでされるがままになっていた女が、自分の様に感じた。

それが、嫌だった。

こみ上げてくる酸っぱいモノを、グッと抑え込み、何とか後藤の横を亜妃は歩いて行った。

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