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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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16

人身売買。亜妃の頭にそう文字が浮かんだ。

どう見ても自分と同じか、少し上の子達はフラフラとまともな反応など無く、ただ足を動かし引かれるまま歩いて行った。


「どこに?」


連れていくのか。

愚問だが、聞かずには居られない。


「専用の部屋がある」


そう言って、皓兄は手で「来い」と合図した。


身なりの良い、屈強そうな黒い肌の男二人が、子供を挟んで前後に居る列の後ろを、皓兄と亜妃は付いて行く。

ちらっと最後尾の子供が振り返ったが、男に小突かれ前を向いた。


部屋の前で止まると子供は手錠を外され、一人一人中に入っていく、中から男の声がしたが、亜妃には何語かすら分からない。

先頭の男と何やら話した後、子供達に指示している様だった。


「何を…しているの?」

「商品チェックだ」


健康状態の確認。怪我や病気の現状。

皓兄は子供の横を通り男に声をかけた。


側を通る亜妃に子供達の虚ろな目が降り注ぐ、何の意思も感じない、視線だけが亜妃を見た。

二、三言葉を交わした皓兄はバインダーを受け取ると、亜妃に見せる。


挟まれているのは紙きれ一枚。

番号の横に『male』『female』と書かれ、上から順にペンで跳ねた跡が付いていた。


視線を上げると、男が近くに居た子供をグイっと引っ張り、亜妃の前に立たせた。

子供の手錠を外すと、中の男が細いビニールを差し出す。

それを手首に巻く。


「4」


亜妃がビニールに書かれた数字を読むと、頷き子供を部屋に入れた。

皓兄がバインダーを返すと、紙にチェックがされる。

よく見ると服にも小さく番号が書かれていた。


服の滲んだ数字と同じ数字が、手首に付いた子供は部屋の奥へと誘導される。

右と左に分かれて進む子供達。

皓兄がまた男に声をかけると、バインダーの男は二人に道を開けた。

不安と少しの恐怖が、亜妃の胸を締め付けた。


通った先の部屋は宴会場のホールよりやや狭いが、一般的な家のリビングより広かった。

亜妃にはそれが何畳の部屋だとか、何坪なのかだとかは分からなかった。

教室くらいの広さ。と、印象を受けた。


その左右には、綺麗な紅い絨毯に似つかわしくない檻が並んでいた。

子供一人が入れる小さな檻。

それも、犬猫用の軟い檻ではなく、鉄製だと分かる。

ビニールのタグが付いた子供が、一人一人中に入っていた。


檻の中で立っている子も、座っている子も誰一人として、叫んだり泣いたりしていないその光景は、異様としか言いようがない。


それでも、皓兄は檻の手前にある隣の部屋へ、ツカツカと向かう。

開いた先はタイルの張られた床に、一つのシャワー。

清掃された後なのか、床が少し濡れていた。


「問題なさそうだな」


皓兄が呟き、部屋を出た。

子供を檻に入れ、鍵を掛けていた男も、誘導していた男も、バインダーの男も、列の最後尾にいる男も、前を通る二人に頭を下げた。


「ここも黒人の人だね」

「あぁ」


子供達は肌が白い。

中には亜妃と同じく、アジア人の『肌色』をしている子供も二人程いたが、白い方の部類だった。

黒い肌の子は居なかった。


「どうして?」

「棚が黒いと白が良く映えるだろ?」


皓兄は、さも当たり前のように言う。


「後、売れない商品は入れない」

「売れない…?」

「あぁ。あいつらはただの棚。キッチンに居たのは力仕事で必要だからだ」


平然と人間を物扱いする皓兄に、亜妃は愕然とするが、そもそもここがそういう場所だった。


「亜妃、無表情だ」


逆に驚きが顔に出ている。と、注意される。


「何を見ても…『心がける』んじゃない。…するんだ」


凍てつく目で、亜妃を見据える。


「分かった」


腑に落ちない亜妃は返事だけを返した。

丁度、出向の音がして船が少し揺れた。

その揺れを、頷いたと思った皓兄は、続きを案内し始める。

広すぎて足が痛くなりそうだった。


「休憩するか」


一つの食堂に入ると、水をグラスに入れて持ってきた。


「ありがとう」


受け取ると、本当にただの水で、冷たい事が救いだった。


「ここでは色の着いた飲み物は飲むなよ」


不思議に思うのがバレていたらしく、皓兄は椅子に座ると水を飲む。


「赤系…茶色もやめろ。青、緑…何でもだ。出来るなら直接水道水を自分で入れろ。俺以外の他から渡された物は飲むな。…食い物もだ」


「何が入ってるか分かった物ではない」と、続ける。

中には死に至る毒が入っている。とでも言いたい様だ。


「そもそも言葉が分からないから…話さないよ」

「それでも、来る奴は来る」


亜妃は外国の言葉が分からない。

何の為にここに居るのか疑問に思う。

今の所何もせず船を回り、見るだけだ。

皓兄と一緒に。


「俺、ここに来て何するの?」

「お前は何もしない」

「何も?」

「そうだ」


二か月間も?


「ただ、俺と船内の見回りだ。用意した場が、問題なく回っているか。それを見る」

「何か、偉そう?」

「雇い主側だからな」

「そっか」


客に対しては…。と話し始めた瞬間、全身が黒い服で整えられた男が食堂に入って来た。

皓兄に携帯電話を差し出す。

嫌な予感がしたのか、皓兄は怪訝な顔をしたが「お爺様です」と言われ、渋々ながら受け取った。


皓兄はお爺様との会話に日本語を使わない。

二人の会話がどんな物なのか、分からない亜妃は終わるのを待った。

何か皓兄は抗議しているみたいだが、無意味だったらしく、電話を切るとため息を吐いた。


「亜妃…部屋に戻るぞ」

「何かあった?」

「あぁ…お前を名代にしろ。との仰せだ」

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