表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/75

5

「どの色で描こうかー。これかな?それとも…これ?」


保育士はちびたクレヨンを指差していく。

一枚一枚貼られたシールには、一華では無い子の名前が書かれていた。

従兄弟の名、らしい。


元の持ち主は男の子だったのか、赤と青の2色は一欠片も残ってはいない。


「さぁ…」


促す保育士が1番残っている黄色を握らせる。

黄色で人間のどこを描けと言うのか。


仕方なくグリグリと丸を描く。

線で出来た所々はみ出た楕円。

その両端に小さめの楕円。


グリグリグリグリと。


「えー変なのー」


斜め前に居た子供が突如立ち上がり、一華の絵を指差す。


「お母さんかお父さんを描くのにー」


舌足らずながら、口達者な子が同調する。


「なんで黄色?」

「それしか無いからー?」


色の欠けたクレヨンを指摘する。

慌てて保育士が止めに入るが、一人の子が叫んだ。


「びんぼーにん!」


それに伴って大合唱が始まる。


「やめなさい」


騒ぎ始めた園児を、保育士は静止するが聞く事はなく、他のグループの子達まで集まってきた。


「びんぼーって何?」

「わたし、しってるー」

「びんぼー」

「おかね、ないひとー」


口々に騒ぎ立てる。


「ママが言ってた。びんぼーにんに近付いちゃダメってぇ」

「ビンボーは移るの?」

「バイキン!」


二人の保育士はどうにか騒ぎを止めようとするが、子供達は「ビンボーにん」「バイ菌」と声を揃えて喚いた。


と、一華は机の上にある全てを薙ぎ払い、手元のクレヨンを投げ付けた。


…やって、しまった。


一華は後悔した。

投げ付けた事をではなく、投げ付けた事によって、この騒ぎが母親…もしくは父親の耳に入ってしまう。

その事に「失敗した」と思った。


そして運も悪く、投げたクレヨンが向かいの子の目に当たってしまった。


火が付いた様に泣き出した子は、一華を侮辱し騒ぎ始めた張本人だったが、それは言い訳にならない。


物を投げてしまった一華は、部屋の中で「絶対悪」として扱われる。

そして、泣き喚くソイツは…可哀想な被害者に。


ここぞとばかりに大声で泣き、保育士に縋り付く。

その周りを世界一可哀想な者を慰める、善行をする者の様に振舞う園児。


一華に言葉というナイフを翳し振り下ろして来た事は、煙の様に消えていた。


「さ、一華ちゃん、謝って」


保育士は謝罪を促す。

一華は黙って睨みつけた。


「先に嫌なコトされた…」


精一杯の抵抗と主張。


「でも、物を投げちゃダメでしょう?」


善良な顔をして、分かりきった事を言う。

そう、分かりきった事だ。

しかし、何故投げてしまったのか。

そこには配慮しない。


一方的に責められる事に、またムカムカと胸がしてくる。


「ちゃんとしといてや」


母親の言葉が頭に浮かぶ。


「ちゃんと」ってなんだろう。

「ちゃんと」した物も与えられず。

「ちゃんと」した対応もされない。


ならば…「ちゃんと」言おう。

何を言われたのか。

全て…。


泣き喚く園児を抱えた若い保育士に、一歩近寄った。

謝るのかと保育士は気を緩めたが、一華の口からでた言葉は謝罪ではなかった。


「かげで悪口言うな」


保育士の目がぎょっと、大きく見開いた。


「聞こえてたし…今の事も…せんせーが悪口言うてたのも」


もう一人の保育士が、若い後輩を咎める様目で見た。

その視線に気が付いた若い保育士は、首を横に振ろうとして…止まった。

廊下での、先輩達との会話。


「違うの…一華ちゃ…」

「うそつき」


弁解をする間もなく、一華の言葉に口を塞がれた。


「今日の事…全部、おかあさんに言う…」


騒ぎが起きた。

どうせ一華は殴られる。

痛いのは…慣れているとは言えないが、このムカムカした気持ちより、マシだと思えた。


それに…。

いくら外面を取り繕う母親でも、自分への悪口ならどうだろうか。


上手く言える自信は無かったが、悪く言われていた事を伝えれば。

矛先が自分に向かないかも知れない。


幼い頭でそう結論付けた。


要するに、見つからなければ良い。

自分よりも先に「保育士を差し出せば」良いのだ。

押入れで先に見つかった兄の様に。


…今度は、見つからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ