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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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11

亜依はこの家に戻った際、部屋で待つ二人の前にお母様に会った。

よく見ないと、亜依だとは気が付かない。

目の前に居るのが亜季だと思ったお母様は、亜季に聞かせるべき話を亜依にしてしまった。


「亜妃。勇弥か祐基の…婚約者になって欲しいの。亜依か悠衣の代わりに」と。


お爺様からの打診で、話が持ち上がっているのは知って居た。

亜依も知って居た筈だった。


「前から…言われてるじゃない?」


ぽろぽろと零れる涙を、拭うものが無いな。と袖を引っ張り押し当て吸わせた。


「それに…亜依も交代して欲しかったんじゃなかった?」


亜希の言葉に、亜依は頷く。

大お爺様に会う前の話…。

お爺様とお会いした後、どちらかと婚約話になるかもと話が上がり始めた時に、二人が望んだのは「自分との交代」だ。


その通りになったのだ。

何故、亜依は泣いているんだろう…。


「でも…今は嫌…」

「祐基が好きだから?…じゃ、亜依じゃなくて悠衣の方と代わるって言おうか?」

「違うの!」


勢いよく立ち上がった亜依は、亜希に抱き着いた。


「あなたが好きなのよ!」


「待って」と、腕を解こうとするが、きつく抱きしめられたまま、引き剥がす事が出来ない。

仕方なく、亜希は背中を撫でながら落ち着く様に促した。


「落ち着いて…どうしたの」

「私…知ってるの」


何を…。もしかして…?


撫でる腕がギクリと止まった。


「亜妃…あなたの、身体の事」


あ…あぁ…。


「お母様は…あなたを器にするわ…ただの…器に」


そうか。お母様は…。

この前の…検査は…。


亜依と亜希はお互いを、ぎゅっと力強く抱きしめ合った。


「さっき聞いたの。…私か悠衣の代わりに貴女を送るって」


お爺様の弟が所有しているあの船に。と。


「船?」

「そう…ハトコのお兄様が…いるの」


なんだ。知ったのはあの事じゃないのか。


亜希はホッと胸を撫で下ろした。


「…それの何が問題なの?」

「…」


少しの沈黙の後、亜依は母親の言葉を伝えた。


「お母様は…こう言ったわ。『亜妃、大お爺様の執着である『大お婆様』の顔を持つ貴女を、勇弥か祐基の婚約者にしたい。でもそれは一族に入ると言いう事よ。だから裏も表も見なきゃ。貴女に見せなきゃ』って」


裏?…。


「そう。そこに行って何か…見るって事?」

「考えていた事が…叔祖父から手紙が来て、決めたわ。って」

「どういう事?…ちゃんと説明して?」


顔を上げた亜依は、涙が頬を伝い続けている。


「亜妃…あなた…」


要領を得ない亜依に、亜希は困った顔を向けた。


「何?」

「…亜妃。…あなた…両性具有なのね」


亜希は硬直した。


「子宮も…卵巣もあるのに…」


亜希は右手で自分の、右下腹を押さえた。


「そっちの…卵巣は無くて…精巣が…あるって」


ぎゅっと服を握りしめた。


「ちが…これは…」

「そうね、ちゃんとした精巣じゃない。未発達のそれは…受精が出来るとかでは無いし、亜妃の卵巣は排卵も…生理もいずれ来るかもしれない」


耳元に聞こえる亜依の声は、震える事無く静かに亜希の中に入って来る。


「もう、初潮を迎えた私達と違って、まだ…な貴女は、妊娠する確率は低い。その遺伝子的にも…」


だから…。と亜依は続けた。


「だからお母様はあの船に私達の代わりに送るのよ。私達の代わりに従兄弟の婚約者にして、身代わりに。何かあっても…良い様に」


船が何かは知らない。

でも、行った人達はどんな場所か口を閉ざし、触れもしない。

叔祖父は裏社会の人間だ。良い所では無いのは分かり切っていた。


「それが…亜依は怖いの?」


亜希の言葉に亜依は首を振った。


「あなたは…大お婆様に似ているから…守られると思うわ…」

「じゃ、大丈夫じゃない?」


亜依や悠衣の代わりに、危険な所でも。


「そこから戻って来て…どちらかと結婚したら…二人の内どちらかと…」


子供を作る事になる?


「…別に、近親婚にならないし…私、好きな人いないから」


気にしないよ?と、亜希は言う。


子供、出来るか分からない…けど。


「私は…嫌よ…」

「亜依…」

「お母様は…出来ない時は体外受精も視野に入れてるって言ったわ」

「体外受精?」

「私か悠衣の卵子とどちらかのを…貴女に入れて…貴女の子として産ませるって…」


そうすれば…何が…どうなのだろう…?

お爺様の希望通り、私が一族に入る。

亜依か悠衣が残った方と結婚しても、また違う親戚…ハトコと結婚するだろう。

交代した所で…何が…変わる?


「お母様は…何がしたいの?」

「分からない。叔祖父からの手紙に何が書いてあったかは…分からないの。…でも」


亜依の手に力が入った。


「そんな、貴女を…ただの器や物の様に扱われるのは嫌なの!」


涙が太陽に煌めきながら、落ちて行った。

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