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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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10

服や髪型を変えると、誰だかすぐには分からない双子。

亜季もどちらにも成れた。

特徴のある前髪を隠し、髪の長さを誤魔化せば亜依にも悠衣にも。


…だから。

最初は本当に、宮本家の中だけで、バレるかバレないか遊び半分で始めた入れ替わり。

それが、次第に入れ替わったまま、お互いの家を行き来する様になってしまった。


「姉には気を付けて」


家族と友達、勉強の進み具合を共有する時、いつも亜希はそう言った。


「どうして?」

「…殴ったり…乱暴だから」

「お兄さんは?」

「兄はほぼ帰って来ない。後、関わらないから大丈夫」


関わるのは姉だけ。

喘息が治まってから、母親も自分に干渉して来ない。

亜季をうざったく感じている父親も。


「そうなの?」

「大抵は」

「…分かった。今日は…どっちが行く?」

「…今日は悠衣が行って」


せっかく久々に亜希に会えた。と、腕にしがみつく亜依に、眉毛を下げながら亜希はご苦労様と頭を撫でた。


「じゃ…行ってみる」


曾祖父に会った日から約半年後、悠衣が初めて宮木家へ行く事になった。


「部屋にさえ入れば、多分大丈夫。髪の毛は束ねて背中…服に入れて。…はい、帽子」


亜依と入れ替わりし始めてから、いつも被る様にしている帽子を渡す。

被ると旋毛の所為で分かれる前髪も、分からなくなる。


「部屋に上がる前に、晩御飯は部屋で食べる。って言って持って上がってね」

「失敗しても一日ぐらい大丈夫よ」


亜依はベッタリとしがみついたまま、悠衣の不安を一蹴する。


「バレないかな」

「私はバレなかったわ」


帽子を受け取る悠衣は、目深に被る。


「もう少し顔を出して」


くいっと帽子の鍔を上げた。


「あまり隠し過ぎると逆に怪しいから」


亜依が掴んでいない方の手で、悠衣の顔周りをさっさと整えた。


「分かった。行ってくる」


宮木家は亜依達の家と違って、お互いが無関心だ。

だから、これまでもバレた事は無い。


一度「どこへ行っていた」と頬を叩かれた事もあったが、それは入れ替わりの事ではなかった。

宝石の着いた指輪が無くなっている事に気が付いた母親が、亜希が盗ったのだと疑って、今か今かと帰宅を待って居ただけの事だった。


もちろん、亜希は盗っていない。

幾度となく「白状しろ」と、疑わしき兄と並べて正座させられ、冤罪を被せられたけれど、一度として盗んだ事は無かった。

金も、指輪も。

最近は兄が帰って来ない事で、鳴りを潜めている筈だから、悠衣が亜希ではないとバレる事は無いと言い切れた。


姉が要らない事をして居なければ…。


自分の代わりに、自宅への道を歩くだろう悠衣の背中を、見送りながら亜依の時と同じく「一華が要らない事をしませんように」と願う。


くんっと腕が引っ張られた。


「お茶しよ」

「分かった」


亜依に笑みを向ける。

すると亜依は顔を赤くして俯いた。


最近、亜依は…良く照れるなぁ…。


などと、亜希は軽く考えていた。

しかし、俯いた後の亜依の顔はすぐさま追い詰められた、悲壮な表情に変わっていた事を、亜希は気が付いていない。


いつも通り、三階のバルコニーにお茶のセットがされ、沈みゆく夕日を眺めながら軽くお茶とお菓子をつまむ。

夏の匂いがすっかり消え去り、秋風が心地良い季節。

もうすぐ亜希の誕生日だった。


一年半前の自分からは想像できない程、今が幸せだな…。


ミルクティーを飲みながら、思う。

来た時にも飲んだ甘いミルクティー。

それを飲み干し、息を吐く。


怖かった夕暮れも、美しく見えた。

紅く赤く。

染まる街並みと木々達。


もう少し飲もうか。と、お茶を入れようとしたがポットの中は空になっていた。

もう一つのポットには追加用のミルクだけが入っていたが、ミルクだけを飲むのは、あまり好きでは無かった。


それでも、今の時間をのんびりと過ごしたかった亜希は、お手伝いを呼ぶ事をせず、仕方なくミルクをカップに注ぐ。


「…」


いつもは帰って来るなり自分が経験した学校生活や、友人との話。

亜希と悠衣の生活の話をして、双方の生活の『補完』をするのが常だった。


なのに、今日は…亜依の様子がおかしい。


視線を幾度か亜依に向け、無言でミルクを飲むと、やはりミルク独特の匂いが少し苦手だなと思い、カップを置いた。


お茶を貰おうか…。

それとも、先に亜依と代わっている間の話をしようか…。


入れ替わりは宮木家だけでなく、宮本家にも秘密だった。

知って居るのは、亜依と悠衣。

そして、従兄弟の勇弥と祐基だけだ。


「亜依…?」


声をかけた瞬間、亜依の目に涙が溜まっているのが見えた。


「なんで…泣いてるの?」


立ち上がり、亜依の席の横へ膝を付くと、手を握りしめた。


「もしかして…何かされた?」


嫌な予感が胸にこみ上げる。


姉がもしかして…亜依に『アレ』を…?


血の気が引く。

このまま、悠衣を行かせてはいけない。と、今からでも止めようと立ち上がる。

が、くんっと手が持たれ、亜希はその場から動けなかった。


「悠衣を止めなきゃ」


亜依の掴む手の上から、優しく離させとした。


「あっちで何かあったんでしょ?…悠衣が…」

「違うの。あっちでは何も無かった」

「え…?じゃあ…どうして…」

「ごめんなさい」

「何が…?」

「ごめんなさい」


ポロポロと謝りながら涙を流す亜依を、不思議そうに思う。


「何が…あったの?」


「ごめんなさい」と、繰り返す亜依は唾をごくりと飲み込んだ。


「ごめんなさい…こんな…そんなつもりじゃなかったの…」

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