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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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9

大お爺様は亜希を亡くなった亜妃…自分の妻に重ねていた。

亜依達の曾祖母が亡くなってもう何十年にもなるが、亡くなった妻の面影を追い求めて居た。


「お爺様。お誕生日おめでとうございます」


お母様が進み出て、お祝いの言葉を言うが、大お爺様は亜希の顔を手の平で挟んだまま動かない。


「お会いさせたかったのは、その子です」

「この子…は…亜妃と…そっくりだ」


しかし、自分の妻がこんなに幼い訳がない。と、思い直した曾祖父は亜希の顔から手を離した。


「お婆様にあまりに似ていたので」と、言葉を続けるお母様の方を向き直ると、曾祖父は「どこで?」と聞いた。

間島が街で見つけたのだと伝えると、曾祖父は「間島に」と小切手を切った。

いくら書き込まれたのか分からなかったが、相当な額だったのだろう、お母様の横に居た叔父様が目を剥いた。


「お前には後で褒美をやる」

「いいえ、お爺様の誕生日ですもの」


首を横に振るお母様の顔を見た後、曾祖父は席に戻り正面を向いた。

亜希はその正面に、差し出される様に立たされた。


「亜妃…否…名前は何と言う?」

「…あきです。アジアの亜に…希望の希で…亜希です…」


名を呼ばれたと思って固まっていた亜希は、ゆっくりと緊張の中答えた。


「字は違うが…同じ名か…」


つうっと、曾祖父の目から涙が流れた。

幼い頃から繰り広げられる国内紛争。

貧しさと恐怖に震える中、曾祖父と曾祖母は支え合った幼馴染だった。


他国と戦争を始め、多くの国民が巻き込まれ死した時も、その後の世界を巻き込む悪夢の戦争でも、ずっと支え合って来たのだと言う。


降り注ぐ弾丸や、それに倒れる同胞達や友人。

多くの遺体の中で子を二人産み、物も病院も乏しいあの時代、産後の肥立ちの悪さからこの世を去った。


「だから…」と、曾祖父は言葉を続ける。

異様な空気が室内に充満していた。

皆が、曾祖父の話に聞き入り、語り部の遣る瀬無さや心痛に、同調し共鳴し増幅していた。


「助けてやれなかった私は…私が憎い」


ポロッと涙を流す大人達。


「助けてくれなかった人達が憎い。戦争をした世界が…憎い」


すすり泣く声が、曾祖父の声と共に響き始める。


「我が…子供達よ。金が無ければ生きてはいけない。物がなければ生きてはいけない」


ハンカチを握りしめ、曾祖父の方を全員が注目した。


「だから、お前達は何としても生きるのだ。一族に…繁栄を」


グラスを手に持ち、掲げると一気に飲んだ。

その後に続き、大人達も「一族に繁栄を!」と叫ぶ。

そして、手に持つグラスを傾け、大いに拍手をする。


この演説は毎年恒例の、『大お爺様』の言葉でもあった。

そして、その日、亜希は亜妃になり、曾祖父の横に席を置かれた。


帰り道、名残惜しいと言いながら別れる大お爺様は、か弱い老人に見えた。

亡き妻の面影を追う、ただの一途な男。


だが、その一面だけが曾祖父の顔ではない。

助けられなかった自分を憎み、他人を憎み、世界を憎む。

戦後の混乱を駆け上がり、財を成したその男は大国のマフィアに成長していた。


息子二人の内、兄は聡明に弟は傲慢に育ち、兄は日本と大国の貿易を、弟は家業と言える悪行に身を費やした。

日本に居たのが兄…お母様と叔父様の父であり、亜依達の祖父である。


弟の方と言えば、傲慢さと残虐さが合って居たのか、勢力を大幅に伸ばし、他国のマフィアにも顔が通じる様になった。

会場に居た親戚の父親であり、祖父だった。


兄側に『亜妃』が現れた事により、何か変わる事を恐れた親戚達も居たが、性格は違えど仲の良い兄弟は、利権や影響に対して「何もない」と口を揃えて言った。


ただ、古びたボロボロの一枚の写真でしか見た事の無い母を、兄は大事に思い、弟は霞にしか思えなかった事で、亜希への対応は分かれてしまった。


懐に入れて写真の歳になるまで大切にし、成長後に自分の孫のどちらかと子を成す事を望む兄。


逆に存在自体はどうでも良いが、利になる者なら使いたい弟…そう、弟にとって亜希は所詮『血の繋がらぬ似た者』なのだ。

憎むべき、一族以外の他人。


争いを好まない兄とは違って、野心家の弟はいつも亜希を何かに使えないか考えていた。

不安がる親戚達を納得させられる事、逆に利益になる事を。

その半年後、部下から入れ替わりの話を聞いた弟は、兄の娘へ手紙を送った。

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