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学校の給食室にあるテーブルよりも大きなテーブルが、案内された部屋には有った。
片側に二脚、片側に三脚と人数分の椅子が並び、その間に飲み物が置かれたワゴンが置いてある。
三脚の真ん中に亜希は案内されると、ぎこちなく座った。
亜依と悠衣は、各々の横に付いた女性に椅子を引かれ、タイミングよく座る。
え、こけないの?
亜希はいつも通りの慣れた様子の二人に驚く。
私は…座れなさそう…。
引かれた後、自分で座る時に前に引っ張った亜希。
びっくりさせてしまったかも知れない。と、自分の後ろに居る女性を思う。
ごめんなさい…知らなかったの。
俯き加減でちらっと後ろを見る。
そんな亜希に、女性は微笑んで反応してくれた。
「御用がありましたら、いつでもお声がけください」
「あ。はい…」
返事をし、前を向く。
前の席はまだ空いている。
「待たせたわ…」
そう言いながら、先程会った女性が席に着く。双子の母親だ。
「お父様は?」
「まだお仕事ね」
「お客様も来ているから…先に頂きましょう」
始まった夕食は、全て亜希の食べられる物が出て来た。
色とりどりの野菜に、焼かれた魚。
玉子を使った料理。
甘いデザート。
自分の家で出て来たメニューや、学校の給食でさえ全て食べられる時は滅多にないと言うのに。
ここでは、全て。
苦手な肉も、家族さえ苦手だと知らない『生魚』さえも、出て来なかった。
嫌いな感触の…ねっとりとした餡もかかっていない。
サラサラとした食べた事の無いソースで、口の中が華やぐ。
「美味しい…」
思わず声が漏れた。
「そう、それは良かった」
目の前の女性は、最初あった時感じた怖い雰囲気は微塵もなく、優し気に微笑む。
亜希はがっつきそうになるが、左右の双子の食べ方を見て、己を抑えた。
行儀が悪いのはダメだ。
双子の食べ方を真似する。
魚の皮が苦手な亜依は、綺麗に剥がした後、横に避けた。
大き目な野菜は、フォークで押さえ、ナイフで切って一口サイズに悠衣はする。
猫背に前かがみで、食器に掛かる様な姿勢はしない。
背筋を伸ばして、零さない様に…。
口を拭く時は…膝の上のナプキンを…。
チラチラ。と二人と母親を見る。
「ふふふ」
女性が笑った。
亜希は自分が失敗したのか。と、顔が熱くなったが違うようだった。
「ごめんなさい。あなたが行儀よくしようとするから…つられて娘達も気を使っているのが面白くて…」
続けてふふふ。と押し殺して笑う。
「お母様、ばらさないで」
不服そうに亜依が抗議した。
「亜依はそうかも知れないけれど、私はいつも通りです」
ツンと胸を張って、悠衣は誇らしげに主張した。
最後のデザートを口に運んでいると、女性はナプキンで口を拭いて横に置いた。
「初めまして、挨拶が遅れたけれど」と、亜希を見る。
口に入れたばかりの亜希は、急いで飲み込もうとしたが「慌てないで、聞いて」と制される。
「私は二人の母親です」とお母様は話し始めた。
遅いながらの自己紹介。
「できれば『お母様』と呼んで欲しいわ」と、双子の母は言った。
自分の母親がいるのにそう呼ぶのは抵抗があるかと聞かれたが、亜希には無かった。
続いて食べ終わった悠衣も、ナプキンを置いて「宮本悠衣です」と名乗る。
遅れて亜依が「亜依です」と名乗った。
そして「さんなんて付けないで、呼んで欲しい」と二人も言う。
「仲良くなれそうで良かったわ」と、お母様は微笑み、亜希が聞きたかった肝心の話へ動いて行った。
どうして亜希の名前を知って居るのか。
歳も。好みも。
「ごめんなさいね。少し調べさせて貰ったの」
その言葉に亜希はドキッとする。
「あぁ、そこまで詳しくは調べてないから、…安心して」
どこまで調べる気だったんだろう。
家族でさえ覚えていない。知らない物まで…。
「この先、一緒にご飯を食べる機会がある可能性を考えて」
と、お母様は言った。
「なんで私を?」
調べようと思ったのか。
「間島があなたを見つけた時、大おばあ様と瓜二つだと聞いていたの。それを聞いた亜依が会いたがったのだけど、見知らぬ人間を会わせるのは危険だと思ったの」
「あなたからしたら私達も見知らぬ人間でしょうけど」と、言い足す。
どうやって調べたのか、聞いても良いのだろうか。
質問をしようとした瞬間、お母様に女性が何かを耳打ちした。
「あら。…仕方ないわね。もう少しお話ししたいけれど…またの機会に」
そう言って席を立つと部屋から出て行った。
「勝手に調べてごめんなさい。私からも謝るわ」
悠衣が頭を下げた。
「誘拐とか…危険な事がたまにあって…」
こんな屋敷に住んでいるのだ。無理も無いな。と亜希はその理由に納得した。
「ううん。仕方ない事だよ。…それにこんなにおいしい物も食べられたし」
亜季が答えると、安心したように悠衣は笑う。
「良かった」
「食べ終わったらもう少し遊ばない?」
亜依がそう言うので、三人は食後部屋に戻ると、ボードゲームをしながら、話をした。
「名前を知った時、苗字は棒一本の違いで、名前は一文字違いでびっくりした!」
「私は、会った時に一瞬亜依と見分けが付かなかったの。だから名前を言った時の反応を見たのよ」
今日の事、学校の事、普段の事…。
会話をするだけで、ドンドン時間は過ぎていく。
しかし、双子は亜希に会いたかった理由。
この家に招き入れた本当の理由を、まだ言わずにいた。
亜希は双子やその両親の、本当の思惑を知らないまま、この家に入り浸る様になる。




