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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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6

「あ…」


そう言えばと亜依が部屋から出て行った。

悠衣は気にも留めずまだ、あれだこれだと服を物色している。


「ねぇ…」

「何?」

「あい…さん、行っちゃったけど…」

「いつもの事よ」


そう言って、これなんかどう?と服を当てる悠衣に、たじろぐ。


「それに、さん付けは要らないわ。同じ歳だもの」

「小学校二年?上がりたて?」

「そうよ。今は七歳」


一つくらい上かと思った…。と、悠衣のしっかりした受け答えや、行儀の良さを見て思う。

亜依は…自分と同じ歳だと思えた。…双子じゃなければ。


「…」


あれ?


不意に、亜希は思う。


何で歳を知ってるの?

あれ?私、名前言ったっけ?


悠衣は会った階段で名前を名乗った。

が、亜希は一度も名前を名乗っていない。

それなのに、悠衣は亜希の名を呼ぶ。

悠衣だけではない。お手伝いの女性も…苗字を呼んだ。


ゾクッと寒気が、亜希の背中を襲う。

自分は一緒に居たいと思ったが、それは間違いだったのではないか。と、考えた。


「…」


その雰囲気に気が付いたのか、悠衣が服を当てたまま、亜希を黙視した。


「ただいま!」


止まった部屋の空気を動かす様に、勢い良く部屋のドアが開いた。

明るい声が部屋に充満する。


「はぁ…」


悠衣はため息を吐いて、服を椅子に掛けた。


「もう少し静かに入って来れない?」

「だって、これ!丁度良いと思って!」


手には子供サイズのスーツを持っていた。

これもまた、良い生地で仕立てられているのが分かる。

百貨店で見る既製品のスーツと、どこか違う。


「あぁ、それ勇弥か祐基のでしょ」

「ゆうや?ゆうき?」

「私達の従兄弟よ。…一つ年上の双子」


少し呆れた顔をした悠衣が、亜希に説明する。


「置いて行ったんだから、使っても良くない?」


亜季に服を当てる亜依の顔が、ドレスを当てていた時よりキラキラと輝いた。


「ほら、似合う!」


男児用のスーツは、少し手足が長めだったが、髪の短く中性的な亜希に似合った。


「これ着て!」


ぐいっと亜依はスーツを押し付け、自分はこれを着る!とドレスを掴んで自室へ走って行った。

呆気に取られた亜希は、スーツを抱きしめ立ったままだ。


「はぁ…」


隣から盛大なため息が聞こえた。


「…嫌じゃなかったら、着て欲しいわ」


散らかった服を片付けながら、亜依が拗ねると邪魔くさい。とでも言いたげな顔をしている。

亜希は歳の事や、自分の名前をどうして知って居るのか聞きたかったが、下手に突き詰めて何か起こるのが怖かった。


どうせ…ここに泊まる…。


帰る時に聞いても、良いはずだと自身を納得させ、頷いた。


「ありがとう」


クローゼットが閉じられた。


「じゃ、私も着替えるから、貴方はここで着替えて」


手にはいつの間にか、亜依と色違いの服を持っていた。


「…誰も来ないから」


そう言い残し、部屋から出た。

一人部屋に残された亜希は、一瞬どうしようかと思うが、服を脱ぎ始める。


「もうそろそろ良いかしら?」


一通り着た時、ドアがの隙間から声が掛かった。


「どうぞ」と言う亜希の声に、二人が同時に部屋に入って来る。


「準備できた?」

「まって、ネクタイがまだよ」


亜希はネクタイをどう結ぶのか知らず、手に握っていた。

それを見た悠衣が、亜希の首に回し結ぶ。


…。


亜希は首を絞められる気がした。

一華なら、絞めてから緩め「冗談」だと言うだろうが、悠衣はそんな事をしない。


「苦しくない?大丈夫?」


綺麗に絞められたネクタイは、ぴっちりと襟もとに収まり、ジャケットの下に入れられた。


「ピンもあれば良いんだけど…」

「持ってきた!」


用意周到に亜依が差し出す。

箱に並んだそれは、色とりどりの宝石を讃えていた。

天井のシャンデリアが、より輝きを与え、眩しい程だった。


…本物?


亜希は本物の宝石を見た事が無い。

母親が一つ二つ持っているが、見せて貰った事も嵌めた事も無かった。


「どれが好き?」


本物ではないのかも知れない。と、あまりの無防備に亜希は思い直すが、どうしても友達が持つ偽物の宝石とは違う輝きが、誇る様に光を反射させる。


「青系が好きなのよね?」

「これなんかどう?」


サファイヤの着いたネクタイピンと、ピンクスピネルのネクタイピンが差し出された。


「サファイヤなんて…」

「スピネルは派手すぎよ」


二人がお互いの選んだ物に文句を付け、自分が選んだ物の方が良いと主張する。


「亜希は青が好きなのよ」

「ピンクも似合うわ」


亜希は正直どっちも怖かった。

壊せばどれくらいの金が必要なのか分からなかったから。


「どっちでも…」


箱を持った亜依は二つを箱に戻し、亜希に向き直ると中の好きな物を「亜希が選んで」と再度差し出した。

隣に居る悠衣も、亜希が決めた物が良い。と、譲らない。


「じゃあ…これ」


一番好きな色で、微かに光っている様な美しい海の色。


「「パライバね!」」


早速、悠衣がそれを取り出し、亜希のネクタイに着けた。


「「似合ってる!」」と、二人は声を揃え、嬉しそうに笑った。


「ありがとう…」


ありがとうで良いんだろうか?


亜希は気後れしながら、答えた。


「もうすぐ夕食ね」

「行こう!」


亜依が手を引いた。


「このままで!?」

「そうよ。行きましょう!」

「汚したら…」

「大丈夫よ。気にしないで…」


前を歩く亜依と後ろの悠衣に挟まれ、部屋を出た。


「亜季…」


こそっと後ろから声がした。


「あなたの疑問は後で…」

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