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「あ…」
そう言えばと亜依が部屋から出て行った。
悠衣は気にも留めずまだ、あれだこれだと服を物色している。
「ねぇ…」
「何?」
「あい…さん、行っちゃったけど…」
「いつもの事よ」
そう言って、これなんかどう?と服を当てる悠衣に、たじろぐ。
「それに、さん付けは要らないわ。同じ歳だもの」
「小学校二年?上がりたて?」
「そうよ。今は七歳」
一つくらい上かと思った…。と、悠衣のしっかりした受け答えや、行儀の良さを見て思う。
亜依は…自分と同じ歳だと思えた。…双子じゃなければ。
「…」
あれ?
不意に、亜希は思う。
何で歳を知ってるの?
あれ?私、名前言ったっけ?
悠衣は会った階段で名前を名乗った。
が、亜希は一度も名前を名乗っていない。
それなのに、悠衣は亜希の名を呼ぶ。
悠衣だけではない。お手伝いの女性も…苗字を呼んだ。
ゾクッと寒気が、亜希の背中を襲う。
自分は一緒に居たいと思ったが、それは間違いだったのではないか。と、考えた。
「…」
その雰囲気に気が付いたのか、悠衣が服を当てたまま、亜希を黙視した。
「ただいま!」
止まった部屋の空気を動かす様に、勢い良く部屋のドアが開いた。
明るい声が部屋に充満する。
「はぁ…」
悠衣はため息を吐いて、服を椅子に掛けた。
「もう少し静かに入って来れない?」
「だって、これ!丁度良いと思って!」
手には子供サイズのスーツを持っていた。
これもまた、良い生地で仕立てられているのが分かる。
百貨店で見る既製品のスーツと、どこか違う。
「あぁ、それ勇弥か祐基のでしょ」
「ゆうや?ゆうき?」
「私達の従兄弟よ。…一つ年上の双子」
少し呆れた顔をした悠衣が、亜希に説明する。
「置いて行ったんだから、使っても良くない?」
亜季に服を当てる亜依の顔が、ドレスを当てていた時よりキラキラと輝いた。
「ほら、似合う!」
男児用のスーツは、少し手足が長めだったが、髪の短く中性的な亜希に似合った。
「これ着て!」
ぐいっと亜依はスーツを押し付け、自分はこれを着る!とドレスを掴んで自室へ走って行った。
呆気に取られた亜希は、スーツを抱きしめ立ったままだ。
「はぁ…」
隣から盛大なため息が聞こえた。
「…嫌じゃなかったら、着て欲しいわ」
散らかった服を片付けながら、亜依が拗ねると邪魔くさい。とでも言いたげな顔をしている。
亜希は歳の事や、自分の名前をどうして知って居るのか聞きたかったが、下手に突き詰めて何か起こるのが怖かった。
どうせ…ここに泊まる…。
帰る時に聞いても、良いはずだと自身を納得させ、頷いた。
「ありがとう」
クローゼットが閉じられた。
「じゃ、私も着替えるから、貴方はここで着替えて」
手にはいつの間にか、亜依と色違いの服を持っていた。
「…誰も来ないから」
そう言い残し、部屋から出た。
一人部屋に残された亜希は、一瞬どうしようかと思うが、服を脱ぎ始める。
「もうそろそろ良いかしら?」
一通り着た時、ドアがの隙間から声が掛かった。
「どうぞ」と言う亜希の声に、二人が同時に部屋に入って来る。
「準備できた?」
「まって、ネクタイがまだよ」
亜希はネクタイをどう結ぶのか知らず、手に握っていた。
それを見た悠衣が、亜希の首に回し結ぶ。
…。
亜希は首を絞められる気がした。
一華なら、絞めてから緩め「冗談」だと言うだろうが、悠衣はそんな事をしない。
「苦しくない?大丈夫?」
綺麗に絞められたネクタイは、ぴっちりと襟もとに収まり、ジャケットの下に入れられた。
「ピンもあれば良いんだけど…」
「持ってきた!」
用意周到に亜依が差し出す。
箱に並んだそれは、色とりどりの宝石を讃えていた。
天井のシャンデリアが、より輝きを与え、眩しい程だった。
…本物?
亜希は本物の宝石を見た事が無い。
母親が一つ二つ持っているが、見せて貰った事も嵌めた事も無かった。
「どれが好き?」
本物ではないのかも知れない。と、あまりの無防備に亜希は思い直すが、どうしても友達が持つ偽物の宝石とは違う輝きが、誇る様に光を反射させる。
「青系が好きなのよね?」
「これなんかどう?」
サファイヤの着いたネクタイピンと、ピンクスピネルのネクタイピンが差し出された。
「サファイヤなんて…」
「スピネルは派手すぎよ」
二人がお互いの選んだ物に文句を付け、自分が選んだ物の方が良いと主張する。
「亜希は青が好きなのよ」
「ピンクも似合うわ」
亜希は正直どっちも怖かった。
壊せばどれくらいの金が必要なのか分からなかったから。
「どっちでも…」
箱を持った亜依は二つを箱に戻し、亜希に向き直ると中の好きな物を「亜希が選んで」と再度差し出した。
隣に居る悠衣も、亜希が決めた物が良い。と、譲らない。
「じゃあ…これ」
一番好きな色で、微かに光っている様な美しい海の色。
「「パライバね!」」
早速、悠衣がそれを取り出し、亜希のネクタイに着けた。
「「似合ってる!」」と、二人は声を揃え、嬉しそうに笑った。
「ありがとう…」
ありがとうで良いんだろうか?
亜希は気後れしながら、答えた。
「もうすぐ夕食ね」
「行こう!」
亜依が手を引いた。
「このままで!?」
「そうよ。行きましょう!」
「汚したら…」
「大丈夫よ。気にしないで…」
前を歩く亜依と後ろの悠衣に挟まれ、部屋を出た。
「亜季…」
こそっと後ろから声がした。
「あなたの疑問は後で…」




