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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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4

「虐待の可能性って無いんですか?」


若い保育士の「虐待」と言う言葉に、一華は不安が襲ってくる。

もしも「虐待が認められたら」鬼は二人して一華達を今以上に殴るだろう。と、向かってくる黒い影を思い出し、膝がカクカクと震えた。


「あー、昨日通報されたみたいよ」


後ろから合流したもう一人が口を挟む。


「宮木さんでしょ?」

「通報されたの?」

「うん、でも追い返したって」


三人で階段の下に集まり、話す。

先程よりは声を抑えた話し声は、それでも一華の耳に届いた。


「ほら、三人目生まれたから…その声だ!って」

「「三人目!?」」


一人の声に対して、二人の声が重なり廊下に響いた。


「声大きいよ…」


しーっと口の前に人差し指を立てる。


「えー…子供好きそうじゃ無いじゃん」


呆れた様に保育士が呟く。


「名前も一人目の男だから和雄、二人目は長女だから一華…でしょ?」


くすくすと自分の名前を笑う声に、ぎゅっと服を掴んで…涙が出て来そうなのを堪えた。


「え、でも漢字普通じゃないですか?」

「違うのよ、本当は一と男で一男にする気だったの」


笑って言う保育士が、後輩の肩を軽く叩く。


「あー、知らない?あの話」


和雄を受け持つ保育士が、訳知り顔で得意げに話す。

1番若い保育士は知らなかった。

出生届を出す時に、一華の祖母と母親が起こした騒動。


あまりにも安直な漢字だと、反対する祖母に「名前なんてどうでもいいや無いですか」と言い放つ母親。

その間で、言い合いを収めようとしていた職員の…話。


「結局は漢字をお祖母さんが決めてその場は終わったんだけど、二年後もまた同じ事してんの」

「二年後って…」

「妹の一華ちゃんよ。…本当は『いちご』にしようとしたんだって」


保育士が笑う。

よくもまぁ、そんな個人の家の事情を知ってるモノだと思うが、狭い環境が織りなす下世話な交友関係。

人の噂が広まるのが速い。


「いちご?あの果物の…ですか?」

「違うわよ。一と子で一子。二人目なのに!」


若い保育士はあんぐりと口を開け、笑う二人の先輩を眺めた。


「じゃあ…三人目は…」

「秋に生まれたから秋でいいって叫んでたわ」


大袈裟に腕を組み、思案する様な顔をする。

全くもって理解できないと言う態度だった。


「あ、でも今度の漢字はお母さんが決めたって」

「そうなんですか?」


でもねぇ…。と、腕を組んでほくそ笑む保育士が続けて意味を二人に教えた。


「亜希なのよ」

「普通じゃ無いですか?」

「漢字はよくあるわよ?」


何がおかしいのかと、不思議そうにする二人に、身を屈めて近付いた。


「普通は良い意味を付けるじゃない?色々な意味が漢字にはあるんだし」

「亜は…まぁおいといて、希は希望とかでしょ?」


それを聞いた保育士はニヤッと意地悪く口角を上げた。


「知らない?亜希の亜はお墓を模してるって…」

「え…」


それを聞いた二人は青ざめた。


「でね、希は…希望の希で、望みは望みなんだけど…」

「まさか…え…自分の子供に?」


意地悪く笑う保育士が、口を開き言葉を発そうとした瞬間、天井から曲が流れた。


「うわっ、やば!」


その声で三人が慌ただしく動く。

一人は階段を駆け上がり、二人は一華の方へ走って来た。

一華は咄嗟に目の前のドアを勢い良く開けて、注目を浴びるのも気にせず部屋へ入った。


いつもの席に座ると、胸がドキドキと鳴って落ち着かない。


保育士達が朝の挨拶をした後、お絵描きの時間が始まる。

目の前に配られた白い紙と、自分のクレヨンが置かれた。


周りの子の綺麗なクレヨンとは違う、端が破れた紙の蓋と汚れ。

その差が余計に一華を居た堪れなくした。


「じゃあ、今日はお父さんかお母さんの絵を…」


さっきの廊下で聞いた若い保育士の声が、部屋全体に響く。

もう一人の保育士は窓側に立ち、全体的に子供達を見ていた。


周りが揃ってクレヨンを取り出して握る。

一心不乱に描き殴る子もいれば、丁寧に線を描く子もいる。

そんな中、じっと紙をみたまま…動かない子供。


宮木一華。


はぁ。と小さくため息をついて、少女の椅子まで近付くと優しく聞こえる様に丁寧に話しかけた。


「どうしたのかな?一華ちゃん」


笑顔を張り付けるのも忘れない。


この子の親は「要注意」。

何が気に障って園に怒鳴りに来るか分からない。


噂によると市役所でさえ、フロアに響き渡るのも構わず声を荒げ、暴れると言う…。

園では取り繕ってはいるが…油断は出来ない。


そう、腫れ物に触るように、細心の注意を払おうとした。

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