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亜希の様子が落ち着いたのを見届けると、お手伝いの女性はお茶とお菓子の乗った皿を、ワゴンからテーブルの上に移動させ「失礼します」と、去って行った。
「大丈夫?」
双子が亜希の様子を伺う。
同じ顔に挟まれて、何とも言えない気分だったが、幾分か先程よりマシになっていた。
「大丈夫。ありがとう」
「…悠衣の部屋に苦手な物があったの?」
悠衣と同じ事を聞く亜依。
『姉の部屋を思い出した』
そんな事は言えない。…どうして?って聞かれる…。
『どうして姉の部屋が怖いのか』
悠衣には秘密と真似をして言ったが…亜依にも通用するだろうか。
「亜依。いいのよ。言ってくれる時がくれば…」
悠衣が亜依にそう告げる。
「ま、私の部屋には来てくれるよね!」と、悠衣の部屋に行く事が出来ない事等、何の問題も無いと亜依が笑った。
「待って。…亜依の部屋だけに行くのは…何かずるい気がするわ」
亜依の言葉で、悠衣の眉間に少し皺が寄った。
それでも、亜希に無理強いはしたくない。と、頭を抱える悠衣を亜依は揶揄い煽っていた。
亜希はゆっくりと深呼吸して、深く息を吐いた。
「ごめんね。苦手な場所と似ていたの」
亜希の言葉に双子の顔から笑顔が消えた。
「そう…それは…家具の配置?形?色?」
「色…かな。配置も…ちょっと似てるかも」
手に持ったカップに視線を落とす。
これくらいしか…言えない…。
部屋の大きさも、物の質も雲泥の差なのに、オレンジ色の布団や枕が目の前に迫ってくる様に感じて…。
怖かった。
「分かったわ。まぁ。今日はこのままこの部屋ね。泊まる部屋は客室が有るからそこを使って」
思い出すだけで、息が出来ない気持ちになる。
そんな亜希に、双子は深くを追求しなかった。
誰に何をされたのか。も、聞かない。
「ねぇ、亜希って何色が好き?」
よく見ると右手にウサギのぬいぐるみを抱えている亜希が、ウサギと共にずいっと近付いた。
「…青と緑が混じった…やつに白が混じった様な…色」
色の名前が分からない亜希は、しどろもどろに答える。
「青緑のミルキー色…が近いかしら?」
「ミントブルーとか?」
「ヒスイか…水浅葱?」
二人は色をどんどんと上げていく。
どの色も合っているのか違うのか、分からない亜希は、好きな色の『感じ』を上げる。
「くすんだ色の青も好きだし…緑も好き」
「青系が好きなのね」
亜希は色が好きだ。海の色の様に青と緑が溶け合った色も。
藤の様な青紫や薄紫も…。
昔は、夕暮れの青とオレンジが混ざる色も好きだった。
だが今は、夕暮れは地獄の始まる時間で、オレンジは恐怖の色だった。
外はもう、この部屋のカーテンと同じ、紺色に包まれている。
少し不安に駆られるが…『大人からの連絡』が家には云ってある。
カップのミルクティーを一口飲むと、さらに気分が良くなった気がした。
「顔色、良くなってきたね」
ウサギが左右に揺れる。
亜季がどこかで見た気がするそのウサギは、あのクローゼットに詰まっていた一匹だ。
二人を追いかけた時、クローゼットから落ちたのを引っ掴んで亜依が持ってきた。
「可愛い」
ウサギの頭を撫でた。
フワフワとした手触りが、自分の持つぬいぐるみとは全然違うな。と、亜希は思う。
目の前に居る双子は、自分と同じ顔をしていても、生活水準がまるで違う。
他人から三つ子の様に見えたとしても、姉妹間の『ランク』は自分が一番下だろう。
そう、考えた。
本当に、仲良くなれるだろうか…。
不安が掠める。
次、遊んだ時にボロが出て、呆れられないだろうか。
じっと双子を見た。
よく見れば、ホクロの位置や、前髪の別れ方、旋毛の数も亜希とは違う。
「あ、そうだ」
亜依がウサギを亜希に渡し、立ち上がった。
そして、この部屋に有る四つ目のドアを開けた。
中はウォークインクローゼットになっていて、服が何着も吊るされ、その下には幾つもの引き出しが並んでいた。
「着せ替えごっこ!しよ!」
同じくらいのサイズでしょ?と、ポンポンと手に取っていく。
ワンピースに上下セットの余所行きの様な服。
発表会で着ていきそうな、リボンやフリルに飾られたドレス。
着た事の無い服が、亜希の目の前に積まれていく。
「良いわね!」と、悠衣も亜依の横に立ち、これなんかどう?と二人ではしゃぎながら持って来る。
「三枚同じのが無いのが残念ね」
「今度、お母様に頼みましょう」
二人は良い考えだと亜希を置いて話を進めていく。
「三つ子のお揃いは絶対!絶対可愛い!!」
亜依が興奮の眼差しで、亜希に服をあてた。
「何か…似た様なの無いかしら…」
口に手を当てながら真剣に選ぶ悠衣。
その二人に中てられて、亜希は不安が飛んだ。
…良いや。
私が「同じ」に成れば…一緒に居れる。
家の格は追い付く事は不可能。
だが、自分自身を恥じない様に向上させる事は出来る。
この二人と。
亜依と悠衣、二人と一緒に居られる様に…頑張ろう。
亜希はそう決心した。




