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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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58/73

4

「さぁ。遊びましょう!」


亜依が生き生きと言った。


「何をして遊ぶ?」


嬉しそうな亜依を、仕方が無いなと言う目で見ながら、悠衣が声をかけた。

亜希は自分の部屋とまるで違う二人の部屋に、口を開けて固まっていた。


お…お姫様の部屋だ。


壁には等間隔で絵が飾られ、窓には光沢のある紺色のカーテンが左右に束ねられ、白いレース越しに一番星と微かな夕焼けが見えた。

床は一面に灰色で毛の短い絨毯が敷かれ、中心に複雑な模様の円形ラグが敷かれていた。

上にはシャンデリアが浮かんでいる。


「絨毯の上に…絨毯?」

「?…ラグの事?」


ラグを知らない亜希は思わず声が漏れた。

それに、悠衣が答える。


「ラグ?」

「ええ。ラグと言う敷物」


床に…絨毯があるのに…その上に敷くの?

カーテンも何重にもなってるし…。


「あの上のは…何…?」

「バランスカーテンの事?」

「バランスカーテン…」

「そう。飾りを付けてカーテンレールを隠してるの」


微笑む悠衣の言う通り、等間隔にたゆみを何個か作られた布は、カーテンレールを隠している。

その束ねられた場所には、星型のキラキラした物が吊るされ、この部屋を豪華にしていた。


「他に気になる事は?ある?」


悠衣の言葉に、亜希は見知らぬ物を触れない様にしながら聞いて行く。

あれやこれやと、問答している二人の後ろを亜依は浮かれた足取りで付いて行った。


「ねぇ」

「何?」

「…あなた達どこで寝てるの?」


よく見るとテーブルや椅子、ソファが有ってもベッドが無く、布団を入れる押し入れの様な物もない事に気が付いた。


「寝室よ」

「寝室?」

「こっち!」


やっと二人の会話に入れた亜依が、自分の役目が出来たとばかりに手を取る。

案内された壁には、ドアが二枚並んでいた。

薄ピンクのドアと茶色い普通のドア。


「こっちが私。こっちが悠衣」


そうだろうな…。と、亜希は思う。


「どっちに入ってみたい?」

「え…あ…ん―」


亜希は返答に困った。

亜希は友達の部屋に入る事は有っても、こんな部屋の作りでは無く、選ぶ事が無かったのだ。


「どっちでも…」


キラキラした目の亜依が、自分の部屋を選ぶのは分かり切っていた事だった。


「す…凄い」


目の前に広がる薄ピンクと濃いピンクの世界。

フワフワリボンとキラキラした装飾の窓。

壁はもちろん、机やクローゼットの扉までピンク。


「…落ち着かない…でしょ?」


悠衣が呆れたように言った。

同感だと亜希は思ったが、羨ましくもあった。


姉との部屋は…私の好きな色なんて無かった。


一華の好きな色で揃えられたあの部屋を思い出す。

一欠けらの良い思い出も無い。悪夢の部屋。

そんな部屋でも、ここまで一色では無かったな。と、亜依の拘りを感じた。


「見て!」


亜依が開け放ったクローゼットには、色とりどりのぬいぐるみが、所狭しと詰まっていた。


「可愛いでしょ!」


ピンクに囲まれた中に、ぎゅうぎゅうに詰まったぬいぐるみ。

その前で笑う亜依は、幸せそうで…自己肯定力が高いのが一目でわかる。


拒否や否定された事が無い。んだろうか…。

それにしても…服は…?


ぽかんとする亜希の横で、ため息が聞こえた。


「次、私の部屋ね」


そう言って、亜希の手を握り悠衣は踵を返した。


「まってー!」


クローゼットを慌てて閉める亜希の声と音が、後ろから聞こえた。

悠衣の部屋は「普通」だった。

凄く広い、普通の部屋。


ただ、物は良いはずだったが…適度に白とオレンジ色が混ざった部屋に、亜希は「一華の部屋」を感じてしまった。


「…」

「どうしたの?…亜依!誰か呼んできて!」


亜希の青ざめた顔を見た悠衣は、声を張り上げた。


「どうしたの…?」

「いいから!早く!」


揺らぐ亜希を支えながら自分の部屋のドアを閉め、紺色の部屋の椅子へ座らせた。


「亜季!大丈夫?」

「…ん…平気…」

「震えてる…じゃない…」


悠衣の眉毛が下がる。

震える亜希の手が冷たくなっていた。


「何か…嫌いな物があった?」

「…」

「教えて?」

「…」


亜季にはどう言って良いか分からなかった。


知り合ったばかりの人間に話す事じゃ…ない。

…それとも、よく知らない相手だからこそ話しても大丈夫なのだろうか?


不安と心配を浮かべる自分と同じ顔。


「…秘密…」


震える手を唇に持って行く。

先程二人がした様に。そして、微笑んだ。

亜希の精一杯の強がりだった。


「…何言ってるの…」


悲し気な声が悠衣から発せられると、悲しませる気じゃなかったのにな。と、亜希は少し後悔した。


「もし…いつか…仲良くなったら…言える様になったら…」


聞いて。と、悠衣に補足する。

悠衣が黙って頷くと、部屋に手伝いの女性を連れた亜依が入って来た。


「連れて来たよ!」


丁度、お茶を運んでいた女性は、すぐさまカップに注ぎ差し出した。


「宮木様、どうぞ」


亜希は仄かな甘みと暖かさで、落ち着きを取り戻す。


「ありがとうございます…」


カップの中は、亜希の好きなミルクティー。それも、好みの甘さだった。

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