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「さぁ。遊びましょう!」
亜依が生き生きと言った。
「何をして遊ぶ?」
嬉しそうな亜依を、仕方が無いなと言う目で見ながら、悠衣が声をかけた。
亜希は自分の部屋とまるで違う二人の部屋に、口を開けて固まっていた。
お…お姫様の部屋だ。
壁には等間隔で絵が飾られ、窓には光沢のある紺色のカーテンが左右に束ねられ、白いレース越しに一番星と微かな夕焼けが見えた。
床は一面に灰色で毛の短い絨毯が敷かれ、中心に複雑な模様の円形ラグが敷かれていた。
上にはシャンデリアが浮かんでいる。
「絨毯の上に…絨毯?」
「?…ラグの事?」
ラグを知らない亜希は思わず声が漏れた。
それに、悠衣が答える。
「ラグ?」
「ええ。ラグと言う敷物」
床に…絨毯があるのに…その上に敷くの?
カーテンも何重にもなってるし…。
「あの上のは…何…?」
「バランスカーテンの事?」
「バランスカーテン…」
「そう。飾りを付けてカーテンレールを隠してるの」
微笑む悠衣の言う通り、等間隔にたゆみを何個か作られた布は、カーテンレールを隠している。
その束ねられた場所には、星型のキラキラした物が吊るされ、この部屋を豪華にしていた。
「他に気になる事は?ある?」
悠衣の言葉に、亜希は見知らぬ物を触れない様にしながら聞いて行く。
あれやこれやと、問答している二人の後ろを亜依は浮かれた足取りで付いて行った。
「ねぇ」
「何?」
「…あなた達どこで寝てるの?」
よく見るとテーブルや椅子、ソファが有ってもベッドが無く、布団を入れる押し入れの様な物もない事に気が付いた。
「寝室よ」
「寝室?」
「こっち!」
やっと二人の会話に入れた亜依が、自分の役目が出来たとばかりに手を取る。
案内された壁には、ドアが二枚並んでいた。
薄ピンクのドアと茶色い普通のドア。
「こっちが私。こっちが悠衣」
そうだろうな…。と、亜希は思う。
「どっちに入ってみたい?」
「え…あ…ん―」
亜希は返答に困った。
亜希は友達の部屋に入る事は有っても、こんな部屋の作りでは無く、選ぶ事が無かったのだ。
「どっちでも…」
キラキラした目の亜依が、自分の部屋を選ぶのは分かり切っていた事だった。
「す…凄い」
目の前に広がる薄ピンクと濃いピンクの世界。
フワフワリボンとキラキラした装飾の窓。
壁はもちろん、机やクローゼットの扉までピンク。
「…落ち着かない…でしょ?」
悠衣が呆れたように言った。
同感だと亜希は思ったが、羨ましくもあった。
姉との部屋は…私の好きな色なんて無かった。
一華の好きな色で揃えられたあの部屋を思い出す。
一欠けらの良い思い出も無い。悪夢の部屋。
そんな部屋でも、ここまで一色では無かったな。と、亜依の拘りを感じた。
「見て!」
亜依が開け放ったクローゼットには、色とりどりのぬいぐるみが、所狭しと詰まっていた。
「可愛いでしょ!」
ピンクに囲まれた中に、ぎゅうぎゅうに詰まったぬいぐるみ。
その前で笑う亜依は、幸せそうで…自己肯定力が高いのが一目でわかる。
拒否や否定された事が無い。んだろうか…。
それにしても…服は…?
ぽかんとする亜希の横で、ため息が聞こえた。
「次、私の部屋ね」
そう言って、亜希の手を握り悠衣は踵を返した。
「まってー!」
クローゼットを慌てて閉める亜希の声と音が、後ろから聞こえた。
悠衣の部屋は「普通」だった。
凄く広い、普通の部屋。
ただ、物は良いはずだったが…適度に白とオレンジ色が混ざった部屋に、亜希は「一華の部屋」を感じてしまった。
「…」
「どうしたの?…亜依!誰か呼んできて!」
亜希の青ざめた顔を見た悠衣は、声を張り上げた。
「どうしたの…?」
「いいから!早く!」
揺らぐ亜希を支えながら自分の部屋のドアを閉め、紺色の部屋の椅子へ座らせた。
「亜季!大丈夫?」
「…ん…平気…」
「震えてる…じゃない…」
悠衣の眉毛が下がる。
震える亜希の手が冷たくなっていた。
「何か…嫌いな物があった?」
「…」
「教えて?」
「…」
亜季にはどう言って良いか分からなかった。
知り合ったばかりの人間に話す事じゃ…ない。
…それとも、よく知らない相手だからこそ話しても大丈夫なのだろうか?
不安と心配を浮かべる自分と同じ顔。
「…秘密…」
震える手を唇に持って行く。
先程二人がした様に。そして、微笑んだ。
亜希の精一杯の強がりだった。
「…何言ってるの…」
悲し気な声が悠衣から発せられると、悲しませる気じゃなかったのにな。と、亜希は少し後悔した。
「もし…いつか…仲良くなったら…言える様になったら…」
聞いて。と、悠衣に補足する。
悠衣が黙って頷くと、部屋に手伝いの女性を連れた亜依が入って来た。
「連れて来たよ!」
丁度、お茶を運んでいた女性は、すぐさまカップに注ぎ差し出した。
「宮木様、どうぞ」
亜希は仄かな甘みと暖かさで、落ち着きを取り戻す。
「ありがとうございます…」
カップの中は、亜希の好きなミルクティー。それも、好みの甘さだった。




