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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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57/75

3

宮本家に着いた亜希は、自分の考えの愚かさに打ちひしがれた。


…私、あほだ。


目の前の大きな門がゆっくりと開き、車がそこへ入っていく。

向かうのはその門の中に有る大きな家。


こんな所に住んでいる人間が、私みたいなのを誘拐なんて…しない。


車から降りると、広いエントランスに通された。


「お帰りなさいませ」


亜依よりかは幾分か、質素な服を着た女性が頭を下げた。


この人は…お手伝いさんと言う人なのだろうか。


亜希は家の大きさや広がる空間に、目を白黒させ、「質」と言うモノを初めて知った気がした。


二階から緩やかに曲がりながら下りている階段は、絵本や映画で見るお姫様が降りてくるそれにしか見えず、天井は亜希が何人肩車をしても届かない。

その上、目が眩む程キラキラしている照明が吊るされていた。


丁度、亜希が階段の上を見た時、二階から人が降りて来た。

亜依が着ている薄ピンクのワンピースよりも、やや装飾が少なめのブルーのワンピース。


「お帰りなさい、亜依」


目の前に立つ人物も、自分に…亜依にそっくりだった。


「初めまして、悠衣です」


身長も体型も、何もかもがそっくりな三人が、エントランスに集まった。


「三つ子…」


思わず声を漏らしたのは、お手伝いの女性だった。


「えぇ。本当にそうね。三つ子みたい」


嬉しそうに亜依が言う。


「服が違ったら…お母様達でも分からないかも…」


亜依より落ち着いた口調で話す悠衣。

どちらかと言うと、自分に近いのは悠衣の方だな。と、亜希は思う。


「会わせて見ましょ!」


良い考えだと言わんばかりに、亜依は亜希の手を引いて二階への階段を上がった。

戸惑いながらも付いて行く亜希は、自分の足音が絨毯に吸収されて聞こえない事に気が付いた。


絨毯…学校とかにしか敷かれない物だと…思ってた。


自分の家にはもちろん、友達の家にも無かった。


これあれば、あの人に怒られないんだろうなぁ…。


父親は少しでも足音がすると怒鳴る。

酷い時にはリビングに有る椅子を、投げつけて来た。

亜希は気を抜くと足音が出てしまうが、姉はもう忍者の様に足音が無い。

外で砂利の上なら居ると分かるが、平たんな道ではしない為、よく後ろに居る事に気付かず驚かされた。


ここなら…気にせず過ごせそう…。


絨毯を感じる足の感触に、靴のまま上がっている事に気が付いた。


「あ…靴…」

「大丈夫、二階から靴を脱ぐのよ」


後ろから悠衣が声をかけた。

その言葉通り、二階に着くと「普通」の家の様に上り框があった。


「さ、上がって」


二人は靴を脱ぎ、靴を揃えてから、横に有るスリッパを履いた。

亜希にそんな動作は出来なかった。


いつも、揃えるくらいはした。

脱ぐ時に…後ろを向いて脱ぐ…ただそれだけ。


散らかりはしないが、美しくもない動作。


どうしよう。見よう見まねで…した方が…いい?


「あぁ…靴なんて気にしないで。お客様なんだから」

「早く!早く!」


優し気に微笑む悠衣と、急かす亜依が左右から手を差し出す。

だが、お言葉に甘えて…とは、亜希はしなかった。

きちんと見様見真似ではあったが、双子に倣って揃えスリッパを履く。


それを見た双子の目が細くなる。

二人の思惑など知らない亜希は、その後も二人の後を付いて行った。


コンコンコン


重厚な扉の前で三人は立ち、悠衣がノックした。

中から返事が微かに聞こえた。

男の人の声だった。


「失礼します」


頭をやや傾けながら、部屋に悠衣が入った。

それに続けて、亜依が入り、最後に亜希が入る。


中に入った亜希は、校長室の様だと思った。

転校初日に思わぬ形で入ったあの場所。

机には校長ではなく、母親と同じくらいか少し上くらいの女性が座っていた。


…怖い。けれど…似てる。


女性は双子と似ている。

その横に立っている男性は、似ていなかったが、どこかで見た覚えがある様な気がした。


「あ…」


思わず声をあげた。


「この子が…そうね?」

「はい、奥様」


女性の声に頭を下げて応える男性は、亜希が自転車に乗れず一華に叱責されていた公園で、亜希に自転車の乗り方を教えてくれた男だった。

亜希は、それに気が付いた。


「あの、あの時はありがとうございました」


お礼を言って頭を下げる。

しばらく沈黙が流れた。


…どうしよう…今言う時じゃなかった…?

それとも…人違い?


下げた頭が上がらない。

床の上のふんわりとしたスリッパに、亜希の視線が行く。


「お母様、この子を夕食に招待したいの」


沈黙を破ったのは悠衣だった。

漸く顔を上げられた亜希は、女性と男性、双子を見る。


「えぇ、構わないわ。夕食まで部屋で遊んでらっしゃい」


怖かった空気が和むのを、亜希は感じた。


「良かった。合格ね!」


亜依が満面の笑みを浮かべる。


「では、また後で」


悠衣がそう言って、退室するのに連れられて、残りの二人も軽くお辞儀をして出て行く。


「ねぇ…何が…合格なの?」


前を歩く二人に亜希は問う。


「「秘密」」


双子はリンクして居るかの様に、同時に唇に人差し指を当てた。

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