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亜依は、マジマジと観察する様に亜希の全身を眺めた。
「間島が言ってた通りね」
納得したように頷くが、もう一段顔に顔を近づけた。
「あら、でも…あなた大おばあ様と一緒の所にホクロがある…」
目を見開いて嬉しそうに言う、自分と瓜二つの女の子。
髪色や目の色、輪郭も目鼻の位置もこれ程までに似ている人間は会った事がない亜希は、ただ愕然としているだけだった。
しかし、亜希の方も祖母が亡くなり引っ越してからマシになったとは言え、服装の仕立てが雲泥の差だった。
格が違う。と亜希は思った。
それに、健康そうな肌色が違うだけでこんなにも印象は変わるのかと思う程、亜依の持つ雰囲気は明るく華やかで、自信に満ちていた。
「電話して」
後ろに居た男にそう声をかけると、男はハンドバックからトランシーバーの様な物を出した。
下部を開くと手を動かしているが、亜季からは何をしているのか見えなかった。
「ねえ。この後時間ある?」
あるには有るが、内には無い。
亜希はどう返答しようか迷った。
自分にそっくりとは言え、見知らぬ女の子。後ろには大人の男。
「怪しまないで。少しお話したいだけよ」
彼女がそう言うと、後ろの男は持っていたトランシーバーを彼女に差し出した。
「あ。もしもし?」
亜依はそれに話始める。
「うん、そう。会えた。うん。連れて帰って良いかな?」
行くとも言っていないのに。…逃げようか…。
逃げる方が良いかも知れないと、その場を離れようとした亜希の進路方向を塞ぐように男が移動した。
それに気が付いたのか、亜依は亜希の服を掴んだ。
逃げられない。
…いや、誘拐された方が…帰らなくて済む?
逃げる事を止め、その場で亜希の通話が終わるのを待った。
「ごめんね。悠衣に報告しておいたの」
「悠衣?…えっと今のトランシーバーで?」
「トランシーバー?あははは、あれ携帯電話!知らない?」
「知らない」
「そっか。まだ持ってない人多いものね」
差し出された物を見ると、トランシーバーにしか見えない。
「ここを開いて…番号を押すと、繋がるわ。家に電話する?」
「親は…今日は帰って来ないと…思う」
「じゃあ、他の兄弟は?居る?連絡しておく?」
兄も今日は帰らないだろう。残っているのは姉だけ…。
一華に電話して「帰らない」などと言う事が果たして自分に出来るだろうか。と、亜希は考えた。
しかし、連絡しないで遅くなるのは…どうお仕置きされるのか分からなくて怖いのだ。
「…こういうのって大人がかけた方が良いのよね!」
グジグジと悩んでいる亜希に、何かを察したのか亜依は携帯電話を男に渡した。
男は機体を持ちながら、ボタンが並んだ所を亜希に向けた。
「あなたの家の番号押して?覚えてる?」
「覚えてるけど…」
「大丈夫よ。今日は…泊りね!泊まるからって伝えさせましょ」
有無を言わさない強引さがあったが、それに慣れているのか男は諫める事も無く、亜希に差し出したまま動かなかった。
家の電話番号を、順にボタンを一つ一つ押していく。
これで…電話がかかる?
亜希はダイヤル式の回す電話機しか、知らなかった。
いや、ボタン式が出ている事は知って居たが、使った事が無い。
スピーカーから飛び出している音が流れると、男は耳にそれを当て離れて行った。
…誘拐しました…とか言わないよね?
亜希の顔が少し青ざめた。
口車に乗って、自宅にかけてしまった。
身代金を要求されたら…どうしよう。家、お金ないのに…。
見るからに裕福そうな亜依を目の前に、要らぬ心配を亜希はし始めた。
「変な事考えてない?大丈夫?」
青ざめる亜希に、亜依が笑う。
「さ、車に行こう!」
手を引く亜依に、ますます亜希は恐怖心が来る。
彷徨っていた道からすぐ近くの公園に行くと、大きな車が見えた。
あぁ、やっぱり…。
誘拐する為の大きな車。だと亜希は思った。
だが、車はワゴンやよく見る家庭用のタイプではなく、高級車と言う名にふさわしい美しさと重厚さを持ったベンツがそこに止まっていた。
それでも、知らない車に亜希は「怖い」としか思わない。
先程とは違う老年の男が、ドアの前に居た。
二人の姿を見ると恭しくドアを開け、上半身を斜め30度の角度にして止まった。
「さぁ、一緒に私の家に行きましょう?」
手を引く亜依が乗り、亜希は車内に引っ張り込まれる。
二人が乗り込んだのを確認し、ドアが閉められた。
窓から見えた運転席へ移動する老年の男の顔は、優し気でとても「紳士」と言う漢字が当てはまる人物に思えた。
「出して」
亜依の言葉で、車は宮本家へ発進する。




