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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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「ねぇ。田辺先生覚えてる?」


次の日学校へ行くと、可奈子に声を掛けられた。


「四年の時の担任?」

「そう。…昨日亡くなったのが分かったって」

「え、なんで?事故?」

「…テレビ、速報見てない?」

「昨日の速報は見たけど…保育士の人だったって」

「もう一人出てたの。…小学校教師の田辺って」


田辺先生の下の名前は何だったっけ。と、可奈子の話をよそに考えたが、出ては来なかった。


「本当に田辺先生なの?」

「うん…多分。田辺敦って書いてあったし、年齢も一緒だと思う」


少し自信が無くなって来たのか、勢いが緩んだ。


「それにしても…物騒ね…昨日、スーパーの横の公園で発見されたのが先生…なのかな」


一華がため息を吐いた。


「…発見されたの女の人らしいよ」


横から三笠が会話に入ってきた。

中学生になってから、初めて話した気がする。と、可奈子と二人で顔を見合う。


「久しぶり。…たな先の名前が聞こえたからさ…」


その横に居た村上も入って来た。

この二人は小学校でも中学校でも一緒に居る。

その彼も暗い顔をしていた。


「久しぶり…。本当に田辺先生亡くなったの?」

「今朝母からもそう聞いた」


村上は一層表情を暗くし、俯いた。


本当…なんだ。


一華は驚きはしたが、そこまで悲しくは無かった。

あまり思い出せない所為もあるが、身近な人間の死に実感が湧いていない。


その日も朝礼が行われ、当分の間部活中止となった。


「亜里沙に返事できないな」


帰宅の道すがら、部活が無い事の残念さを抱え、余った時間を何に当てるか考えた時に過った。


まぁ…また、部活始まったら話そ。


やるやらない、どちらでも良い一華は亜里沙のクラスまで行く気は無かった。

鼻歌交じりで家に帰る一華は、二日後に行われた葬式で彼女に会う。


暗い雨の中、祖母の葬式を思い出しながら参列する一華は、泣きはらした目をした亜里沙の両親に、心が痛んだ。

クラスメイトはもちろん、部活で一緒の子達もハンカチを手に並んでいる。


「なんで…」


通り魔か怨恨か、捜査はされているが…犯人特定に時間がかかっていた。


黒崎先生、田辺先生、亜里沙。


母親に黒崎が和雄の園での副担当だったと聞き、顔を思い出していた。

三人共、他殺。

しかし、共通点はこの街の住人だと言う事しかなく、殺害の手口も皆それぞれバラバラだった。


ハンカチで目元を拭いながら、顔を上げると亜里沙の家の門の前で亜希が立っているのが見えた。


何で…ここに?


どうして居るのかと、問う為に側へ行こうとしたが、亜希はふいっと去って行った。

前をたまたま通ったのだろう。そう、思ったが今はまだ亜希は学校の時間だった。


帰ったら叱らなきゃ。


しかし、家に帰っても亜希の姿は無かった。

代わりに母親が、喪服姿でリビングのソファに座っていた。


「おかえり」

「ただいま…お母さん」

「立て続けに…嫌な感じね」


母親はため息と共に白い煙を吐いた。


母がリビングで煙草を吸い始めたのはここ2、3年の事。

亜希の喘息が治まり、水泳を辞めた後から。


「お母さんも…行って来たの?」

「えぇ…知り合いの…ね」


母の顔色も悪かった。二人して知り合いを亡くすとは、思っても見なかった。どんな関係の人かとは、聞かなかった。知ってるし。お父さんにバレる前で、良かったじゃない。なんてのも…。


両親共に不倫をしていた事を、一華は知って居た。

母の引き出しの、ぐしゃぐしゃになった期限切れの招待券の事も。


「亜希は?」

「まだ学校でしょ」


一華は亜希が学校から抜け出て、亜里沙の家の前を通っていた事を告げ口しようかとも考えた。

が、止めた。

そんな事をしても、今の母親には流されるだけなのは目に見えている。


「そう」

「…物騒な…世の中ね…」


一華への言葉ではなく、ただ只管口から漏れ出る言葉だった。


「殺される…なんて…」


一華の胸がドキッと、強く音を立てた。


「え、お母さんの…知り合いも…殺人なの?」

「えぇ…そう。…身近な人が殺されるなんて…遠い話だと…」


母親は嗚咽を漏らし始めた。顔を押さえる両手に、涙が伝う。

何も言えなくなった一華は、自室に戻ると床にしゃがみ込んだ。


なんで、全員…知ってる人なの?


「ただいまー」


下から亜希の声がした。

部屋のドアを開けると、丁度亜希が階段を上がって来ている。


「亜希…あんた亜里沙の家の前に居なかった?」

「今、学校から帰ったけど?」

「そう…あんたに似た人を見たから…」

「私に?」

「うん」

「へー」


軽い口調で、亜希は亜希の狭い部屋…元々は大きめの押し入れだった所に入って行った。


「あ、いっちゃん!」


一華が自室のドアを閉める前に声がかかる。


「何?」

「えーっと。この度はご愁傷様でした」

「それ、亡くなった人の家族に言うものよ」

「そっか」


亜希はてへ。と舌を出して笑うと、顔を引っ込めた。

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