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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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「なあ、一華ちゃん。面白い事しよ」


中学校に上がった一華は、水泳教室を辞めていた。

代わりに、近所に新しく出来た有料の自習室に通っていた。

その帰り道、そう友達の亜里沙に声を掛けられた。


「面白い事って?」

「するって決めたら教えてあげる」


亜里沙は何かを企んでいる様な笑みを浮かべていた。

学校ではクラスが違った二人だが、部活動で一緒になり一華の「お眼鏡」に適った一人だった。


「えーどうしよっかなー」


ワザとらしい笑みと仕草で返事を渋るが、一華は亜里沙の言う「面白い事」が何か、見当がついていた。


どうせ、万引きでしょ。


内心鼻で笑う。

噂とは本人を擦り抜けて、その側に居る者に良く届くのだ。

例えば、その内容が悪ければ悪い程「正義の使者」が現れる。


「んー考えとく!あ、私ここ右だから!」

「はーい。じゃ、また決めたら教えて!」

「うん!」


二人は笑顔で手を振り合い別れた。


また、始めるのも…悪くは無い…かな。


鞄を持ち替えて、一人歩きながら考える。

昔、幼少期にした事が「盗み」だと一華は知って居た。

それに、小学生の時にきっかけは何だったか忘れたが、一時期クラスの子とやっていた。


亜希も仲間にしてやってたっけ。


今は家ですら挨拶もしない、一週間に何度か口を利くくらいの妹を思う。


昔は母の日にお母さんにプレゼントとか、一緒にしてたくらい仲良かった筈なのに。


一華は不確かな記憶を探った。

いつからか、物事…特に昔の事を忘れているようになった。

母親に聞いても「忘れるもの」だと言われ、そんなものかと納得した。


なので、一華の中で母親からの暴力はいつしか「躾けの為に必要だったモノ」になり、父親の怒鳴り声や暴れる姿は「不器用な性格」に変わる。


何を考えているか分からない…高校に入ってから家出をして、ほぼ帰って来ない兄の事も「思春期特有の反発」と言う事に落ち着いた。


亜希の事は…「変な奴。変な異質物。出来る限り関わりたくない」そう、変化していた。


バレンタインにクラスの男の子よりもチョコレートを貰って帰って来る妹。

友達から「女の子と付き合っている」とも聞いた。


気持ち悪い。男みたいな女。


兄が帰らなくなって、一人部屋に変わった時にも亜希との同室を拒んだ。

一緒にされるなんて、気持ち悪い。と、拒絶した。


でも、お姉ちゃんだから。

面倒見なきゃいけないのよね。


と、ため息を吐いた。

洗濯物も晩御飯も、親はほとんどしない。


小学校の時に朝食を作らされて居た。

その後、兄が要らなくなってから作らなくて良くなった。

けど…。


家に着くなり、一華は冷蔵庫を開ける。


「あー。そんなに材料ないなー」


開けただけで中身の無さが分かる冷蔵庫を、さっと見回し頭の中で今日の晩御飯の献立を考える。


「なんでもいいか…」


そうは言いつつ、肉を使わない献立を頭で組んだ。

亜希はもう一切れも肉を口にしない。

牛肉も豚肉も…鶏肉すら口にしない。


「選択肢が狭まるなあ…」


牛乳も、何かを混ぜないと飲めない。

ゼラチン質の物も…。


一度無理やり口に突っ込んだが、目の前で吐かれて困った。


「昔は…一応食べてたのに」


ご飯の時間を思い出そうとするが、壊れたテレビの様にノイズが掛かって思い出せない。


「ま、いっか」


冷蔵庫の前からリビングに移動すると、テレビの前に座る。

一度座れば立ち上がり、何かをする気に成れなくなるのは分かっていたが、座りたかった。


「どうしようかな…」


頭の中で調味料や残っていた食材を組み合わせ、その間にテレビを付けた。

今の時間は、夕食のメニュー用の番組が流れているはずだ。


玉子と…玉子は食べれるのよね。


画面に映るかき回される卵を見て、オムライスでも良いかと思った時だった。

緊迫した音と共に、画面上部に緊急ニュースが表示された。


『今日未明、発見された死体の身元が判明』


「あ、今朝の…」


死体が発見されたのが、家の近くだった所為で、急遽朝礼が行われた。

一華は校長や指導教員の、話の長さに辟易していた。


「あれ、誰か分かったんだ」


『黒崎隆也36歳、保育士の男性と判明』


緊迫した音と共に、何度もその名が浮かび点滅する。


どっかで…見た様な…聞いた事のある名前。保育士…保育士か…。


自分が通っていた園を思い出そうとするが、保育士達の顔が思い出せない。

通わなくなって何年も経ってるので無理は無いと諦め、テレビを消すと買い物に行く為に準備をし始めた。


「でも…何か…気になるなぁ」


制服から私服に着替え、外に出るとパトカーが何台か前を通って行った。


「またなんか、あったのかな?」


近所の主婦たちが道に出て、あれやこれやと囁き合っているのを、会釈をしながら横切ろうとした。


「一華ちゃん」


呼ばれて振り向くと亜希が立っていた。


「あ…私、買い物行って来るから…」

「さっきスーパーの横の公園で死体が発見されたらしいから、行っても通れないかも」

「え!またぁ!?」


一華の驚きに静かに亜希が頷いた。


「今日の晩御飯…どうしよ」

「私、着替えたら友達の所に行くから。ご飯も食べてくるし一華ちゃんだけご飯家で食べて」

「…分かった」


せっかく、亜希に合わせた物をと考えていたのに。そう考えたが、口には出さなかった。

親が帰らない日に、亜希は友達の所へ行く。

まるで、一華を避ける様に。


家の中へ消える亜希の後ろ姿。


もう、私の背とほぼ変わらない。

中学になる頃には…もしかすると追い抜かされる。


「じゃ」


入れ違いに亜希は家を出て、自転車に乗って去って行った。

一華は家に入ると、鞄を投げ捨て再度テレビを付けた。


なぁんだ…。


見ている様で見ていない画面の上部には、先程とは違う人間の名前が、緊迫した音と共に点滅していた。

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