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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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一華が目を覚ました時にも、兄は帰って来ていなかった。

彼女にとってそれは幸いの事で、巻き戻しの出来ていないビデオテープも崩れて床に広がった本も、片付け証拠隠滅を図る事が出来た。


もしも、ここで兄に見た事がバレていたとしても、当人達が叱られる事は無いのだが、一華は元に戻せた事に心底安心した。

片付けながらも、漫画をたまに読む。


私には男の子の「アレ」が無い…。


目の前に有る如何わしい物に対する嫌悪感は、好奇心に変わっていた。

そして一華と亜希は、両親が居ない日、そして兄が帰らない日の夜に「遊び」をする。


大抵は土曜日だったが、朝母親が「夕飯食べといて」と言い残す日は、父親も兄も帰って来なかった。

母親の言葉に反射的に反応していた亜希も、いつしか受け入れたように一華の求めに応じた。


「一華ちゃん、今日一緒に帰ろう」


水泳教室の友人である早苗に、亜希と二人で帰ろうとすると声を掛けられた。


「良いよ。あ、でも…妹も一緒だけど」


断る理由もない一華は笑顔で承諾するが、ちらっと横に居る亜希を見た。


「うん。妹ちゃんも一緒に…後、二人も…」


早苗の横にいる葵と久実も一緒に帰る様だった。

亜希と一華は自転車だが、三人は駐輪場に来なかった。


「…どうやって一緒に帰るんかな…」


亜希がぼそっと聞いてきた。


「三人と別れるまで歩けば良いんじゃない?」


そう言って、一華は自転車を押しながら歩道を歩いた。

亜希は自転車に跨り変な乗り方のまま、その横をつま先で動いている。

視線の先あるコンビニの中に三人が居た。


三人は最近買い食いをしているらしく、帰り道のコンビニで薄い肉の入った安っぽいバーガーを買い、レジで温めて貰っていた。


「私も買ってくる」


一華は店先に自転車を置くと中に入り、三人に声をかけた。

亜希はそんな四人を待って居た。


和気あいあいと四人が店から出て来て、歩きながら食べ始める。

亜希はお小遣いを持っていない。

だから、一人だけ食べられずにいた。


「妹ちゃんも食べる?」


早苗が自分の食べているバーガーを差し出した。


「ここ噛んでないから」


そう言って包みを回し、自転車に跨る亜希の口元へやった。

亜希はちらっと一華を見たが、怒られないと判断したのか一口食べた。


「ふふふ」


早苗が頬を赤らめて笑う。

それを見た葵と久実が「私のも」と次々に差し出した。

亜希は一口ずつ食べるとお礼を言うが、口に物が入っている為、ぶっきら棒な感じにモゴモゴとした。


「ふふ、楽しい」


三人は亜希に餌付けしながら楽しそうだった。


「一華ちゃんの妹ちゃんって、男の子みたいね」


亜希の相手を葵と久実に譲った早苗が、一華の隣に来て言った。

高い所で一つ括りに結ばれた髪が、早苗の顔の横から揺れて見える。

同じ年のはずなのに、自分の髪が下の方でしか結べない自分とは違って、器用で羨ましかった。


「そう?」

「うん。旋毛も二つあって…前髪が漫画の主人公みたい…それに…」


早苗は亜希の方を眺めた。


「髪の毛は薄茶色いのに目が真っ黒で…カッコいい」


確かに自分たちの周りの人間は薄茶色かこげ茶で、亜希の様な真っ黒と言える目は珍しかった。

一華の目はこげ茶で、薄い茶色の目にも憧れていたが、亜希の目も羨ましかった。


「お父さんかお母さんが黒いの?」


家族の中でどの色の目が多いか、一華は聞かれた。


「亜希だけ黒いかも。おじい…祖父は両方あったこと無いから分からないけど、父の方の祖母は私と似た感じかなぁ」


水泳教室に通い始めてから、使う言葉に気を付けてはいるが「おじいちゃん、おばあちゃん」と言いかけて、慌てて訂正する。

教室に来ている子達は皆、自分より器用だったり頭が良かったり、しっかりしている事を知り追い付こうとしていた。


やっぱり、習い事は大事。


学校だけでは、ぬくぬくとした中で「おこちゃま」の言葉遣いが抜けなかった。と、そう、痛感していた。


「私の家族もそう」


早苗はさも羨ましいと言う感じで、亜希を語る。


「一華ちゃん良いなぁ」

「なんで?」

「亜希君が妹で」


亜希君?


「あ、…妹ちゃんの事、皆勝手に亜希君って陰で呼んでるの」


口が滑ったと、両手で口を押さえながら早苗は謝る。


「勝手にごめんね」

「ううん。亜希も…知らないと思うけど、良いんじゃない?」

「…本人も許してくれるかな?」

「…呼んでみたら?」


胸の奥がざわざわとする。


一華は平素を装いながら、こみ上げてくる不快感を抑え込もうと試みた。

目の前では、まだバーガーの包みを差し出している葵が居て、久実のバーガーを食べ切った亜希が居た。


「亜希君!」


手を振りながら早苗が三人の方へ走って行くと、自転車を押す一華は一人その場に残された。

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