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何か映画とかなら良いな。
名作劇場やアニメはリビングのテレビで見られたが、子供向けではない映画は祖母が部屋に引きこもる様になってから長年見ていない。
祖母が死んでからも、リビングで付けると消されてしまう。
アニメですら暴力的なシーンがある物は禁止され、クラスの男の子たちが話す内容に付いていけなかった。
女の子と話すから良いけどね…。
あれだけ祖母が気ままに流していたのに、今更だとは思う。
母親なりの考えがあるのだと思ってはいたが、隙があれば一華は見たかった。
「あの曲も…何か知りたかったな…」
頭に残っている綺麗な曲。
父親が暴れ、大人たちが取り押さえていた…あの時に流れていた。
「あれだったら…良いなぁ…」
兄自身、曲を聴いている余裕など無かった筈だが、自分よりも大きかった兄が懐かしさで借りてきているかも知れない。
中学生の兄はレンタルショップで借りる事が出来るのだから。と、一華は可能性を考えていた。
テープにはタイトルも、レンタルショップのケースも無いのに。
再生され始めた映像には、男女が映り始めた。
よく分からない部屋の中、二人はベッドの横でキスを始めた。
「ラブストーリー?」
無口な兄がロマンチストだとは思っていなかった。と、一華は笑う。
出てくる男女に見覚えも無く、駆け出しのタレントか何かがモブで出ているのか。と、一華は不満げだった。
「カッコ良くも可愛くもない…」
冒頭のこの二人が惨劇に遭い、話が展開していく怖い話なのかもしれないと、希望を捨てずに見続けた。
しかし、どれだけ流れても不穏な曲も雰囲気も無く、ただひたすら二人がキスを繰り返し、服を脱ぎ始めただけだった。
「何これ。面白くない」
肘を付きながら眺めるが、一向に二人以外の人物は映らない。
場所もベッドが一つあるだけの、面白みや目の引くものがある訳でもない部屋が映し出されているだけだった。
「これなら私のの…方が…」
時間の無駄かもしれないと、思い始めた直後、男が女の何も着けていない胸を揉み始めた。
「…!」
ここで漸く一華は気が付いた。
これが俗にいう十八歳以上しか見られない筈のビデオだと言う事に。
「これ…」
兄のいるクラスの男の子が言っていた。
『エロい事をしてんだぜ。チューしたり…』
興味津々の男の子達。
何の話をしているのだろうと、その輪に入ろうとして可奈ちゃんに止められた。
「映画じゃなくて…これが…」
以前住んでいた所の、田んぼの隅や誰も通らない雑草の生い茂った道に、そう言った本が捨てられているのも何度かは見ていた。
しかし、拾って中を見たりはした事がない。
大抵の物はいつもボロボロで汚く、触りたくもない風貌をしていた。
前の小学校でも嬉しそうに話している男子が居たな…。
と思い出し、何故これをそんなにも男が嬉しそうに見るのか、分からなかった。
だが、進むにつれて自分も食い入るように見始めていた。
男の手が女の胸を揉み、唇がその先へ這って行く。
赤い舌が舐めるのを細めた目で見る女を、上目で見る男。
その視線に気が付いたのか、顔が赤くなる。
息の荒くなっていく二人の情事を、第三者の自分が何故か見ている事に、酷く違和感を感じたが目が背けられずにいた。
二人の男女がやっている事…自分が亜希にした事だ。
亜希は泣いていたが、画面の女性は嬉しそうにしている…。
反対にとても…気持ち良さげだ。
一華はそう思った。
やっぱり。される側は気持ち良いんだ。
私が気持ち悪さを感じたのは、仲の良くないお父さんやお兄ちゃんが相手だったからで…。
ゆっくりと白い腹を通り、男のごつごつとした手が女の下着の中へ入って行った。
園長や保育士、小学校の先生たちが「大事な場所」と呼ぶその部分に、男は触れている。
この前の感触が、一華の指に蘇るようだった。
柔らかく、その奥に硬い骨。
くちゅっ…ぐちゅっ。
テレビから微かに濡れた物を動かす音がした。
女の口から吐かれる息が、激しくなるにつれて高い声が断片的に出ている。
画面には下着が捲れ、母親とお風呂に入った時に見た、自分や亜希とは違い大人には毛が生えている事を知り慄いたその場所が、動かされている手と共に大きく映し出された。
濡れた音を出しているのはここだと、主張するかの様に音が鮮明になり、一華は部屋の外まで聞こえないか、不安になった。
辺りを見渡すとその世界から出たように、囁き程度にしか聞こえていなかった。
「ふぅ…」
大きく深呼吸をして、またテレビに視線を向けると、目に入ったのは下着を全て取られた女のあられもない姿だった。
足を広げ、ハッキリとは見えないその部分を、男の指が出たり入ったりを繰り返す。
その度にテレビから出る小さな音量が女の声を流し、男の台詞を流す。
女に見える様に指を引き抜くと、男はそこに顔をうずめた。
観るを見るのままにしているのは意図的です。




