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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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週末が来てしまった。


一華は思惑通りにならない事を、心底恨めしく思う。


せっかく、亜希にする嫌がらせが思いついていたのに。


あの夜から同じことをしてやろうと思っていたが、亜希は逃げた。

自分より先に寝ては、自分よりも先に起きる亜希に手出しできていない。

その事を一華は悔しがった。


でも、お母さんと一緒の部屋でも…チャンスはある。


自分の部屋から亜希の物が消え、代わりに兄と自分の家具で部屋が仕切られていくのを、手伝いながらそう考えた。

週明けから一週間に二回の水泳教室も始まる。

その送り迎えは自分だ。

いくらでも虐める時間はある。と、考えれば考える程一華はワクワクした。


学校生活も順調。

家での憂さ晴らしも…順調。


ちらっと兄を見る。


この同室だけが…不満。


最近の兄は何を考えているか分からない。

以前も分かる気はしなかったが、最近は特に分からない。

中学校であまり()()()()()()友人が出来たのか、母親が頭を抱えているのを見る様になった。


この前、お金が無くなったっていってたっけ。


一華は少し笑う。


バレはしない。


部屋の端に寄せられた、自分の物の中に有る小さな缶に視線をやる。


お母さんも言ってたもんね。

『和雄が帰って来てから合わない事が』って。


実際、兄は良い隠れ蓑になった。

最初に兄が盗み、それよりも少額を盗む事で自分がしたとバレないで済んでいた。

何度か兄が見つかる様に仕向けたのも、一華だった。


小学校四年生にもなると、友達付き合いのお金が要るの。


悪びれもせずに、叱られ殴られている兄を見ていた。

兄が盗むタイミングに合わせ、次第に一華の額も上がって居ていたが「知らないか?」と聞かれたのはこの間の一度だけ。


でも、バレたら嫌だな…一回は抜かすか…。


幸い窓は半分残り、カーテンも自分側は好きな色のままになった事を嬉しく思う。

部屋の右側が自分、左側が兄になり、ドアを開ければ双方が見える。

ある意味侵入し放題だが、いつドアが開くか分からない。

兄は侵入して来ないだろうと一華は考えた。


その予想は当たった。

寧ろ、兄は夜中に帰る事も珍しくなって行った。


母親が父親に帰る様言ってくれと頼んでも、父親は「放っておけ」と言うばかりで、兄の足は家から遠のいた。

しかし、たまに帰って来ると何事も無かったように家で過ごす。

普段、狭いが一人部屋の様に感じていた一華にしてみれば、それが苦痛でありストレスだった。


思う様に事が進まない。


水泳教室は楽しかった。

学校生活同様、友達もすぐに出来、泳ぐのさえもスムーズに昇級していった。

だが…。


目の前を歩く亜希を見る。


亜希が居るから歩いて行かなきゃならない。


亜希はまだ自転車が乗れなかった。

その為、教室までの道を寒くても歩く。


「ねぇ、なんで自転車乗れないの?」


無言で横を歩く亜希に問う。


「ねえ!練習してよ!」


水泳用品を入れた鞄を振り回し、亜希の背中に当てた。

少しよろけるが、転びはしない。

そんな亜希にムッとするが、良い事を思いついたとばかり笑顔を浮かべ、亜希の前に立った。


「日曜に練習付き合ってあげる」

「…要らない」


にっこりと言う一華から視線を逸らし、亜希は拒否をした。

一華は顔目掛けて平手をお見舞いしたくなったが、外では直接的な暴力はしない事にしていた。

ふざけていて、振り回した鞄が当たる事は有る。

第三者の目を一華は気にしていた。


「要らない。じゃないの。乗れるようになってもらわなきゃいけないの」

「…」

「じゃないといつまでも歩いて行かないといけないじゃない」


一華の顔から笑みが消え、母親が有無を言わさない時にする目つきに変わる。


「分かった?」

「…はい」


その週末、宣言通り一華と亜希は公園で自転車の練習をする事になった。


「お姉ちゃんが付き合ってあげるんだから、乗れるようになって」


母親に言って、補助輪が取れた自転車を指さす。

公園まで押して持ってきたそれは、亜希の体には少し大きかった。


「すぐ乗れるようになるわ。私は乗れたし」


運動神経の良い一華は、運動にかかわる物はほぼ全て難なく熟した。

亜希の乗れない一輪車も、逆上がりもすぐに出来た。

運動会ではビリで走る妹を、一着の旗を持ちながら苦々し気に思って見ていたモノだ。


「とろい」


自転車を跨ぐ様に指示した後の、最初の一言。


「早くして」


到底、指導者に向いていない一華の言葉を、聞いている様に必死で自転車を漕ぐように足を動かすが、亜希は少しも進まず転倒する。

ズボンの膝が汚れ、トレーナーの肘を擦り、夏であったら血が出ていた所、冬で厚着していた事が幸いだったが、一華はそれも気に入らない。


「こけても痛くないからって、ちゃんとやって!」

「お嬢ちゃん、そんなこと言っても妹さんは乗れないよ…」


そんな二人を見るに見かねて、中年の男が声をかけた。

一華はビクッとし、位置を男と交代した。

男の指示で亜希がゆっくりとペダルの足に力を入れる。

後ろを支える男の手から離れた。


「あ…」


亜希の顔に笑みが浮かぶ。


「その調子。バランスを取って…そう、足に力を入れて…」


楽しそうにする二人を見るしかできない一華。

二周三周と公園を大きく回る亜希の自転車を、駆け足で並走する男。


「乗れたなら帰ろ!!」


一華は公園に響く様に叫んだ。

男と亜希はお互い挨拶をし、妹は一華の方へ自転車で走って来た。


「乗れたよ。お姉ちゃん」


笑う亜希は昔の様に人懐っこい顔をしていた。


「おじさん!!ありがとう!」


亜希が手を振る。

それに応じて、男は公園から去って行った。


「…帰るで…」


一華は得も言われぬ敗北感を胸に、公園を後にした。

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