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その日一華は特に問題なく過ごしたが、亜希の方は違った。
転校早々、下駄箱の前に何人かで置き去りにされている集団。
その中に亜希の姿を見た。
「な…」
クラスの子と集団行動している時に、妹を見る事が恥ずかしかった。
しかも、数名一緒に居るとは言え立たされていると分かる集団の中に。
「あ、一年の二組の子達じゃない?」
立たされている子達は胸に付けたバッジの色で、何組か分かってしまう。
「なんで立たされてんだろ」
「二組…って小山だしなんも深い意味ないんじゃね?」
理由を知りたがる女の子と、その理由に深い意味は無いという男の子。
「宮木さんの妹も一年よね?」
「あぁ、う、うん」
話は自分に飛んでこないと思っていたのに、不意に向けられた一華はどもってしまう。
「妹、可愛い?」
「んーどうかなぁ…」
引き攣った笑いを浮かべながら、すぐそこに居る亜希に気付かれない様に祈った。
「一緒に遊んだりする?」
「妹はよくお兄ちゃんと遊んでる…かな」
「お兄さんも居るの?」
「うん」
教室では聞けなかった事を、ここぞとばかりに根掘り葉掘り聞いて来る。
先頭を歩く先生は、多少の私語は許す方の教師だった。
「前は見ろよー」
時折振り返っては、後ろの生徒に声をかける。
「良かったね宮木さん」
「?」
「田辺先生、面白くていい先生だよ」
「小山よりは全然な」
一緒の班の子達は、積極的に色々な事を教えてくれた。
校舎の事も給食の事も。
そして何より先生たちの事を。
「田辺先生は悪い事をしたら怒るけど、そこまで厳しくない」
「教頭はいつも挨拶に出てくる」
「校長先生はお菓子が好き」
やはり関りが多い校長先生と教頭、そして担任の話が概ねを占めた。
だが、その中で不意に出てくる一人の教師。
「小山はやばい」
何がやばいのか分からないが、とにかく生徒達からは嫌われていた。
「気に食わなきゃ廊下、だぜ」
特に男の子からは非難されていた。
「田辺先生とは違って…ね」
言いにくそうに女の子も口を揃える。
気に食わなければとにかく理由を付けては怒る、と。
少しでも列から反れたら怒る。遅れても怒る。
謝っても怒る。謝らなくても怒る。
何もしていなくても、難癖をつけては廊下に立たせると言う。
「だから、さっき立たされてた子達もそんなに悪い事…してないぜ」
呆れた様な声で頭の後ろに手をやりながら、歩いている。
三笠君と言う男の子がお調子者ぽく笑った。
「でも、あの中で度胸ある子いたな!見たか?」
村上君が笑い出した。
掲示物が張り出された掲示板の前に、設置された冊子や何かが置かれている机。
その机に堂々と座り、足をプラプラさせていた子。
「一人だけ余裕だったね」
森さんも思い出して笑う。
「…」
そう、それが亜希だった。
外を歩く四年の集団に、立たされていた彼女達も気が付きこちらを向いていた。
その数人の男の子の中に、一人だけ…。
目を反らし、顔を背けたが、周りの子達は気が付いただろうか?
自分の妹…だと。
「ねえねぇ」
「何?」
「一華ちゃんって呼んで良い?」
キラキラした顔で森さんが腕を引っ張って来た。
「いいよ」
どうせ、教室の外での並びは名前順。
この先も一緒の班なのだ、仲良くしておくことに無駄は無い。と、一華はそう思った。
それに、下手をすればハブられる転校生なのだから、出来る限り早めに友達を作っておくべきだと考えても居た。
体育の授業は良く「組んでください」がある。
なんでも班に括られていれば簡単な部分もあるが、そうとばかりは言っていられない。
組める子を一人二人…いや、組める子は多い方が良い。
「じゃぁ、可奈子ちゃんだから…可奈ちゃんって呼んで良い?」
一華も目一杯の笑顔を振りまく。
幸運な事に名簿順で並んだ時に組まれる班の三人が三人とも、一華のお眼鏡に適う容姿だった。
だから、一華も受け入れやすかった。
でなければ…。
半分ちょっとがマシ。
残りの一部が可。
後は…。
顔には出さなかったが、値踏みしていた。
「よろしくね」
可奈子と笑顔で手を繋ぎ、歩き出す。
ふふふ、ふふふ。と二人が笑い合いながら、片方は無邪気に。
もう片方は打算に満ちていた。
後は、あの子とあの子…そして、あの子かな。
自分達より前に居る子に目をやる。
出来る限り良い子が良いな。なんて、考える。
でも、もうちょっと誰が誰と仲良いか。見なきゃね。
妹の事は頭から追い出し、自分の学校生活がどれだけ快適に過ごせるか、一華は明るい未来を思い描いていた。




