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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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夏休み入ると宮木家は慌ただしくなった。

夏休み中に引っ越す事にしたと、母親は言う。


「まとまったお金が入るし、ここに居る意味も無いしな」


何やらいつもより余裕がある顔をしたこんな母親を、見るのは初めてだった。

小学校に入りたての亜希は嫌がったが、一年の一学期だけで済むのだと言われ渋々従うが…本気で母の意向に背ける訳も無い。


兄は兄で施設から出る歳なのだと言う。

祖母が居た事で介護だのなんだのと理由付けしていたモノが無くなった所為で、延ばし延ばししていたのが無理になったのだ。


一華は友達と離れる事が嫌だったが…「じゃ、一人で残るか」と言われ、その恐怖に屈した。

暴力的な母親も兄も嫌だが、それ以上に独りは嫌だった。


それに、いつまでも悪評が付きまとうこの町で暮らすのも。

特に兄が戻る事で、余計…好奇な目で見られるのが嫌だった。


転校してきた訳でもないのに、中途半端な時期に中学へ入る兄にも引っ越しは好都合だった。

背が高く、筋肉を付けた兄は作業にとても役立ち、男手がある事の便利さや逞しさを遺憾なく発揮し、張り切った甲斐あって家族として溶け込んだ。


あんなに他人に思えたのが嘘みたいに、一華も以前の様に「お兄ちゃん」と呼び始めた。

多少の蟠りや遺恨は残っていても、それを隠せる程に時間も経っていた。


殊更、亜希は和雄にくっ付いている事が増えた。

活発な妹の性質が、男である兄に合っていたのだろう。

遊びに行くのにも二人で出かけ、釣りや虫取りに出る事もあった。


魚や虫が触るのが苦手な一華は留守番をするか、夏休みが終われば分かれる友人達との時間を名残惜しみ過ごした。

一家の悪夢が全て流されたように、兄妹達の仲は急速に良い方向へ変化していった。


それもひとえに「母親の機嫌」が良い所為だった。

長年の義母とのやり取りや、親戚からの冷遇が負担になっていたのが無くなったのも大きいが、金銭的にも余裕が出たらしく、まず身なりが変わった。

そこから子供達には分からないが「良い事続き」だと言う。


母親の機嫌が良い時は、一華も亜希も暴力を受けずに済む。

それが、一華には何よりもうれしい事だった。


「一華ちゃん、引っ越しても遊ぼうね」


友達が別れを惜しみ、手紙や物をくれる。


「ありがとう。もちろん遊ぼ」


笑顔で受け取り答える。

同じ園だった子の中でも、時間が過ぎるにつれ遠巻きに見ている数も少なくなった。


健斗とその周りの数人が関わらないが、クラスが違う事もあって問題が起こる事は無かった。

それも、引っ越す事で完全になくなるだろう。

一華には幸せが見えていた。


このまま、過去は無かった事にして、平和に違う街で…生活していく。


壊れたキーホルダーも青い車のぬいぐるみも、結局は見つからず、盗った事が皆にバレる事は無かった。

母親は気が付いたが「なかった事」にしたのだ。


家の中が片付き物が減る毎に、心の中の鬱屈とした思いも無くなり軽くなっていくようだった。

新しい家も今までの家とは違い、綺麗な白い壁の家だった。

妹と同じだが、部屋ももらえる事になっている。


カーテンの色もベッドの色も選ばせてもらえた。机だってある。


「おばあちゃんが残してくれた」


と母親は言っていた。

あの古臭いボロボロに感じた家も土地と共に売り払い、そこそこのお金になったのだとか。

後は、銀行にも預金が有ったりと、母親と子供たちが知らない所で祖母はため込んでいたのだった。


その金が子供達の写真を売って作った金だと知って居たが、見て見ぬふりをした。

親戚達もそれに口を挟む事はしなかった。

誰もが「汚れた金」を手にしたくなかったのだ。


そんな事とつゆ知らず、子供達は燥ぎ希望を胸に抱いて、故郷を去って新天地を目指す。

文字通り「臭い物には蓋」をして。


いつか、それは異臭を放つ危険性を秘めているが…横に置いて忘れた。

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