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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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「一華。和雄と亜希…呼んできて」


出棺の担ぎ手が集まる中、母親が一華に淡々と言う。

お焼香の後、花を入れてから二人が外に出るのを見ていた一華は、母親の言う通り呼びに行く為、自動ドアの前まで歩いた。


親戚達の視線を避ける兄が外にいるのは分かったが、亜希が一緒に出た意味を深く考えず、雨に濡れない様、屋根が続いた先に居る彼らに声をかけた。


「亜希!おばあちゃんの棺、出んで」


敢えて妹の名だけを呼んだのは、兄をどう呼べばいいのか分からないのもあるが、名を呼んだ瞬間に側に居る親戚達から注目を浴びるのが嫌だったからだった。


あの人達は兄の名が聞こえると振り返る仕様になっているのか。


そんな風に思うくらい。視線、顔ごと…呼んだ方を見る。

そして、ひそひそと聞こえないくらいの小声で何かを話すのだ。


二人は一華の声に無言で振り返り歩いて来たが、そのまま横を素通りし棺の方へ行く。

亜希の後ろやや遅れて歩く兄が一瞬一華に視線をやったが、一言も発さず歩き去った。


誰一人として涙の一つも流さない静かな式は過ぎ、車の後ろから棺を入れる時も発車する時も、聞こえるのは式場の担当者の声と閉まる音だけで、皆粛々と流れる様に動いていく。


本当に…誰も悲しんでいない。


一華は車の中で揺られながら、窓の外を見る。


代わりに空が泣いている様だと思ったが、それも悲しみの涙ではない様な気がした。

公にはされなかったが、殆どの親戚が伯父夫婦との絶縁理由を知って居る。


「捕まらなかっただけでも…」


そう話す声を聞いた。


「捕まってたら迷惑だった」

「いやでも、してたことは…」

「こっちに居ないお前は良いかも知れないが」


この町に居る親戚とそうでない親戚で、言い合いもしていた。

一華からすれば、もうどちらでも良かった。

写真を燃やしていた祖母の姿が、今でもはっきり思い出せるが、どんな表情で焼いていたかは思い出せない。

あの後、家に来た男に祖母が何かを言いながら、追い返しているのを見ていたし、幾人かの見知らぬ男から「一華ちゃんか」と声を掛けられ何度も逃げたが、それを母親や祖母に言う事は無かった。


誰が元締めか客か。分からない者から逃げる。

一度「三万でどうや」と腕を摑まれた時、一華自身何を聞かれているのか分からずただ恐怖に慄いた。が、近くを通った女性が男に声をかけると、瞬時に逃げて行ったので事なきを得た。


それもこれも、祖母の所為だったと膝上の写真を睨む。

長い長い待ち時間の間も、一華達と談笑する親戚は居ない。

いつの間にか居た筈の人間が数人居なくなっていた。


喫煙室や小さな食事処で休憩でもしているのだろう。


そう思っていたが、幾人かは帰った後だった。

骨を拾う役も何度も何度も巡り、壷の中に大きめの物を入れると後は処分してもらう。

ボロボロの骨は、どこが何か説明されても分からなかった。


こんなものか。


一華は帰りの車でも今日の事を振り返るが、悲しみは一向に沸かず「何かが済んだ」感覚だけが残った。

車の助手席には遺骨を持った母親の疲れた顔が、バックミラーに見えた。


母親も兄も亜希も、無言で家に入る。

一華は最後に入ると玄関の鍵をかけた。


各々喪服から着替え始める。

一華は汚れてもいいシャツとズボンに着替え、亜希は兄のお古を着ていた。


伯父夫婦と絶縁後、お下がりが貰えなくなった家は、服を買うようにはなったが…新しい物を買い与えられるのは和雄と一華。

亜希はその二人のお下がりだった。


兄の体がすくすくと育ち「すぐにサイズが合わなくなる」と文句を言っていた母親も、丁度いいと亜希に着させる。

なので、亜希の服はほぼ全て男物になり髪の短さも相まって、時折男と間違えられていた。

階段から降りて来た亜希は、一華の目にも男の子の様に見える。


「ゴミ袋に入れて」


母親は大きなごみ袋を二人に差し出した。

祖母の要らぬ服を捨てる為に、出来るだけ詰めろと言う。


兄と酒臭い母親から逃げ場だった祖母の部屋に入るのは、何年ぶりだろうか。

部屋に入ると、記憶が呼び覚まされる様に懐かしい匂いがした。

おばあちゃんの部屋の、不思議な匂い…。


「臭っ」


亜希が鼻をつまんで、眉間に皺を寄せた。


いつも抱かれていた癖に。


祖母の部屋を臭いと言う妹を、怪訝そうな顔で見た。

しかし、亜希がそう言うのも無理は無かった。


あの時にカメラは処分したとはいえ、祖母は妹から引き離され殆ど部屋から出なくなっていた。

それまでは面倒を見られていたとしても、何年も前の事。

赤子が覚えてないのも当たり前だった。


「文句言ってんと、捨てて」


グイっと亜希を押しやると、自分も入り衣類を片っ端から袋に詰め込んだ。

奥の方の引き出しの服は、異様にかび臭い。

匂いで胃から何かが上がって来そうになった。

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