24
朝日が家を照らす頃、母親は音を立てずに帰って来た。
薄っすらと残った香水と、嗅いだ事の無い匂いを纏って一華が眠る部屋に入って来た。
父親は帰って来ていなかった。
母親の着替える音が、耳に入り薄目を開けてみると、綺麗なドレスによく付いている物が母親の下着に付いていた。
あぁ。綺麗なドレスはお母ちゃんのパンツになったんか…。
寝ぼけた頭でそう考えた。
だから、クリスマスに貰えなかったんだと、納得した。
母親はそれを脱ぐと「良いモノを洗う為の袋」に入れて、ドレスの様なパンツから普通のパンツに履き替えた。
一華は、綺麗なドレスからボロの服に変わるお話の絵本を、園で見たなと思った。
シンデレラ…。お母ちゃんシンデレラみたい。
また、目を瞑ると煌びやかなパンツをはいた母親が、カボチャの馬車から降りて来た。
馬車を引くのはあのキーホルダーの知らないキャラクターと青い車で、車の中にはネズミの耳を付けた兄が運転をしていた。
パンツ姿の母親が誰の手を取って城に行くのか、そこまでは分からなかったが、魔法使いのおばあさんは居なかった。
その代わりに居たのは、子供の裸を必死になって撮る老婆で、撮られていたのは従兄弟達だった。
老婆の顔は見る見るうちに祖母に変わり、被写体は亜希になる。
素っ裸の亜希の写真が徐々に燃え、下から浮かび上がってくるのは自分の裸体。
それもまた火が付き燃えていた。
気が付くと燃えているのは自分の腕だった。
払おうとしても払えない。
消えないまま、自分が炎に包まれる所で…一華は叫んで起きた。
冷や汗と共に布団が冷たい事に気が付いた。
汗ではない。
火の夢を見ると漏らすと、聞いた事があった一華は「やっぱり」と愕然とする。
どこにも隠す事は出来ない。
横に違う布団で寝る母親をゆすり起こした。
「お母ちゃん…」
「何」
眠そうな声が返って来る。
「お布団…濡れた…おしっこ…」
「はぁ!!?」
眠っていた母親が勢いよく起きる。
「なんで!?昨日トイレ行かんと寝たんか!!」
平手が飛んでくる。
一華は頭を抱えて縮こまり、タンスの方へ体を寄せた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
パジャマの膝に水滴が落ちる。
「そんなとこ行ったらそっちまで濡れるやろ!」
髪の毛を摑まれ、無理やり立たされるとズボンと下着を脱がされ、階段を引き摺る様に下ろされた。
「なんでこんな手間のかかる…」
風呂場へ放られ、浴室に溜まっている水を掛けられた。
が、いつもより冷たくは無かった。
今朝帰って来た母親が入った後だったのが幸いした。
「流したら服、洗濯機に入れときや」
勢いよくドアが閉められたが、暖かい水が寒い室内で凍えた下半身を温めてくれた。
水をバシャバシャとかけていると、ドアの前に人影があった。
横に隙間を開けて、覗いているのは兄だった。
目が合うと、すっと閉めて人影は消えた。
笑っている様に見えたが、それは気の所為ではなく和雄は本当に笑っていたのだろう。
鼻歌を歌いながら二階に上がり、苛ついた母親に殴られたのだから。
タオルで拭きながら、下着とズボンを新しく履き、廊下で母親が後始末をしている間、土下座し続けた。
床板で膝が痛く、赤くなろうが終わるまで止めてはならない。
下から時折、ストーブで温められた空気が来るのが少しの救いだった。
「ほんまに…ほんまに…」
ぶつぶつと文句を言いながら、布団からシーツを剥がし、水気をシーツの渇いている所とぞうきんで取っている。
「年明け早々…なんなん…」
布団を持ってお風呂場に移動しても、付いて行く。
そして、お風呂場の前の床で正座をし、頭を下げた。
足元を拭う布の上に座りたい気持ちになろうとも、乗ってはいけなかった。
ただひたすら、布団の処理をしてもらっている間許しを請う。
布団が猫の額ほどの庭に干されてから、許される。
一華の脛は赤くなっていた。
明日、やっと冬休みが終わる。
最悪だがこの後の一日を無事に過ごせば、半日は家に居なくていい。
園で新しいクレヨンを使うのを、少し楽しみにしていた一華は、明日の準備を早々にして、出来得る限り気を付けて一日を過ごした。




