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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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母親も自分達も「長い」と感じる冬休みの間、極力怒らせない様に過ごした。

主に、父親に対しての対応はもうすぐ六歳の子供と三歳の子供にしては、よく頑張った方だった。


この時ばかりは兄も、一華に対して暴力を振るわず、自身を守る事に集中したし、一華は一華で亜希と祖母の側を離れない様に務めた。


正月の初詣だけは、亜希と祖母は家に残り離れたが、代わりに従兄弟達と一緒に居る為、難を逃れた。

そして、初詣の帰りに寄った従兄弟達の家は広く、暖かかった。


「一華ちゃん遊ぼう」


と、従妹が部屋に初めて入れてくれた。

彼女の好きな色で統一された、机や椅子。ベッドという物を初めて見た一華は、ふかふかの感触に従妹を「お姫様」だと思う。


「お姫様じゃないよ」


優しく笑いながら、人形を出してくれる。

兄と同じ年の従妹は優しく、髪も肌も荒れることは無く、綺麗な服を着ていた。

年始めで挨拶の為、いつもよりも綺麗な服を着させては貰っていたが、比では無かった。


最近の従妹は可愛いシールを集めているらしく、綺麗に並んだシール手帳を見せて貰った。


「可愛いでしょ」


頷く一華の目には、キラキラとしたシールが眩しい。

触るとフワフワした物から硬い物、平面で在ったり立体で在ったり…多種多様だった。


「これ、あげるね」


一華の手の甲に大きめの宝石の様なシールを貼る。


「あ、でも、貼ったままにすると痒くなるから帰ったら剥がしてね」


手の甲がお姫様の手の甲になった。と、嬉しそうに眺める一華に言うが、本人は聞いても居ない。

そんなに嬉しいのか…と従妹は思ったが、兄妹の来ている物や持ち物がほぼ全て自分や兄の物だと知って居る。彼らは彼らの物がそんなに無い。


一華と従妹、和雄と従兄が二階にある各々の部屋にこもると、一階のリビングや台所は大人の領域になった。

台所では一華の母と従兄弟達の母親が忙しなく動き、作られていたお節の外、お雑煮や酒の肴を作る。


はきはきとした従兄弟の母は正義感や誠実さが溢れ、一華の母からしたら少し苦手な人間だった。

それでも、ここに来るのは義兄に挨拶をしないと言う選択肢は無い上、お下がりが貰えるからだった。


「これでええですか?」

「そうやね」


義兄の嫁に愛想を振りまく、多少粗があっても許してくれるので、苦言を呈される時間以外で言えば、子供から離れ、無く赤子も居ないこの状況は良かった。

ただ、台所の広さや家の綺麗さ…果てには冷蔵庫の中身まで自分との違いに羨ましくも感じる。


こないに…弟と違うもんなんか…。

…それもお義母さんがおらへんから…なんやろか。


何故か長男ではなく次男に付いて来た義母。

目の前にいる義兄の嫁ならば、追い出す事や合わない事など無い様に見えた。

一緒に住んで長い義母は気の弱い女だ。余計に不思議に思う。


「お義母さんは元気ですか」


思い描いた瞬間に話が出て、一華の母はドキリとした。


「えぇ。今日も亜希を見てくれてます」

「…あぁ、三人目の」

「はい」


出産祝いを貰い、お返しをした後の連絡は年賀状くらいで、直接会わせてない事を言われるかと身構えたが、二か月ちょいの赤子を連れてくるのは大変だものね。と流され肩透かしを食らった気になった。


それでは、去年の様にこれから兄妹についての苦言が、降り注ぐかもしれないと身構えたが、今年はそれも無く、淡々とお節の重をテーブルに置き、味を調えたお雑煮を人数分に分け始める。

穏やかに出汁の匂いが充満した台所が、自分を包むような気がした。


「うちの子と和雄君や一華ちゃん、呼んで来なな」


そう言って、エプロンを外し二階へ行った。

揃いもせずに食べ始めようとする自分の旦那を、義兄が制止するのを見て、恥ずかしい思いがこみ上げた。


なんで、こんな人好きになったんや。


疑問はもう何年も前から頭に在った。

溌溂と男気のある様に見えた態度も、ただの無神経で雑な自己中心的な態度に思えなくなり、良い顔をしてると思っていたのも、歳と共に廃れている。


大人しく何を考えているか分からなかった義兄の方が「ちゃんとした大人」の風格で、子供達にも…自分の妻にも優しく苦労をさせていないのが、目に見えて分かる。


降りて来た子供達は、自分の家にいる時よりもいい笑顔で、楽しそうだった。

それが、酷く心に刃を立ててくる。

席に着いた子供達はお年玉をもらい、こちらも渡すが…金額の差を見ないフリをした。


帰りに「どうぞ」と渡された服やおもちゃは、去年より新しめの物が入っていた。

百貨店のお菓子の包みが入った紙袋も渡される。


「お義母さんによろしくお伝えください」

「はい、ありがとうございました」


お互いに頭を下げているが、何とも屈辱的な思い…。

紙袋の持ち手をきつく握りしめているのを、知られたくは無かったが、一華の母は手に力が入るのを止めは出来なかった。


帰宅後、外へ夫が出たのを確認すると、レストランの招待券を握りしめ電話の受話器を持った。

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