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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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日高が黒崎との会話を楽しんでいる頃、一華の副担当は戻ってこない同僚で在り後輩の責任を自分一人で負う羽目になるのは嫌だと、一華を監視していた。

お絵かきの時間、他の誰をも見ず一華だけに集中する。


その様子に「やはり一華は泥棒では?」と思い始める子達が居た。


「健ちゃん」


健斗の横に居た男の子が声をかけた。


「なに?」

「本当に…ぬいぐるみ、とられたの?」


こそこそと話す二人に、周りの子が聞き耳を立てる。

一華は離れているので、聞こえまいとその問いに健斗も答えた。


「たぶん。だって…あの子しか知らないはずだもん」

「車のぬいぐるみ持ってたこと?」


健斗は頷く。


「見えたとしても、赤だもん」

「僕もとられない様にしよ…」

「気を付けたほうがいいよ。でも、僕もう…あの子とは関わらないんだ」


手に持った赤いクレヨンで、目の前にある紙に車を描く。


「関わらないって?」

「遊ばないってこと」


赤から黒に持ち替え、タイヤをグルグルと描く。

我ながら上手く描けていると健斗は思った。


「僕も…関わらないようにしよ…」

「私も…」

「うん」


同じ机に居る子達が、ぽそぽそと同意する。


「その方がいいよ…だって泥棒だもん」


健斗の中ではもう、一華に対して「信じたい」気持ちは消えていた。


少しずつ、少しずつ…一華から園児達が離れ始める。

それに反して、日高か副担当かが一華に付く。

何かがあった時の為に。


居心地の悪い思いをし始めた一華は、家のおもちゃ箱もキーホルダーとぬいぐるみの所為で、思う様に開けて遊べない事にも苛立っていた。

しかし、彼女は自分の母親や父親、兄の様に不満をぶつける相手が居ない。

祖母に当たっても、自分が不利になるだけなのは目に見えていた。


そうすると矛先は自分より弱い園児か、泣いているだけの妹に向かう。

園では保育士が目を光らせている。

安易に何か…自分がされている事を誰かに出来ない。


一度、目を離しているだろうと思い、おもちゃを投げようとした。

目の前の可愛い服を着ていた女の子に。

すぐさま手首を摑まれ制され、苦しい言い訳をしたのがいつだったか。


家は家で祖母が妹を見ている。

手出しは出来なかった。


いっその事、あのおもちゃ箱のキーホルダーとぬいぐるみを庭に隠せばどうだろうかと考えた。

サンタさんがもうすぐ来る。

その前に一華が悪い子だとバレるのが怖かったが、無くなってしまえば、怖くない。


だが、そんなチャンスは巡る事は無く、迎えたクリスマス当日の朝、枕元にはプレゼント包装がされた長方形の箱が置かれていた。


十二月に入ると商店街を飾る赤と緑のリボンが、箱にもかかっている。

去年ならば兄と二人、ワクワクしながら開けたが…兄は今、別々の部屋で寝起きする様になり、横には居ない。

持って行って、一緒に開けようかとも思ったが、また痛い目に遭うのが嫌で躊躇した。

ますます一華にとって兄は「暴力的な小鬼」になっていた。


テレビに流れるCMで、人形の服が長方形の箱に入っている事を知って居た一華は、サイズ的にもそれだと確信した。


今年こそ、望んだドレスが手に入る。


そう思って、包装紙の上のリボンを解き始める。

一華には金や銀で縁取られても居ない、ただのリボンさえも豪華に見えた。


これだけ良いリボンが付いた箱。

きっと、綺麗なドレスが…。


包装紙を破った瞬間、目に飛び込んできたのは人形の名前でもなく、ドレスの布でもなかった。


今年は、自分でお手紙も書いたのに…。


一華の目に涙が溜まる。

箱を持つ手も力が抜け、リボンと箱が布団の上に頼りない音を立てて落ちた。


声をあげて泣きたかった。

どうして。と。


良い子じゃなかったから。

悪い事を本当はしていたから。

サンタさんは欲しい物をくれなかった?


押し殺した声が、どれだけ我慢しても出そうになる。

ひゅくひゅくと喉が鳴り始め、息をするのさえ苦しい。

それでまた、抑え切れない涙がパジャマの袖や前を濡らしていった。


「うわああああああん」


隣の部屋から兄の泣き叫ぶ声がした。

びっくりして涙が引っ込むくらいの大声が、廊下を突き抜け部屋に響く。


「うっさいわ!!!」


父親の怒鳴り声がして、何か色々な物が落ちる音がした。


「ぎゃあぎゃあ喚くな!」


一華もぎゅっと目を瞑り、布団を噛み締めた。

自分も泣いていると知られてはいけない。


詰め込めるだけ布団を口に詰めた。

うぐっとこみ上げてくるが、それも押し込める様に。


歯で布団を噛み締めると、涎を含んだ布は一華の口内へじゅわっと水気を押し返す。

変な味と匂いが広がるが、泣くのを必死に我慢する。


ふうふうと荒い息が、自分の息だとは気が付きもせず、ずっと怒号と兄の泣き声が収まるのを待った。

父親の暴れる音が響くたび、漏らしそうになるのも我慢した。


怖い…怖い。


最悪のクリスマスだった。

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