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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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18

一華の想像とは裏腹に、帰って来た母親は機嫌が良かった。


保育士達は「一華に嫌疑無し」として、しかし他のクラスにまで知れ渡った今、現状を隠す事は出来ないと双方の親を呼び出し、話し合う場を設けた。


盗ったと言う証拠が…物がないと言う事や、気が付いた時には無かった事。

一華が盗れる時間として健斗が離れた時間には、他の子と遊んでいた事。

また、その時保育士が室内に居て盗れば気が付く事をあげ、両者に話した。


一華に対する保育士の対応は元より、以前の騒動以降園児から視線を逸らしている事は秘密にして。


「うちの健斗が…すみませんでした」


健斗の母親が子供の頭を押さえ付けながら、一緒に頭を下げた。


「こちらも一華ちゃんを傷つける事になり、申し訳ありません」


母子の後に保育士と園長が一華の母に頭を下げた。


「なんや、うちの子が悪い訳じゃないんですね」


なら呼び出さないで欲しいと内心考えたが、口には出さない。


「ほな、これで帰らせてもろてええです?」


ちら、と母子や保育士、園長に視線を送る。


「本当に、申し訳ありませんでした」


大人三人がもう一度深々と頭を下げる中、健斗は納得いかない様子で居たが、頭を押さえ付けられている所為でその表情は見えなかった。

が、一華の母も子供は納得していなさそうだと分かっていた。


「ほな、失礼します」


余所行きの笑顔を顔に浮かべ、時間の無駄だったと帰路に着こうとした。

ため息を付き自転車に跨ったその時、後ろから健斗の母に声を掛けられた。

横に子供は居ない。


親同士二人で話そうと言う事か。と、自転車から降りようとした。


「あ。いえ直ぐですので…」


両手をわたわたと動かし、降りる手間を掛けさせないようにしようとする健斗の母親。

一華の母は目の前の女の服を見て、いいとこの奥さん。やな。と冷たい目を向けた。


「お詫びとしては、つまらない物ですが…」


と、鞄からどこぞのレストランの招待状を出した。


「貰いもので申し訳ないのですが…是非娘さんと…」


封筒にかかれたレストランの名前は知らぬ者は居ない、電車で何駅も先に在る街の有名店だった。


「いいえぇ、そんなぁ…子供同士の事ですしぃ」


遠慮を一度はしないと品が無いと言う土地柄の所為で、一度は受け取り拒否をするが…本心は隠せそうになかった。

それは健斗の母親も分かっている。

ここで「あ、そうですか」と引くと後で「見せびらかし」だの「ケチ」だのと陰口が流れるのは想像に容易い。

相手が孤立している母親で、自分が仲間の多い母親だとしても。


「いえ、本当に貰い物で申し訳ないんですけれど…」と、より頭を下げ下手に出る。

後々の禍根を残さない為ならば、頭を下げる事など動作も無い。


「えぇ…ほんまに良いんですかぁ?」


そう言って手はもう封筒を掴んでいた。

茶番だ。


「じゃあ、これで失礼しますぅ。今後も仲良うしたってください」


ワザとらしい笑顔と口調で、お互いがお互いに挨拶をし去る。

本心では一華の母親は今後の事などどうでも良かったし、健斗の母親は関わりたくないと思っていた。


帰宅後、健斗は母親と父親に「あの家には関わるなと言っておいただろう」と詰められ、今後関わる事があるならとにかく揉めない様にと言われ、当人も黙って頷いた。


「車のぬいぐるみは…また買ってあげるから…」


母親は涙ぐむ彼をそっと抱きしめ、父親も頭を撫でた。


「今度の事は仕方ないと学べ。そして、今後は気を付けなさい」


部屋に置いてある車のぬいぐるみ達を思い浮かべ、涙が出て来たがそれを拭い、健斗はもう一度頷いた。


新しい「同じ」青い車が来ても、青いあの車とは一緒ではない。

でも戻っては来ない。

それが、健斗には悲しかった。

無くなったのが、ボロボロになっている一番のお気に入りの赤い車でなくて、ホッとしたのも…。


そして、今だに一華が嘘を付いているのか、付いていないのかが分からずモヤモヤとしていた。

盗って居ないと信じたい気持ちと、絶対盗っていると言う気持ち…。


しかし、暖かな布団に入り、母親のポンポンとした手の振動と優しい声に眠る頃には、落ち着きを取り戻し一華には「もう、関わらない」と決めた。

それが、自分の楽な道であり大切な物を無くさない道なのだと。

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