―現在―
もう目の前にクリスマスと言う煌びやかなイベントが迫る寒い日。
街の木々には煌々とイルミネーションが飾られている最中、宮木一華の目の前で、何かが爆ぜた。
爆音と破壊音で耳が聞こえなくなり、視界は灰色の粉塵とコンクリートの瓦礫で何もかもが見えなくなり、立って居る事さえできなかった。
彼女は止せばいいのに立ち上がろうとしては、前のめりに倒れ、制服のスカートの下に履いていたタイツが破れて丸出しの膝を、強打する。
首に巻いたマフラーが引っかかり、それを乱暴に取り払う。
大きなコートも脇が引っかかり破れた。
腕を動かしては、どこからか突き出した鋭利な鉄くずに服と共に身を切り裂かれ、血を流すが止めない。
つんのめった先の地面に手を着くと、手の平に何かが刺さった。
それすらも気に留めず、ひたすら起き上がり前を向く。
彼女は痛みに鈍感な訳では無かった。
しかし、痛いから動かない。と言う事すら頭に無かった。
ただ、爆発が起こる一瞬…目の前に見えた影が、妹の亜希では無い事を確かめたかった。
ドンッ
風が粉塵をまき散らす。
どこかで起きた爆発が、妙に暖かい風を作る。
爆発源である目の前の市役所で、1度目の爆発で壊れたガス管から漏れ出たガスに引火し、二次爆発を起こしたのだった。
飛び散った火は崩れた木造の破片達を焼き、室内に誂えた調度品達を次々に燃やす。
その熱風が道を挟んで反対側に居る一華に向かって吹いていた。
灰なのか砂ぼこりなのか、建物が粉砕したモノかが、何かを混じらせながら酷い悪臭と共に流れ、それを吸い込んだ一華は咽た。
風が落ち着きを取り戻すと、一華は自分がどこに居るのか辺りを見渡した。
すぐ側の木に、何台もの車が電飾を絡みつかせながら、拉げ転がっている。
その横に地下からの階段が見えた。
爆発前に居た、駅からすぐ上がった3番出口付近で右往左往していただけだった。
怪我もただ、折れ曲がった車の枠や折れた木で服や腕を引っ掛け、散乱したガラスで手を切っただけだった。
マフラーも階段手前の手摺に引っかかり、垂れ下がっていた。
落ち着いていればしなくて済んだ怪我を、その身に受けた「原因」を見回して探す。
市役所が赤く火柱を上げて…燃えている。
「あははは!」
聞きなれた声が後方から微かに聞こえた。
声の持ち主に何故こんな所に居るのか。と悪態を吐こうとした。
いつも通り罵詈雑言が口を吐いて出るはずだった。
怪我をしたのはお前の所為だと。
理不尽を声の主にぶつけようとした。
しかし、火災旋風の余波を一身に受け、燃え盛る市役所と火を纏い逃げ惑う人達に向かって、大笑いしている人物を見て、言葉が出なかった。
今朝、制服で学校に行った妹と同じ顔をしたそいつは、いつもの妹とは様子が違う。
思っていたより近くに居たそいつは一華に気が付き、ゆっくりと近付いて来た。
他の周りに倒れている人間や、車の下敷きになっている人間には目もくれず、冷静に…少し浮かれているかの様な足取りで。
今朝着ていた制服とはまるで違い、ジーンズに黒のタートルネック。
その上に大きめの黒いコートを着ている妹。
破壊され、灰色と赤が混じり合うこの惨劇を見て、笑う人間が正気ではないのは…狂気を持ってそこに居る事を一華は理解していた。
正常であれば走って距離を取るだろう。
だが、彼女は服装が違えど目の前に居る人間が「自分の妹だ」と思う思考と、見た事のない服装で優雅に笑いながら近付く女を「知らない人間だ」と言う思考の狭間で身動きが取れない。
手には何かを持っていた。
包丁の様な、ナイフの様な刃物が、すぐ側で爆発した車の炎で光った。
刺されるかも知れない?妹に?有り得ない。
一華は逃げる気などさらさらなかった。
一瞬知らない人間に見えたのは「知らない服装をしていた」から。
「…な……ん…」
自分の声が体内で響いた。
若干回復したとはいえ、彼女の耳は爆発音でやられていた。
そして、声は掠れ掠れでしか出なかった。
その有様を見て、妹は笑った。
薄く…それでいてさも嬉しそうに。
「なに…お…」
話そうとする度に咳が出て上手く話せない一華を、亜希は見下ろした。
不意にしゃがみ、手で頬の上…目の横を指で触った。
悲しくもない、反応として流れていた涙。
それを拭い、なお微笑んだ。
「久しぶり。いっちゃん…」




