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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

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一華の日常に束の間の平穏が訪れた。

母親は訳も分からず怒鳴る事も無く、父親も気持ち悪い事をしなくなった。

二匹の鬼は大人しくなった。と、一華は思えた。

それに小鬼がたまに体当たりや小突いて来るが、親と祖母の前ではしないので逃げる事が出来た。


実際、母親はヒステリックに成らず、父親も母親と秘密の新しい愛人で満足していた。

時折、笑顔に包まれる「家庭」を、その中で赤子を抱きながら、やっと落ち着いた…平穏が来たかの様に、祖母も感じていた。


一華の心の中で小鬼と称される様になった兄だけが、その顔から笑顔を消していたが、誰も気付きはしなかった。


クリスマスが近づいた頃、一華はサンタさんへの手紙を書いた。

園はサンタの話でもちきりで、何を貰うだの起きて顔を見るだの、各自色々と言っては賑わった。


今年こそは…。


一華は綺麗なドレスを願った。

去年と一緒の願いだったが、今回は欲しい物が貰えるのではないか。と、願った。

誕生日は欲しい物が貰えない。皆は貰えるものだと言うが、母親が許さない。


去年はクリスマスも欲しい物が貰えなかった。

サンタへの手紙を母親が書いたから…だから、欲しい物は貰えなかったのかも。そう思い、今年は自分で書く事にした。


拙いひらがなで、時折反転した文字を一生懸命書いていた。

何度も保育士に読めるか確認もした。


「大丈夫、一華ちゃん。きれいなどれすがほしい。ってちゃんと読める」


貼り付けた笑顔も無く、淡々と読んで返す。

保育士の言う通り「す」が裏返っていても、「れ」なのか「ね」なのか分からない字が書かれていても、大人なら予測して読める範囲の字だった。


返された紙を受け取って頷いた一華は、それを綺麗に…出来るだけ綺麗に四つ折りにする。

折り紙ではいつも端がズレるが、この時ばかりは丁寧に、丁寧に折った。

心を込めて綺麗に折ったとサンタに伝われば、欲しい物が貰えると信じて。


「そのまま渡すの?」


同じクラスの子が声をかけてくる。

そのままとはどういう事だろうと、一華は首を傾げた。


「封筒に入れないの?」

「ふうとうって何?

「手紙さんのお家」


その子は親に封筒に入れる事を「手紙さんをお家に」といつも言われていた。

一華はそんな物知らない。


「どんなの?」

「こういう…」


男の子は折り紙を出して器用に四隅を折った。

三角が四つ。真ん中で合わさっている。


「こことここ…あと、ここ」


糊で器用に付けた。

真似をして一華もやっては見たが、糊で端がよれよれのなんとも見窄らしい、封筒とは言えない見目の物が出来上がってしまった。


下唇を噛む一華に、男の子は自分の作った…一華の物よりも少しマシな物を差し出した。


「あげる」

「ありがとう」


受け取ると手紙をその中に入れた。

そして、封をする。


「これでサンタさんが欲しい物をくれる」


手に手紙を握りしめて、嬉しそうに言う一華に鋭い声が飛んできた。


「悪い子にサンタは来ないよ」


声のする方を見ると、睨みつけるような顔で男の子が立っていた。

あの、青い車のぬいぐるみの…持ち主。


「なんでそんな事言うの?一華悪い子じゃないよ…」


内心あの事を言われてると思いながら、言葉を返す。

が、一華は分かっている。自分のした事を。

鼓動が速くなり、耳の奥で鳴る様に大きく聞こえた。


「嘘つき」

「嘘じゃないもん」

「僕のぬいぐるみ、盗ったでしょ」


沈黙が、室内に広がった。

言い合いを始めた二人に、園児達は気が付いていた。

一華は自分の心臓の音が皆に聞こえるのではないか、と思った。


「一華ちゃんと話した後なくなったもん」


男の子の目に涙が浮かぶ。

慌てた保育士が二人の間に入った。


「それは、一華ちゃんじゃないって話になったでしょう?」

「絶対一華ちゃんだもん」


泣く男の子を慰めるが、頑として一華が犯人だと譲らない。


「僕の車、返してよ」


手を出し訴える男の子に、もしもこの事が母親に知られ自分のおもちゃ箱を見られたら…と冷や汗が出る。


「知らない」

「知ってる!見せたでしょ!嘘つき!」


男の子が叫んだ。


「無くなった時、一華ちゃんは離れた所に居たんでしょう?」


保育士が終わった話だと慰める。

園の外で落としたのだと…そうでなければややこしい事になると、嫌気が薄っすらと読み取れた。

保育士の会議でもこの事は上げられ、おもちゃを持ち込む事を禁止する事に決まり、今日男の子はお気に入りのぬいぐるみの一つも持てずに登園した。

それも彼にとって不満だったのだろうが、保育士からしてみれば「そもそも持って来るな」案件だ。


「はぁ…」


大きくため息を保育士は付いた。

無駄な物を持ってきた挙句、無くして、犯人候補がよりによってあの「宮木一華」。

ほとほと嫌気が差してくる。


もし本当に一華が盗っていたなら、クラス担当である自分の責任になり、盗って居なかったら冤罪で…。

一華の母親にこの事が知られたら、何と言われるか。

それが怖かった。

以前の騒動を蒸し返される事も、嫌だった。


「一華ちゃんは無くなった時、他の子とピアノで遊んでいたでしょう?」


聞き分けろと言いたげに、高圧的な声で言う。


「ピアノがあった所はあそこ」


今も同じ様に収まっているピアノを指さす。


「君がトイレから帰って来るまでに盗れないでしょ」


だから…。と言葉を続ける。


「どこかで落としたのを人の所為にしちゃダメだよ、健斗君」


否定したくて口を開こうとする男の子…健斗の開きかけた口に人差し指で封をする。


「人の所為にする悪い子には、サンタは来ないよ?」

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