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師への思い

偶然見つけた、1冊の本。

そこから、次々と情報が明らかとなっていた。

数日が過ぎたある日、俺は久しぶりにルミナと帰っていた。


「そういえば、今日は来られるんですか?」


歩きながら尋ねてくるルミナ。

定期的に、ユウリとしている日課に来ないかと誘われてはいた。

ただ、ユウリに感じた初期の違和感とその後の展開から少しばかりルミナから距離を取ってしまっていた。


「そうだな、考えておくよ。今日は、帰るの遅いんだね。最近は、サタンとルルちゃんとも帰らずに一目散に帰っていたのに。」


俺はルミナに言う。

ユウリが来てからは、学校以外のほとんどの時間を彼と過ごしていると言っても過言ではないだろう。

それくらい、ルミナにとってユウリという男は大切な存在なのだろう。

俺は歩きながら考えこんでいたせいで、少しだけ歩調が遅くなっていた。

そして、立ち止まった。

ルミナの方も俺が立ち止まったことに気づき、振り向いた。


「なあ、ルミナちゃん。1つだけ聞いてもいい?」


「はい、何でしょうか?」


俺は少しだけ頭の中で言うべきことを整理した。

出来るだけ、ルミナにバレないように聞くためにはどうすればいいかを。


「もし、ルミナちゃんにとって大切な人が経歴とか本心とか全部ウソでルミナちゃんのことを騙していたって知ったらどうする?」


サタンやルルが聞いたら、聞き方が直球すぎると言われそうだ。

でも、俺にはこれが精いっぱいの隠した言い方なのだろう。

ルミナはそんな俺の質問に少し考えていた。

別に、その表情に何かを察したような感じはなかった。純粋に俺の質問に対して答えを考えているようだった。


「突然ですね。ちなみにどうしてそんなことを聞くのですか?」


ルミナが俺に聞き返す。


「昨日、サタン達とそんな禅問答みたいなことをしていただけだよ。だから、ルミナちゃんはどう思うのかなって。」


これ、もう完全にバレたかなと思った。

流石に聞き方が下手くそすぎた気がする。

まあ、その時はその時でいいか。


「サタン様やルル様ってそういう話好きですよね。」


ルミナはニコリと笑みを浮かべると、俺に言う。

どうやら、自分とユウリのことを言っているとは気づいていないらしい。

いや、それもそうか。

ルミナは今、ルル達が調べ上げたことを何も知らないのだ。

完璧ともいえる情報統制。それによって、ユウリどころかランスフォード家でもハクとクレア、そしてシェフィール以外は誰も知らない情報。


ユウリ・フェルナンデス。本名は、ウラド・イエッリーニ。

かつて、ハクの父の代に裏切りを画策しようとしてハクによって一族郎党に至るまで滅ぼされた家の生き残りらしい。

正確にはハクも生き残りがいたことに驚いていたようだ。

唯一の生き残りとなったウラドはその後、顔も名前。更には経歴から何から何に至るまで全てを書き換えてすでに忘れ去られていたフェルナンデスという家の名字を名乗ってランスフォード家に仕えるようになったらしい。


なぜ、フェルナンデスという名字を名乗ったのか。

実際に偶然とは言え、突き止められる遠因となったのにそれを名乗った理由は最後まで不明だった。

しかし、その背後にはイギリスで多発している魔術テロの組織の1つが関与しているらしい。

問題は、その組織がどこに潜伏しているかが全く分からないことだが。

ランスフォード家の書庫で5人でいてから1週間も経たずにユウリ、もといウラドの素性のほとんどが明らかとなった。

顔も名前も経歴も変えた上で、恐らくは自身の性格から何から何まで偽ってランスフォード家に潜入をしていたらしい。

全ては、自身の一族を殺したハクに対して復讐をするために。

そして、ランスフォード家に伝わる、今はルミナが持っている刀。

名前は“鬼徹(きてつ)無塵(むじん)”。ウラドが入っている組織としてはそれを奪うことが目的らしい。

ウラドがユウリ・フェルナンデスという名前で活動出来ているのもその組織が裏で様々な工作を行っていたかららしい。


しかし、よくこの短時間でここまでの情報を調べ上げれたなと感心する。

それも、俺達以外に全く情報を漏洩せずにだ。

正直、ルルという少女のことを甘く見ていたのかもしれない。

今後はあまり秘密ごととかしないようにしようと思った。


「…そうですね。私にとって大切な人に裏切られたらどうするかですよね。」


俺がここまでのことを思い出している最中、ルミナは俺からの質問を考えていたようだ。

表通りからは少し離れた場所なのもあって、人の往来はほとんどいない。

遠くからは、恐らくは俺達の通っている学校の生徒だろうか。声が響いてくる。


「まあ、裏切るって言い方じゃなくてもウソをついていたってことを知ったらってこともでいいよ。」


何でこんなことを聞いているんだろう、と自分でも思う。


「私は、それでもその人のことを信じようと思います。」


「ルミナちゃんに対しての態度が偽物だったとしても?」


俺はニコリと笑って答えるルミナに聞き返す。

ルミナはコクリ、と頷く。


「はい、だって例え本心ではなかったとしてもそれは私にとっての大切な思い出ですから。そもそも、私みたいな人間に優しくしてくれる人がいたとしてそこに何かしらの下心?何て言えばいいんでしょうね。」


そう言うと、ルミナは困ったように笑った。

言いたいことは分かる。

確かに、俺もいい言葉は思いつかない。


ウラドの目的はルミナの持っている刀の回収と自身がされたことをハクにやり返すことが目的。

つまりは、ルミナを殺すということだろう。

その為に、幼少期に嫌われ続けていたルミナに近づいた。

そして、剣術の指導という恐らくは最もルミナが求めているモノをすることでルミナの心を掴んだ。


クレアが以前、ウラドのことをDV男みたいだなんてことを言っていたがまさに当たっているなと思ってしまう。

そして、それにまんまと騙されてしまったルミナ。

サタンのルミナ評、そのままだと思ってしまう。悔しいが、やはり10数年の腐れ縁なだけはあるなと思う。


「逆に、剣様はどう思うんですか?例えば、サタン様やルル様が剣様を利用するために近づいて偽物の友人として振る舞っていたと知ったら?」


ルミナが突然、そんなことを聞いてくる。

俺は一瞬、言葉に詰まってしまう。

確かに、考えたことはなかった。

少なくとも、サタン達が何か隠しごとがあって、その目的のために俺が利用されているなんてことは考えられない。

でも、実際に俺が今のルミナのような状況に会ったらどうするだろうか…。


「どうするんだろうな…。」


俺は苦笑いを浮かべてルミナに言う。

正直、想像がつかない。


「サタン様とそれについて話していたんじゃないんですか?」


ルミナが俺のそんな返答に呆れながら言う。

表情のどこかに相変わらずだなという感情が読み取れた。

そして、ルミナは再び少しだけ笑みを浮かべた。


「私は、もしそんな状況になったらそれでもその人のことを信じようと思います。もしかしたら、どこかで心変わりをしてくれるかもしれないですし。」


その信じようとしている人間は、恐らくルミナのことを殺そうとしているんだぞと言いたい気持ちだった。

しかし、俺はそれを言うことは出来なかった。

それを言えば、恐らくルミナという女性にある心の拠り所を1つ壊すことになるからだ。

すると、ルミナがそれにと言葉を続けた。


「…それに。大切な思い出はずっと心に残っている方がいいですから。例え、それが最悪の思い出になったとしても。記憶なんてモノは自分にとって都合がいい方が人生楽ですしね。」


「ルルちゃんも似たようなことを言ってたな。」


俺はルルが言っていたことを思い出した。

ルミナがそれを聞くと、クスリと笑った。


「あの人は嫌な思い出も全部覚えてしまいますからね。」


そう言うと、ルミナは腕にはめている腕時計を見た。

どうやら、そろそろバスの時間が近いのだろうか。


「何だか、あまり明瞭を得ない会話になってしまいましたね。」


ルミナは俺に言う。

そして、言葉を続ける。


「だから、私はそうなったら死ぬことを選んじゃいますかね。一番いい思い出と共に死ぬことを。これから先の人生で嫌な忘れたい記憶を引きづるくらいなら。」


そう言うと、ルミナはそろそろバスの時間が来ますから、と言った。

そして、軽く頭を下げると小走りで走り出した。-


-俺は、ルミナと別れた後自転車を漕いで家へと帰った。

母と適当な言葉を交わすと、階段を登って自室へと向かった。

部屋のドアを開けると、そこにはサタンが俺のベットの上で寝転んで漫画を読んでいた。

この女は本当にブレないなと思った。


「おっ、帰ったか。今日は少し遅いな。」


サタンが言う。

確かに部活の練習がない日にしては遅い時間での帰宅だなと思った。

まあ、ルミナと話をしていたからそこは仕方がない。

俺は先程のルミナとの会話を思い出していた。


“一番いい思い出と共に死ぬ”


恐らく、これはルミナの本心なのだろう。

魔力もない、魔術師として使えない存在だと周りの大人達から切り捨てられた。

その失意の中で唯一、自分に手を差し伸べてくれた人物。

例え、それが自身を殺すために。自身が生まれた家に恨みを持ち、自分に対して憎悪の感情しかない偽物の愛情だったとしても。


ウラドが日本から去るまであと1日か2日くらいだろう。

行動に移すとなると、今日か明日になるだろう。

もし、ウラドが本当にルミナを殺すとしたら…。ルミナはそれを甘んじて受け入れるのだろう。


なぜなら、そのまま生き続けても自分が師として尊敬していた人物は演じていた存在でしかないことを知った上で生き続けることになるのだから。


なら、俺がすることは何だろうか。

俺は、大きくため息をついた。

そうだよな。するべきことなんて、分かり切っているはずだ。


別に俺はルミナの主になる気はこれまでもこれからもない。

ルミナからどれだけ俺の付き人だと言われてもそれは頑なに拒み続けた。

だが、少なくともあの時決めたはずだ。ルミナという少女の居場所になる、と。

最悪の結末になろうが何だろうがそれだけは決めている。

俺は、サタンに視線を移した。


「…サタン。1つだけ、頼みたいことがある。」

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