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ユウリの謎

「…ダメだ。どれを調べても、あの男の出自に関するデータが見つからない。」


大量に積みあがった、本から1冊を抜き取り読んでいたクレアが嘆きながら言う。

隣では同じようにアリスが熱心に調べていた。


「英語が読めないせいで何書いてあるかが分からないの何とかならないのかな。」


俺は、ペラペラと本のページをめくりながらつぶやく。


「でしたら、しっかり英語の勉強をしてください。」


隣に座っているルルが言う。


「日本の英語は大学受験に受かるための英語だからな。話せないわ、大して読解力も付かないことで有名なんだぞ。」


「はいはい。言い訳をする暇があるなら、とりあえずちゃんと調べましょうね。」


俺の言葉を適当にあしらうルル。

今、俺達はランスフォード家の書庫にいる。

ルミナがユウリを連れて地元の観光案内をするとかで、1日家にいないのでその隙を見計らってこっそりと来たのだ。

もちろん、本人も内緒で、ランスフォード家の人にもルミナに言わないようには頼んである。

ルルとクレア、そしてアリスとルシフェルという面子で来ているがここまで大した情報は得られてない。


「そもそも、どうやってあの男ってお姉ちゃんの世話係になれたの?」


クレアのすぐ近くで立っていたシェフィールにクレアが尋ねる。


「確か、ルミナ様が1人で庭で剣術の稽古をなされている所を偶然見て教え始めたのがきっかけだったはずです。」


シェフィールが思い出しながら言う。


「どう聞いても、怪しさしか感じないんだよねー。」


クレアが本を読むことに飽きて来たのか、ポイッと机の上に投げ捨てると座っていた椅子をガタンガタンと揺らしだした。


「そんなに怪しいか?」


俺はユウリが巻き込まれた事故とやらが書かれている書物を何とか翻訳機を片手に読みながら、クレアに言う。


「逆にお兄ちゃんは怪しいと思わないの?絶対にお姉ちゃんに対して何かしらの狙いがあって近づいていたと思うんだよね。」


クレアが乗り出して、俺に言う。


「まあ、確かにハク様然り私も怪しいとは思いましたけどね。ご両親と私を除くと忌み嫌っていたルミナ様に近づくなんてと。ただ、その後の行動を見ていると世話係として剣術の指導を見てもらうということに関してはこれ以上ないくらいに適任だったそうで。」


シェフィールがクレアに対して言う。

そう、聞けば聞くほど別に怪しいことはない。

…ないはずだ。

なのに、何でこんなに違和感を感じるのだろうか。


「そもそも、ここまで出自が分からないような人間っているんですか?実際。」


ルシフェルは欠伸をしながら俺達に尋ねる。

そんなこと俺に聞いても分かるわけがない。俺は隣にいるルルを見る。


「基本は魔術師なんてモノは血筋ありきな所がありますからね。ましてや、魔力があるのに魔術を持っていないなんて聞いたことがないですね。」


ルルはそう言うと、ペラペラと年表をめくった。


「ルーシーみたいな感じだとしても、それなら誰かがランスフォード家に入る際に紹介があるはずです。それすらない。フェルナンデスという名字がありながら出自が一切不明なんてやっぱり何かがおかしいと思うんですよね…。」


ルルはそう言うと、考え込んだ。

魔術師についてほとんど知識がない俺からしたらさっぱりな話だ。


「そもそも、シェフィール?フェルナンデス家なんて、ランスフォード家にいたっけ?」


椅子を揺らしながら尋ねるクレア。


「いえ、私は全く…。」


シェフィールが首を横に振る。


「だよね。私もお母さんに聞いたけど、知らないが気づいた時にはランスフォード家に仕えていて気づいたらルミナの世話係として雇っていたって言ってたんだよね。」


クレアはそう言うと、足を机の上に乗せてくつろぎだした。

これはもう完全に飽きてしまった感じだな。

姉のルミナと違い、かなり大雑把で飽き性なところがある子だ。

ルミナ曰く、母のハクに似ているらしい。

俺からすると、サタンの小さくなったバージョンにしか見えない。


「幻術の類で、精神操作しているとか?」


ルシフェルがクレアの話を聞くと、ポツリと言う。

ルルが読んでいた年表から顔を出して、ルシフェルの方を見た。


「私もそれは考えたんですけどね。でも、それをするなら相当の術者になりますよ。正直、自分が魔術を持っていなく、経歴から何から何まで偽れるレベルの精神操作って…。下準備から何から何まで大掛かりすぎてとても想像出来ないんですよね。」


「それも一介の人間ですからねー。」


ルルの言葉にルシフェルも同意する。

かれこれ、1時間くらい片っ端から色々な文献を調べているが何の手掛かりも見つけられない状況だ。


「そういえば、何でルルちゃんは来てるの?」


俺はふと、思い出したかのように尋ねる。

ルルはチラリとこちらを見る。


「何で、とは?」


ルルが聞き返す。


「いや、ルミナちゃんが騙されていても興味無いですみたいなこと言ってたのにさ。」


俺は、何の手掛かりも見つけられないことに飽きて来て、持っていた本をクレア同様に机の上に投げ捨てると言った。


「別にルミナさんがどうなるかは知らないですけど。あなたに頼まれたから多少は力は貸しているだけですよ。どうせ、英語の書物なんて読めないでしょうから。」


ルルはそう言うと、再び本の方に目線を移す。

俺はルルに何も言い返さずに、首をすくめた。

ルミナのことが心配ならそう言えばいいのに。地味にこの子も素直じゃないな、と思う。


「フフフ、青春ですね。」


ルシフェルが何が面白いのか笑いながらルルに言う。

ルルはそんなルシフェルを軽く睨んでいた。


「よかったですね、ここが人の目が多い書庫で。もし、人目が少なかったら魔法をぶっ放していましたよ。」


そんな物騒なことを言うルル。

ルシフェルはそんな言葉を気にもせずに、ニコニコと笑っていた。


「まだ、ルーちゃんには負けませんよ。もう少し強くなったら私が相手してあげますね。」


そんな余裕そうなことを言うルシフェル。

ルルはプイっと少しばかり機嫌が悪くなったのか本の方に再び視線を戻した。


「…あの。これ、見てもらってもいいですか?」


これまで静かにしていたアリスが俺達に小さな声で言う。

そして、本を俺達の方に見せてくる。


「…読めないんだけど。」


俺はポツリとつぶやく。


「別にお兄ちゃんが読めると思ってないから大丈夫だよ。えっと、何々?」


クレアはツッコむと、アリスが開いていたページに目を通す。

それはルルも同じだった。

そして、2人の表情が一気に変わっていくのが見えた。


「ねえ!シェフィール、これ見て!」


クレアが背後に立っていたシェフィールを手招きする。

シェフィールもクレアの慌てた様子に少しばかり戸惑いながら書かれている文字に目を通す。


「ごめん、何でそんなに慌てているのか教えてくれない?」


俺は2人の急な変わりように驚くと、ルルに言う。


「あったんですよ。ユウリ・フェルナンデスについての情報が。いえ、正確にはフェルナンデス家という存在についてが。」


ルルはそう言うと、顔をさらに近づけてそのページに書かれている文章に目を通していく。

俺は本の表紙をチラリと見た。

そして、書かれている文字を持っていた携帯の翻訳アプリにかけてみた。


『ランスフォード家 年代記』


本にはそう書かれていた。

恐らく、何冊もあった年表の1つだろう。


「それで、何が分かったんだよ?」


俺はルルにさらに尋ねる。


「ユウリ・フェルナンデス、なんて人物はこの世にいないんですよ。いえ、正確にはいた。という表現の方が正しいでしょうね。」


「…いた?」


俺はルルの言葉を聞き返す。

突然、何を言っているのだろうか。


「フェルナンデス家自体がすでにこの世に存在しない家だってことだよ。とうの昔に途絶えている本来は今、この世界にその名前を名乗る人がいるのがおかしいって話だよ。」


いや、途絶えていると言うが実際に現在進行形でその名字を名乗る人がいるんじゃないのか。

俺は、やはり2人の発言の意味が分からなかった。


「これを見てもらえば分かりますよ。」


ルルはそう言うと、いくつにも枝分かれになっている家系図を見せてきた。

そして、そこにはフェルナンデス、と英語で書かれていた。


「本来、ここで終わっているんですよ。」


そう言うと、その部分を指さす。

確かに、かなり昔に途絶えていて現代に至るまでそれが書き加えられている様子はない。


「クレア様。これを。」


シェフィールが目を通していた別の本を渡す。

クレアがそれに目を通す。


「ルル様。フェルナンデス家がどうして途絶えたか、分かりましたよ。」


そう言うと、クレアは顔を近づけてきた。

どうやら、あまり大きな声で話したい話題ではないらしい。

俺とルル、そしてアリスとルシフェルもクレアに顔を近づける。


「フェルナンデス家はかなり昔にランスフォード家に逆らって一族を潰されているんだよ。これを見る感じだと私やお姉ちゃんの生まれるずっと前。恐らく、お母さまが小さい頃の話くらいなのかな?」


「…つまり、ユウリってあの男はその末裔だったって話か?」


俺はクレアに聞き返す。

クレアは首を横に振る。


「分からない。でも、アリスは何でこれを見つけれたの?」


意外そうな表情でクレアがアリスに尋ねる。

確かに、あれほど年代記は似たようなモノがあったのにそれについては全く書かれていなかった。

というか、この年代記の表紙だがかなりボロボロだ。

まるでこの本がどんな本なのか分からせたくないとばかりに。


「えっと、その本だけ別の場所にあったんだよね。ルシフェル様が面白そうな本はないか、とか言って関係ない場所を探していたらそこの処分するはずだった場所にあったから…。」


アリスがクレアに説明する。

クレアがチラリとルシフェルを睨む。

ルシフェルが軽く自分の頭を叩いて、舌を出していた。

何サボっているんだ、この堕天使…。


「なるほど、見られたくないからわざと処分させようとした…?」


ルルがポツリと言う。

確かに、それなら辻褄が合う。

辻褄は合うが、どうしてそんなことを…?


「どうしますか、剣さん?」


ルルが俺を見上げながら、尋ねる。

どうしますか、って言われても…。


「少し、この話はここで終わらせてもらえないかな?ちょっと、一度考えたいから…。」


俺は、4人に対して言った。

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