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私は味方だ

その日の夜、ルミナとユウリの2人がいつもの場所に行く時間だった。

俺は、2人に気づかれないようにコッソリとその後を追っていた。

そして、少し離れた場所で2人の様子を眺めていた。


「…何しているんだろ、俺。」


思わず、自分の状況を客観視するとその情けない姿につぶやいてしまう。

これでは完全にストーカーか何かだ。

以前のサタンのことを笑えないな、と自虐気味に思った。


「ねえ、知ってる?布団を干した時のいい匂いって実はダニの死骸なんだって。」


どこかで聞いたことがあるようなセリフを声真似しながら、2人の様子を見ていた俺の耳元に囁いて来た。


「ゴミみたいな情報を脳内に流してくるなよ…。」


俺は声の主が誰かすぐに分かったので振り向きもせずにぶっきらぼうに言い返す。

こんなことをするのは身内の中だと誰なのかは大体予想出来る。

というか、声真似のつもりなのだろうが全く似てないとツッコミたい。


「残念だったな、今のはゴミにも満たないが限りなくゴミに近い情報だ。」


「なおさら、タチが悪いわ。何しに来たんだよ?」


俺はチラリと声の主の方を振り向くと言う。

背後には黒い腰まで伸びた髪を後ろで束ねていたサタンがいた。

どうやら、風呂に入る前のようだ。

本当に何をしに来たのだろうか。


「随分と面白いことをしてるじゃないか。」


サタンがニヤニヤと笑いながら俺に言う。


「冷やかしに来たのなら帰れよ。」


「別に冷やかしに来たわけじゃないんだけどな。しかし、今のお前の姿を見ていると以前の私のことを笑えないな。」


サタンはそう言うと、フンと鼻で笑った。

…余計なお世話だ。


「どこぞの誰かさん達が意味深なことばかり言うから気になっただけだよ。」


俺は草陰に身を潜めて、2人の様子を眺めながらサタンに言う。

どうやら、今は竹刀でルミナの素振りに対してユウリが何やら指導をしているらしい。


「ルルが少し機嫌が悪くなっていたぞ。ルミナには甘いって。」


「別に甘くしてるつもりなんてねえよ。というか、何でルルちゃんがそれで機嫌が悪くなるんだよ。」


俺はサタンに言い返す。


「さあな、本人にでも聞いてみればどうだ?まあ、私としてはルルの気持ちはよく分かるから何も言う気はないな。」


「流石、結婚相手にまで口を出しちゃうようなシスコン様は言うことが違いますね。」


精一杯の皮肉をサタンに言う。

サタンはいつもなら何か言い返してきそうなのに、今日はそんな様子もなく俺と共に2人を見ていた。


「で、どう思う?あの男。」


ユウリの方を見ながらサタンが尋ねる。


「分からない。見てる感じと話した感じでは、とてもルルちゃんやクレアちゃん達が危険視するような人には見えないけど。」


「それは本心で言っているのか?」


サタンがチラッと俺を見ると言う。


「…どういう意味だよ?」


「そのままだ。本当にそう思っているのかなってだけだ。わざわざこうやって見に来るなら、お前自身も何かしらの違和感があるからだろと言いたいだけだ。」


「やっぱり、お前のこと嫌いだわ。変に勘がいいところとか特にな。」


俺はサタンを睨みながら言う。

普段は何も考えてなさそうな脳筋のくせに、どうしてこういう時は無駄に勘が良いんだ。


「部下の心情の細かな変化を察するのも上に立つ者の宿命だからな。」


「いつ俺がお前の部下になったんだよ…。」


俺はため息をつきながら、サタンに言い返す。

今のところは本当に何もおかしなところはない。

ただの師弟が仲睦まじく稽古をしている光景でしかない。

やっぱり、あの時感じた違和感は気のせいなのだろうか。


「しかし、まさかのライバル出現とはな。幼い頃の世話になった年上の男とか恋愛漫画大好きなあの女からしたらドストライクだろ。」


サタンが木の根元にもたれかかると、そのまま座っていた。

そして、ニヤニヤとしながら俺に言う。

本当に冷やかしに来ただけなんじゃないか、と疑わしくなる。


「何でライバル認定されなきゃいけないんだよ。あの子が小さい頃の恩人とどんな関係になろうと俺には知ったこっちゃないんだし。」


「でも、その割にはちゃんと見に来ているんだな。相変わらず、ツンデレだな。」


「誰がツンデレだ。本当にからかいに来ただけなら帰れよ。」


俺はそう言うとサタンを睨む。

サタンは首をワザとらしくすくめると、怖い怖いと小さな声で言う。


「というか、お前の方こそユウリさんが怪しいと思ってるのか?」


俺はふと、サタンに尋ねる。

無駄に勘だけは鋭いこの女のことだ。もしかしたら、何か気づいているのかもしれない。


「いや、別に。私はルルが妙に機嫌が悪そうだったからバカにしたら怒られたからここに逃げて来ただけだ。」


「もう、お前は本当に一度痛い目を見るべきだと思う。」


俺は呆れながらサタンに言う。

というか、ルルに関しては何が気に食わないのだろうか。

別に今日、俺と話していた時はそんな様子は見せていなかったのに。意味深なことは色々と言われたが…。


「まあでも、クレア達の言いたいことも分かる気がするけどな。何だか、DV彼氏の手口みたいだよな。完全に。」


「また変な恋愛ドラマ見て、ロクでもない知識を得てるんじゃねえよ。」


俺は最近はネット配信されているドラマで恋愛モノばかり見ている自称人類最強に言う。

絶対に日本に来てから変な知識ばかり増えているような気がする。

まあ、俺の部屋にサブカル趣味のモノばかりあるのもその理由の1つなのかもしれないが。


「ただ、私から言わせればルミナが変な男に騙されようが知ったこっちゃないという話だな。」


「ルルちゃんも似たようなこと言ってたけど、お前らって案外ルミナちゃんに冷たいよな。」


俺は素振りの指導を終えて、軽い打ち合いの稽古に移っている2人を見ながら言う。


「別に冷たくはないと思うけどな。女の友情なんてこんなモノだぞ。逆にお前は何だかんだルミナに関しては妙に気にしているところがあると思うんだがな。」


サタンがニヤリと笑うと、俺に言う。


「どことなく、俺と似ているような気がしたからだよ。何だか、放っておけないみたいな。」


「まあ、似てるからな。お前達、2人って。」


余計なことを言わなくていいんだよ、とサタンに言ってやりたかった。

サタンは本当に2人の様子に興味がないのか真っ暗になっている空を見上げていた。

何やら星の数を数えているのだが、暇なら帰れよと思う。


「ただ、似てると言っても中身はだいぶ違う気がするけどな。あいつは根っからの善人だからな。」


「俺は悪人だと言いたげだな。」


サタンの方をチラッと睨むと言い返す。

サタンは先程からのニヤリとした笑みを変えずにいた。


「そこまでは言っていない。ただ、善人ではないというだけだ。でもいいと思うぞ。魔術師なんてモノは善人には務まらないからな。」


「どういう意味だよ?」


俺はサタンに聞き返す。


「そのままだ。どうして、あいつが任務を与えられないか知っているか?」


「それは、体質とかそういうのが原因じゃないの?魔力を持たないのに、的な?」


サタンはそれを聞くと、首を横に振った。


「別にあいつの実力なら十分にそこそこの任務なら務まる。というか、対魔術師に関してならあいつの体質はかなり適任だ。理由は、あいつは優しすぎるし素直すぎるからだよ。魔術師なんてのはいかに人を騙して自分が生き残るかが大事だからな。そこを不安視してハクが止めているだけだ。」


そう言うと、サタンはユウリの方を見た。


「そういう意味ではあの男は魔術師として最適な人間だろうな。恐らく、あれは人格すらも全て偽っているだろうな。」


サタンが気になることを言う。

俺は、サタンの方に視線を移す。


「…どういう意味だよ?」


サタンは中腰で立ち上がると、俺の方を見てきた。

そろそろ帰ろうというところだろうか。


「そのままだ。あれは、ルミナはもちろん私達も騙しているな。下手すれば、魔術がないなんて話もウソかもしれない。」


そう言うと、よいしょと立ち上がった。

そして、軽くズボンに付いた砂を落とした。


「クレアちゃんも似たようなことを言っていた気がする。」


俺はサタンを見上げながら言う。

すると、声が聞こえてきた。

どうやら、ルミナとユウリが帰るようだ。

サタンも流石に2人に見られたくはないのか、再び姿を隠した。

俺はサタンと共に2人の姿を見ていた。

どことなく、ユウリの視線が俺達の方を見てきたような気がした。流石に、これは気にしすぎだろうか。


「というか、ルルからは何も聞いていないんだな。」


サタンが意外そうな表情をしていた。

2人の姿はほとんど見えなくなっていた。

俺も帰るかと思い、立ち上がった。

サタンもそれを見ると再び立ち上がった。

そして、サタンは少しばかり何かを察したかのように見えた。


「いや、いいや。今回は完全にお前の判断に任せるつもりなんだろうな。なら、私もそうするとしようかな。」


サタンはそう言うと、軽く腰を叩いた。


「ちょっと待てよ!それこそ、もしルミナちゃんに何かあったらどうするつもりなんだよ?」


俺は帰ろうと歩き始めたサタンの肩を掴むと、言う。

サタンはチラリとこちらを振り向いた。


「その時になったら、しっかりと対処はするさ。ただ、あいつはお前の付き人だろう?なら、まずはお前がしっかりと見ておけという話だ。」


「俺は別にルミナちゃんの付き人になったつもりなんてねえよ。それに、もし何か起きたらってルミナちゃんのことが心配じゃないのかよ?」


それを聞くと、サタンがフッと軽く笑った。


「ルルから聞いたんだろう?私達3人が青春漫画のようなキラキラした友情があると思っているのか?リヤドにも言えるが、お互いダラダラとここまで一緒に来ただけの腐れ縁だ。自分のケツくらいは自分で拭くのは当然だろ。それに…。」


そう言うと、サタンは俺から視線を戻し再び正面を見た。


「あいつだって、ランスフォード家の次期当主だ。自分の家の不始末くらいは自分で何とか出来るようになってもらわないと困るからな。」


そう言うと、サタンは歩き始めた。

しかし、言い忘れたとばかりに立ち止まると再び俺の方を見てきた。


「そんな怖い顔をするな。別に私はルミナの味方だし、お前の味方だ。だから、困ったらいつでも頼れ。その判断をどうするかはお前が決めるべきだ、というだけの話だ。私がルルの結婚を最後まで反対するという判断をしたのと同様にな。」


そう言うと、サタンは帰るぞとばかりにジェスチャーをして歩き出した。

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