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妹の本音

家の冷蔵庫を開けると、アイスが切れていたことに気づいた。

時間もあることだから、近所のドラッグストアにでも行って買って来るとするか。

そういえば、今朝のチラシで特売が書かれていた気がする。

俺は、ルルが自室に戻って何やら作業をしているので1人で行くことにした。

サタンもまだ、帰って来てないようだ。

そろそろ帰っては来るとは思うが、ルルもいることだから家の鍵は開けて置いたままでいいだろう。

俺は、財布をポケットに入れると靴を履いて玄関から外に出た。

天気もそこまで悪くはないので、散歩がてらにちょうどいい。


「あっ、お兄ちゃんだ。」


歩き始めてから、家から少し離れた場所で聞き覚えのある声が聞こえて来た。

振り向くと、クレアとアリスがいた。


「おっ、学校から帰って来たの?」


背中にランドセルを背負っていないので、すでに帰宅した後なのだろうか。

俺は、立ち止まるとクレアに尋ねる。


「うん、帰って来たばかり。お菓子買いたくなったからアリスと一緒にね。ついでに、飲み物も買って来てって頼まれたから。」


「お使いか、偉いね。」


俺はクレアに言う。

そして、2人と一緒に歩き始めた。


「お兄ちゃんは?」


クレアが俺に尋ねてくる。

俺は、すでに視界の先にあるドラッグストアを指さす。


「あそこのドラッグストアでアイスを買いに行く予定だよ。家の冷蔵庫を見たら、切らしていたからさ。」


「じゃあ、私達もそこでいいや。スーパーまで歩くかどうか迷っていたから。」


クレアが俺に言う。

アリスの方もうんうん、と頷いていた。

少しばかり、沈黙が流れた。

学校はどうか、とか何かしら話題を振ろうと思った時だった。


「そういえば、お姉ちゃんと例の男の人。かなり仲いいみたいだよ。」


クレアがポツリと言う。


「まあ、それはそうじゃない?というか、師弟関係なんだから仲いいのは当たり前でしょ。」


俺は急に何を言い出すのか、と言った感じでクレアに言う。

クレアは俺の方をチラッと見上げた。


「お兄ちゃん的にはいいのかなって?」


「別にいいも悪いもないだろ。そもそも、俺はルミナちゃんとはただの友達ってだけの関係なんだから。それ以上もそれ以下もないよ。」


発言の意図があまりよく分からないので、首をすくめて答える。

クレアはそれを聞くと、立ち止まった。

あとほんの少しで目的地だというのにどうしたのだろうか。


「お兄ちゃんは、あのユウリとかいう男のことをどう思う?」


先程より少しばかりトーンを落とした、普段のおちゃらけた感じとは真逆の雰囲気でクレアが尋ねる。


「どう思うって…。普通にいい人だと思うけど?ルミナちゃんの幼い頃に身内の人以外だと唯一と言っていいレベルで親身になって接してくれた人なんでしょ?ルミナちゃんの今の剣術の基礎を教えてくれた人って印象しかないけど。」


違和感は感じてはいるが、それについては言わないでおこうとした。


「本当にそう思ってる?」


クレアが意味深なことを言う。

先程のルルとの会話からまだほとんど時間が経っていないので、ルルから言われた言葉が脳裏に浮かんでいた。


「逆にクレアちゃんはどう思っているんだよ…。」


俺はクレアに聞き返す。

クレアは言うべきか言わないべきかを悩んでいるようだった。


「私は、何か嫌な予感がするんだよね。何だろう、お姉ちゃんがあの男に騙されているんじゃないかって。」


「騙されてるかも、って。仮にもランスフォード家に仕えていた人なんだろ?」


ルミナの生い立ちを知っている俺からしたら、わざわざルミナとの距離を縮めるために騙すということをするメリットがあるとは思えなかった。


「まあ、私もそう思うんだけどさ。何か言ってる言葉の節々から違和感があるんだよね。」


「ちなみに、その違和感とやらを聞いてもいい?」


俺は意味深な表情をするクレアに言う。

隣では、アリスが俺達の様子をジッと見ていた。


「それでは、この私が話してあげましょう!」


突然、背後から声が聞こえた。

俺は驚いて振り向くと、そこにはルシフェルがいた。


「驚かすなよ!心臓が止まるかと思った!」


神出鬼没な登場に思わず声を上げてしまう。

ルシフェルはいつもの見慣れた服装だった。

それなりに人が歩いているので、あまりホイホイ外出するのは控えて欲しい。

痴女認定されかねないぞ、と服装を見て思った。


「脳内お花畑のルミちゃんが心配なんですよね?」


ルシフェルが俺に顔を近づけて言う。

そんなこと言うと、またルミナに怒られるぞと思ったが黙っておくことにした。


「心配しているのはクレアちゃんの方だろ。俺は別にあの男の人に対して怪しんではいないよ…。」


俺はのけぞるようにして、ルシフェルから距離を取る。

…顔が近い。


「フフフ、相変わらず素直じゃないですね。でも、そんな素直じゃない剣様の為にとっておきを教えて差し上げましょう。」


ルシフェルがドヤ顔をしながら、俺に言う。


「ルシフェル、ふざけなくていいからさっさと言ってあげて。」


クレアがルシフェルに言う。

真面目な口調で言われたからか、ルシフェルははーいと不満気に言う。


「どういう意味だよ?」


俺はルシフェルに聞き返す。

とっておき、とは何の話なのだろうか。


「あの、ユウリとかいうルミちゃんの元カレ?あれ?元カレでいいんでしたっけ?」


そう言うと、クレアの方を見る。

クレアがそんなこと知らない、といった表情をしていた。

話が進まないから、さっさと要件をまとめて話して欲しい。


「まあ、いいです。その男が言っていた転送失敗の話ですけど、聞いていて違和感しかないんですよね。」


「違和感って何だよ?魔術が暴走しただけじゃないのか?」


俺はルシフェルに聞き返す。

ルシフェルは首を横に振る。


「そもそも、暴走なんてモノは起こらないんですよ。それはどんな魔術でも。起こるとしたら、それは何かしらの術者の意志が介在した場合。つまり、暴走させるために敢えて、わざと失敗したという話になるのです。」


「言っている意味が分からねえよ。つまり、お前はそのユウリさんが巻き込まれた事件は誰かがわざと起こしたって言いたいのか?」


俺はルシフェルに聞き返す。

ルシフェルはさきほどのふざけた表情から、神妙な表情になっていた。


「そうです。そして、私は考えたのです。わざわざ転移魔術を暴走させる意味はどうしてだろうかと。考えられるとすれば、特定の人物を全く見知らぬ場所へと送り込みたかった、とかですかね。」


「つまり、ユウリさんを行方不明にさせたい人間がいたってこと?」


俺の言葉にルシフェルは首を横に振る。


「最初は私もそうかな、と思ったんです。それだと、まああの男の言っていることの整合性は取れますからね。でも、あの男は自身の言葉で1つウソをついているのです。他の人間は騙せても、私やルーちゃんみたいな魔術に通じてる者がいる前であれを言ったのは間違いでしたね。」


「回りくどいな。さっさと、教えてくれよ。」


俺は少しばかり、イラついた声でルシフェルに言う。


「そんなに機嫌を損ねないでください。あの男は巻き込まれた際に記憶を失ったと言っていました。しかし、そんなことは起こりえないのですよ。というか、そもそも転移魔術が失敗した際に人のいるような場所に送られることはまずありません。亜空間、つまり永久に出ることが出来ない何もない場所に行くだけの話なんです。」


俺は、ルシフェルの話を聞くと背中から汗が流れているのを感じた。


「私も、最初にルシフェルからそれを聞いて嫌な予感がしたんだよ。ただ、お姉ちゃんに言ってもどうせ信じないし、下手したら逆上しだす可能性があるからえ。それと、ユウリってあの男に知られるのもあまりよくないと思ったんだよ。」


クレアはルシフェルの話が終わると、交代とばかりに俺に話しかける。


「…だから、コッソリと調べたんだよ。あの男について。問題は、何も分からなかったってだけなんだけどね。」


「…分からなかった?」


俺はクレアの言葉に聞き返す。


「そう、分からなかったの。両親はおろか親族すらいない。突如、ランスフォード家に雇われると、まだ幼い次期当主のルミナ・ランスフォードの世話役となった。それ以上もそれ以下もないのよ。」


「でも、それはユウリさんが言っていたことだしルミナちゃん自身も言っていたことなんだからおかしくないんじゃないの?」


俺の言葉にクレアは首を横に振る。


「お兄ちゃんは魔術を扱う家について何も知らないから教えてあげるね。魔術師にとって親はもちろん親族の関係ってのはとても深いモノなの。それで自身の魔術はもちろん魔力量すら決まるんだから。つまり、突如何の繋がりもない男がふらりとやって来てそのままそれなりに家柄のある私達の家に雇われた。加えて、その次期当主の世話役になるなんてのはあり得るわけがないのよ。」


「でも、実際に起きているんじゃないの?」


「そう、起きてるからおかしいって話になるんだよ。でも、それについて誰も疑問に思っていない。お母さんすらも…。」


クレアはそう言うと、再び黙り込んでしまった。


「…そのお兄さん。私も凄く嫌な予感がしているんです。」


これまでずっと黙っていたアリスが突然小さな声で申し訳なさそうに話し始めた。

俺はアリスの方に視線を移す。


「私は、クレアちゃんやルシフェル様みたいに魔術師とか転移魔術については全然分からないです。でも、あの人からは凄く邪悪な感じがするんです。」


「…邪悪な感じ?」


アリスの言葉に俺は聞き返す。

この会話の間、ずっと聞き返してばかりだなと思ってしまった。

まあ、話の内容からして仕方がないのだが…。


「はい。その、パッと見は凄くいい人だなって思ったんです。ルミナお姉さんの話からもきっと、お姉さんはこの人のことが大好きだし尊敬しているんだなって。でも、その…。目の奥が笑っていないんです。何かを狙っているかのような目をしていて。とても怖かったんです…。」


アリスは段々と自信がないからなのか声が小さくなっていく。

そんなフワフワとしたことを言われてもなぁ、と思ってしまう。


「私も最初は何言っているんだ、って思ったんだけどさ。ルシフェルから教えてもらって、自分でそれなりに調べてアリスの違和感とやらが多少は理解出来たんだよ。」


クレアはアリスをチラリと見ると俺に言う。


「それで、俺にどうしろって言いたいんだよ?」


俺はクレアに尋ねる。

すでにルシフェルは言いたいことを言い終わったからなのか姿はなかった。

正直、ルミナがユウリのことを信頼している限り今言っている言葉の全ては本人に言っても何の効果もないことは分かり切っている。


「うん、どうして欲しいって言いたいわけじゃないんだよ。私もお姉ちゃんが憧れの人と再会出来たのは嬉しいことだと思っているからさ。ただ、何かが起きた時に止められるのはお兄ちゃんかなって思ったから一応言っておいただけだよ。」


何かが起きた時、って…。

そもそも、俺がどうこう出来るようなことなんてたかが知れている。

クレアは言いたいことを終えると、目的の買い物をしようとばかりに俺を店に行くよう促した。

モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、俺はクレアとアリスと共に店内へと入って行った。

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