ルルからの助言
ルミナとユウリと日課を終えた次の日、俺は学校から帰ってくると着替えを済ませて自室の椅子に腰を下ろした。
いつもならルミナとの日課に行くかもしれないが、今日から数日は行く必要ないと思っているのでラフな格好でいた。
「入ってもいいですか?」
ルルの声が部屋の外から聞こえて来た。
「どうぞー。もう着替え終わっているから、大丈夫だよ。」
俺より少し早く帰宅していたルルがノックをすると、俺の部屋に入って来た。
手にはゲーム機を持っていた。
どうやら、俺の部屋でゲームをするつもりのようだ。
テレビゲームならまだしも、ポータブル機のゲームをするならサタンと一緒に生活している部屋でやればいいのにと思ったがもういつものことなので何も言わないことにした。
「ここに座ってもいいですか?」
ルルはそう言うと、俺が座っているすぐ近くの床に腰を下ろした。
そんな所に座らなくても、サタンのようにベッドの上に座ればいいのに。
「そういえば、サタンは?」
俺は明日までの宿題をするために、教科書とノートを開くとルルに尋ねた。
学校から帰宅する時には同級生の女子達と帰るから、と言っていたがまだ帰って来てないようだ。
「さあ?むしろ、剣さんの方が知っているんじゃないんですか?」
「俺も分からないよ。じゃあ、まだ教室で話しているのかな。」
もしかしたら、一緒に帰っている女子達とどこかに寄って遊んでいるのかもしれない。
まあ、夕飯の時間までに帰ってくれば俺の母も何も言わないだろう。
ルルは宿題をし始めた俺の隣でゲームをしていた。
「宿題はもう終わったの?」
特に話すこともない俺はノートに文字を書きながらルルに尋ねる。
「もう終わらせましたよ。お姉さまもいないので暇なんですよ。」
「だからって、俺の部屋を休憩場所みたいにするのもどうかと思うけど。」
「あら?嫌ですか?」
「別に、嫌じゃないけどさ…。」
俺はルルの方を振り向かないで答えた。
カチカチというボタンを押す音が静かな部屋に響く。
母は買い物に行っているからか家にはおらず、父も弟もまだ帰宅していないので家の中には俺とルル、そして1階にウルがいるくらいだ。
サタンがいる時はサタンの声が響くので騒がしく感じるが、今はとても静かだ。
「そういえば、今日はいつもの日課には行かないんですか?」
ルルはふと思い出したかのように俺に尋ねる。
「当分は行かないかな。ユウリって人も来てるし、わざわざ俺がいる必要もないだろって思ったから。何でそんなこと聞くんだよ?」
俺はそう言うと、ルルの方を振り向いた。
ルルは、ゲーム画面から目を離さずに俺に答える。
「いつもなら、もう少し運動するような服装な気がしましたからね。あと、部活がない日は必ずと言っていいほど行くイメージがありましたから。」
「よく見てるんだな。」
「それはもちろん、ファンですから。」
少しだけ意地悪そうな声で言うルル。
「そういうのやめてくれよ。ヒーローだの何だの言ったり。」
俺は少しだけ嫌な顔をルルにする。
ルルはクスクスと笑っていた。
「そういえば、あのユウリって男と試合をしたんですか?」
「何で知っているんだよ?誰にも言った記憶ないけど。」
俺は、再び自身のノートの方に視線を戻すとルルの方を振り向かずに聞き返す。
昨日はそのまま夕飯を食べて、風呂に入ってそのまま部屋に引きこもっていたはずだ。
ルルはもちろんサタンにもその話をした覚えはない。
「それはもちろん、ルミナさんから聞きましたから。気を落としてないか、って心配してましたよ。」
先程から、どこか楽しそうに言うルル。
本当、ますます最近はこの子に弄ばれている気がしてならない。
将来、絶対にロクな女にならないと思う。
「余計なお世話だ、って言っておいてよ。そもそも、最初はあの人とそんなことする予定なんてなかったんだし。」
俺は不貞腐れたように言い返す。
そもそも、ルミナにすらいまだに剣術で勝てない俺がその師匠に勝てるわけがない。
言い訳と言われようが何だろうが、当たり前の話だ。
「別に馬鹿にしようと思って言ったわけじゃないので、機嫌を悪くしないでくださいよ。」
ルルが背中越しに俺に言う。
どうせ、ニヤニヤしながら言っているんだろうなと想像出来る。
振り向いて俺の不機嫌そうな表情を見られたら、余計に何か言われそうなので振り向かないようにしよう。
「そんなことを話すために、俺の部屋に来たのかよ?今、機嫌が悪くなったから1人にしてよ。」
俺は、ルルにこれ以上会話の主導権を握られるのを嫌がりシッシッと手でジェスチャーをする。
だが、ルルは俺の部屋から出る気配はなかった。
それどころか、無視するようにゲームをしていた。
「…何のゲームしてるんだよ?」
無視をされた恥ずかしさから、俺はルルに尋ねる。
ルルは無言で俺にゲームの画面を見せて来た。
「何このゲーム?」
「ギャルゲーです。」
「何てゲームしてるんだよ…。」
俺は呆れながらルルに言う。
ルルは再び、自分の膝の上にゲーム機を置くとプレイを再開した。
「せっかく日本に来ましたからね、色々なゲームをしたいんですよ。」
「ギャルゲーする女子中学生とか、中々にシュールな光景だな。というか、そのタイトルは初めて見たな。頼めば俺がカセットくらい貸してあげるのに。」
「剣さんの持っているのどれも古いんですよね。一度、最近のタイトルをしてから古いのをやりたいんですよ。あと、剣さんのは女性を攻略するタイプじゃないですか。私は逆のをやりたいんですよ。」
「何その変なこだわり。」
俺は首をすくめて、ルルに言う。
「というか、何でいきなりギャルゲー?最近まではRPGしてたじゃん。」
「私は恋愛面に疎いですから、勉強も兼ねているんですよ。」
「へえ、誰か気になる男の人でもいるんだ。」
そもそもギャルゲーで恋愛の勉強とかだいぶ偏った知識になりそうだなという感想しか沸かない。
「もちろんいますよ。例えば、剣さんのこととか?」
「何だよ、急に。この前から随分と距離の詰め方がグイグイ来ている気がするんだけど…。」
俺は恥ずかしさを隠すために、再び机に広げてあるノートの方を見る。
「それはもちろん、私の時はあれほど乗り気じゃなかったのにルミナさんに見知らぬ男が近づいて来たら随分と慌てているなと思ったからですよ。」
ルルがクスクスと笑いながら言う。
ヤバい、これはまたあっちのペースにされているような気がする。
「何だよ、妬いているのかよ?」
俺は精いっぱい気にしていないぞ、という声で言い返す。
そして、ルルの方を振り向く。
流石に、振り向かずに言うと恥ずかしがっているのか何だの言われそうな気がした。
「それはもちろん。自分のヒーローが知り合いの女性のことばかり気にしてたら妬きもしますよ。」
「前はヒーローはみんなのモノとか言っていたくせに。」
「ルミナさんのことになると随分と親身になるなと思ったからですよ。」
ルルが少しだけ上目遣いに俺を見ながら言う。
「別に親身になっているつもりはないんだけどな。ただ、あの子ってどこか危なそうな雰囲気があるからさ。騙されそうなとか。人が良すぎるから。それに、何か見捨てておけないんだよ。」
「…私は大丈夫と?」
「ルルちゃんはサタン並みに強いからどうとでもなるかなってのがあるからだよ。」
少しだけ機嫌が悪くなってそうなルルに対して賞賛の言葉を言う。
サタンやルミナなら多少は単純だからある程度機嫌を直してくれそうだが、ルルはそうはいかないだろうなとは思ったが…。
「じゃあ、そういうことにしておいてあげます。」
ルルはそう言うと、再びゲーム画面の方に視線を移す。
そして、ポチポチと操作をしていた。
俺はその光景を椅子に座ったまま眺めていた。
「そういえば、あの男についてどう思いますか?」
一瞬、沈黙が広がるとルルが俺に尋ねる。
「…あの男?」
俺は急に何の話か理解出来ずにルルに聞き返す。
ルルはチラリと俺の方を見てくる。
「ユウリ・フェルナンデスについてですよ。」
ルルは何を聞いているんだ、という表情をしていた。
「いや、別に悪い人には見えないけど。」
「本当にそう思いますか?」
ルルは先程の冗談を言うような雰囲気ではなく、真面目な雰囲気で俺に聞き返す。
「じゃあ、逆にルルちゃんはどう思うのさ?」
質問の意図を理解出来ない俺は再度、ルルに聞き返す。
「いや、剣さんがそう思っているならいいと思いますよ。ただ、私はどうもあの男を素直に見れないんですよね。」
ゲーム画面を見ながら俺に言うルル。
確かに、昨日は一瞬だけそんなことを俺も思ったが負けたことによる気の迷いだと思って変な雑念は振り払ったはずだ。
「ルミナちゃんの幼い頃の剣術の師匠ってだけにしか思えないんだけど?」
「えぇ、私もそう思いますよ。でも、根がひねくれていますから。どうしても、疑いの目で見ちゃうんですよね。」
…自分で根がひねくれてるとか言っちゃうのか。
まあ、自分も昨日は同じことを自分自身に思ってはいたが。
ルルはそう言うと、ゲーム画面を閉じた。
そして、俺の方を見てきた。
「それに、私としてはどうであれライバルになりそうな女性が1人減るのはいいことだと思いますからね。ルミナさんが知らない男に騙されていたとしても、それは本人の問題でしょうし。」
「随分と冷たいんだな。サタンもそうだけど、3人とも幼馴染だっていうのに。」
俺はルルに言う。
たまにだが、本当にこの3人は仲が良いのか疑いたくなるような時がある。
「あら?剣さんだって気づいているんじゃないですか?私達、3人は実はとっても仲が悪いんですよ。」
「それ、言っちゃうんだ。」
「だって、どうせバレてそうですし。まあ、とっても仲が悪いは言いすぎましたね。私もお姉さまもルミナさんも3人ともお互いのことはとても大切に思っていますよ。でも、根本的なモノの考え方に決定的な違いがありますから。腐れ縁のまま、気づいたらずっと一緒にいたという表現が正しいんですよ。」
そう言うと、ルルは立ち上がった。
どうやら、ゲームをすることが終わったから俺の部屋から出て行くようだ。
本当に何をしたくて俺の部屋に来たのか謎だ。
ルルはドアのノブに手をかけると、俺の方を振り向いた。
「もし、何か頼みたいことがあれば遠慮なく言ってくださいね。出来る範囲内ですけど私は剣さんに全面的に協力するつもりですから。」
「…そんな意味深なこと言って何が目的なんだよ?」
俺は含みのある言い方しかしない銀髪の少女に言う。
ルルは笑みを浮かべていた。
「そんな疑わしい人を見るような目で見ないでくださいよ。私はただ、あなたのする選択を全て肯定しますってことです。思い出なんてモノは美しいままで終わった方がベストですしね。」
そう言うと、ルルは俺の部屋から出て行った。




