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おかえりを言うために

「それで、作戦はどうするの?」


俺はルルに尋ねる。

ルルはすでに足元に魔法陣を浮かび上がらせていた。

そして、膝を着いた状態で俺の方を見上げる。


「とりあえず、私の魔力がだいぶ少ないので短期決戦で仕留めようと思います。」


「短期決戦ねぇ…。」


俺は巨体を見ながら、つぶやく。


「大丈夫ですよ。これでも、現代最強の魔術師ですよ。」


「どこぞの人類最強さんが今、この屋敷の門の前でクレーマーしてるって話する?」


「後で聞いてあげますよ。」


ルルがニコリと笑みを浮かべながら言い返す。

どうやら、ルルの準備が終わったようだ。

一息ついたルルが、目の前の巨大な化け物を一度見る。


「あの、心臓部分に貼られている防御結界を破壊してください。一瞬だけで大丈夫です。それこそ、ひびを入れるだけでも。その一瞬の隙に私が何とかします。」


「失敗の可能性もあるの?」


「安心してください。その時は仲良く一緒にあの世行きです。」


先程同様、笑顔を浮かべながらルルが言う。

あの世行きは嫌だなぁ…。


「剣さんの持っている“退魔の剣”。それであの防御結界を打ち破れるはずなんですよ、多分。」


あまり信頼度の高くなさそうなことを言うルル。

ただ、まあやるしかないんだろうな。

何て言っても、あんなこと言われたんだから。

少しくらいは、その期待に応えてみせるか。


「ウル、もう一仕事だ。お前のご主人様は酷いからな。ここからはサービス残業らしいぞ。」


俺はウルにニヤリと笑いながら言うと、頭を撫でる。

ウルが自分の背中に乗れとジェスチャーをしている。

俺は、ウルの背中に跨った。


「お願いしますね、私のヒーロー。」


ルルがそんなことを言う。

本当に、都合のいい言葉だと思う。

これが終わったら、どうにかして仕返しをしてやろう。


「やってみるだけ、やってみるよ。ウル!行くぞ!」


俺はそう言うと、ウルの背中を叩く。

ウルはそれに合わせて、飛び上がる。

狙いはただ1つ。心臓部分。

俺は大剣を構える。

そして、飛びあがったウルの背中から立ち上がると一直線に飛び降りた。

飛び降りた流れのままで、大剣の先を防御結界に向かって突き刺す。


「最速で!」


ルルの言葉が聞こえる。

俺はそのまま突き刺している大剣に力を込める。


「ぶち抜く!!!」


ルルの言葉に続けるように俺も叫ぶ。

防御結界にひびが入ったのが見えた。

俺はそのまま勢いを殺さないまま、突き抜けようとする。


パリン!!!


ガラスが割れるような音が聞こえた。

心臓部分を覆っていた結界の破片が周りに飛び散っていた。

俺は、さらにその先にある光り輝く宝石のようなモノに大剣を突き刺す。

先程の防御結界を突き刺した時と違い、それはすんなりとひびが入った。

そして、勢いそのままに巨体を貫いた。

俺の体には化け物の体液が付着し、さらに目の前には飛び散った体液が飛沫のようになっていた。


「生命の源。崩壊の序章。破壊。決壊。元の地へと帰還せよ。」


ルルの詠唱が聞こえる。

化け物の足元からルルの足元に見えていた魔法陣と同じモノが浮かび上がる。


「“輪廻(リインカーネイション)舞曲(ロンド)”。」


魔法陣から紫色の光が発せられると、巨体がまるで紙吹雪のように剥がれていく。

そして、白い粒のようなモノが天へと浮かんでいく。

消滅、という言葉が表現として的確な気がする。

数秒後、目の前には巨体はなくなり赤い血が流れ落ちていた。そして、バラバラになった人間の臓器のようなモノが散らばっていた。

俺は、ルルの元に駆け寄る。

ルルは疲れ切った顔をしていた。

しかし、まだやることがあるのか何とか立ち上がろうとする。

しかし、フラフラと足元が揺らぐと倒れそうになる。

俺はそんなルルの左腕を掴んで倒れないようにする。


「…おかえり。」


俺はルルに言う。

ルルは俺を見ると、少しだけ沈黙が流れる。そして、ニコリと笑みを浮かべた。


「ただいま。」


そう言うと、そのまま俺の胸元へと飛び込んで、ギュッと服を掴んで抱きついて来た。


「ちょっと、近くないか?」


恥ずかしくなった俺は、ルルに言う。

ルルは俺の胸に顔をうずめていた。


「いいじゃないですか、せっかく2人きりなんです。少しくらい甘えさせてください。」


小さな声で言う。

正確には2人きりじゃないんだよな…。

俺がそんなことを思っていると、様子を見ていたウルがルルの顔をペロペロと舐めた。


「そういえば、あなたもいましたね。」


ルルがウルに気づくと、自身の頬をウルの頬に擦り付ける。

ウルも本来の飼い主にようやく再会出来たのが嬉しいのかルルの頬に顔を擦り付ける。


「よく、頑張りましたね。」


ウルの頭を撫でながらルルが言う。

俺は、そんな姿を見るとルルを抱き上げた。


「うわっ!」


ルルが思わず声を上げる。

流石に、小柄なルルなだけあって軽々と持ちあがる。


「まだやることがあるんだろ?今回は最後まで付き合うん予定なんだ。さっさと終わらせようぜ。」


俺はそう言うと、歩き始める。


「別に自分で歩けますよ、もう。」


「さっきふらついていたくせに。大丈夫だよ、あの筋肉コンビと違って軽いから。」


「あら?誰の事でしょう?戻ったら言いつけてあげましょうか?」


ルルが誰のことを言っているのか気づいたのか、意地悪な笑みを浮かべる。

そんなこと言ったら、俺がボコボコにされるのが分かっているだろうと言いたい。

俺は、そんなことを思いながらルルを赤い血が一際流れている場所へと連れて行く。

目の前には、心臓に大きな穴が開いているジョニーの姿があった。


「思ったより、綺麗な状態ですね。」


そんなことを言うルル。

俺はルルを地面に降ろす。


「生き返らせるのか?」


俺はルルに尋ねた。

質問をしなくても何となく分かってはいるが、一応尋ねてみた。

ルルは俺の方を振り向くと、頷いた。


「そうですね。だから、剣さんに1つだけ。いや、2つ頼みごとがあるのですけどいいですか?」


「いいよ、さっきも言ったけどもう今回は最後まで付き合うんだし。」


ルルはありがとうございます、と小さな声で言う。

そして、ジョニーの心臓部分に手を触れた。


「この穴の中が埋まるくらいの人間の臓器を持って来てくれませんか?それと、今から見せることは秘密でお願いします。」


「禁術を使うってこと?」


俺の質問にルルは再度頷く。


「はい、何なら先程の行った魔術も禁術ですからね。これでまた、私との共犯が増えたわけですね。」


「何も嬉しくないんだけど…。」


俺の言葉にルルが少しだけ楽しそうに笑っていた。

俺は、ため息を1つつくとウルを連れてルルに言われた通りに臓器を探し始めた。

正直、あまり触りたいモノではない。

ネチャネチャしていて、ドロドロしていて匂いも吐き気を催しそうになる。


「なあ、ウル。お前のご主人様は本当にロクでもないな。」


俺は手に臓器を掴んで集めながら隣を歩くウルに言う。

ウルはクゥンと鳴いた。それは俺に対して同意してくれているのか、それとも否定しているのかどっちなんだよと言いたかった。

俺は手にいっぱいの血まみれの臓器を集めてくると、再びルルの元に戻った。

そして、ジョニーの前にそれを置く。

後で、しっかりと消毒をしておこう。変な病気になりそうな気がする。


「ありがとうございます。」


ルルは俺に礼を言うと、その臓器を心臓部分に埋め始めた。


「それでこの人は生き返るの?」


俺の質問にルルは少しだけ考えていた。


「どうでしょうね、理論上は行けるはずなんですよね。」


「理論上は?」


含みのある言い方に俺は聞き返す。


「ジョニーさんは普通の人間の体ではないですから。」


なるほど、ホムンクルスとか言っていたな。

正直、わざわざ殺した人間を生き返らせる必要があるのかという思いだ。


「不思議ですか?どうして、生き返らせようとしているのか。それも禁術を使ってまで。」


俺の考えを見通したルルが尋ねてくる。

俺は無言でルルの動作を見つめていただけだった。


「別に、情が沸いたとかではないんですよね。ただ、この人が生き返ることで証言者として使えると思っただけですよ。」


ウソだろうな、と思った。

でも、それを言ってもどうせこの子は適当にはぐらかすだけだと思う。

だから、このまま黙っておくことにしよう。

ルルが俺の集めて来た臓器を全て、ジョニーの穴の開いた心臓に埋め終わった。

そして、流れていた血で描いた魔法陣の中央にジョニーを置いた。


「これから見せる魔術は誰にも言わないでくださいね。たとえ、お姉さまに聞かれたとしても。」


ルルがジョニーの心臓に手を触れながら俺に言う。


「言わないよ。逆に言ってしまったらどうなるの?」


俺は少しばかり興味が湧いて、ルルに逆に尋ねる。


「さあ、どうなるんでしょう?私と一緒に仲良く牢屋送りとかですかね?」


「じゃあ、遠慮するよ。前科持ちは勘弁。」


俺は首をすくめて、ルルに言う。

ルルはクスリと笑う。

そして、ジョニーの心臓に当てていた手を少しだけ動かす。

同時に何やら詠唱を小さな声で唱え始めた。

正直、何を言っているのかは聞こえなかった。

隣には俺と同じようにルルの様子を眺めているウルがいた。

血で描かれた魔法陣から青白い光と白い煙が出てくる。

中央部分にいるルルとジョニーの姿がどんどんと見にくくなっていく。

何が起きているのか、いまいちよく分からない。

数秒、白い煙が立ち上るとルルとジョニーの姿を再び視界に収めることが出来た。

ルルが軽く天を見上げると、息を吐いた。

俺はルルの元に駆け寄った。同じようにウルも駆け寄る。


「…大丈夫?」


俺の言葉にルルは笑みで返す。


「多分、成功です。」


そう言うと、まだ意識が戻っていないジョニーを見る。

大きく開いていた心臓の穴が戻っていた。


「…ここは?」


ジョニーが消え入りそうな声でつぶやく。

まだ、目を開けたばかりで慣れていないのか俺達の姿を確認出来ていないようだった。


「一応、全て無事に終わりましたよ。ここにいる剣さんのお陰で。」


ルルがジョニーに言う。

別に俺のお陰ではないと思う。それこそ、ルルがいなかったらどうしようも出来なかったと思う。

ジョニーがルルの言葉を聞くと少しだけ微笑んだ。


「…そうですか。それは良かった。なら、後は僕がやるべきことをするだけですね。」


そう言うと、体を起こそうとする。

しかし、目覚めたばかりで心臓部分を手で押さえる。


「まだ、無理はしないでくださいね。」


ルルがジョニーの背中を擦りながら、言う。

ジョニーが俺の方を見る。


「ありがとうございました。やはり、あなたを信じてよかった。」


俺は何か言おうと思ったが、いい言葉が思いつかなかった。そして、恥ずかしさを紛らわすためにジョニーの腕を自身の肩に回し立ち上がらせた。

外から、複数人の階段を降りる足音が近づいて来たのが聞こえてきた。

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