ヒーロー、参上!
狼くらいの大きさになったウルの背に乗って、俺はヴェネーノ家の屋敷へと向かった。
普通の道路を横断していくのは流石に人目について面倒そうなので、建物の屋根を飛び渡りながら最短距離で向かっていた。
「もう少し早く行けないのかよ。」
俺はウルに尋ねる。
ウルはワン、と申し訳なさそうに鳴く。
どうやら、これが最速らしい。
「恐らく、ここ辺りだと思うんだよな。調べた感じだと。」
俺は自身の携帯で確認しながら、ウルにもう少し早くと急かすように撫でる。
すると、道路沿いに何やら人だかりが出来ていたのに気づいた。
どうにも、その中央にいる集団に見覚えがあった。
俺はウルに止まるように指示をする。
ウルは一軒家の屋根の上に立ち止まる。
「なぜ、入れてもらえない!何かやましいことでもあるのか!」
聞き慣れた声が聞こえる。
どうやら、サタン達が何とかしてヴェネーノ家に突撃しようとしていたらしい。
しかし、そのような許可は出されていないの一点張りで断られていた。
「いや、侵入経路とか探しておいて結局は正面突破なのかよ…。」
俺は呆れながらつぶやく。
せめて、二手に分かれるなりすればいいのに。
本当にルルがいないと、あの女はポンコツになりがちだ。
まあ、それがサタンらしいと言えばサタンらしいが。
「明らかに、おかしな魔力を感じるのだ!何かおかしなことをしているのだろう!」
引き下がる気のないサタンの声が響く。
周りの家の住人達もその声に気づき、やじ馬のように集まっていた。
だが、確かに屋敷からおかしな魔力の気配は感じる。
何というか、地面の底の方から感じるのだ。
おどろおどろしい何かを…。
騒ぎを起こしてしまっている状態になっているが、逆に俺からしたらこれは好都合だ。
この騒ぎに乗じて、屋敷の中に突撃するとしよう。
「ウル。出番だぞ!ご主人様がどこにいるか、最短距離で見つけるんだ!」
俺はウルの頭を撫でると、指示を出す。
ウルもクゥンと鳴くと、周りをキョロキョロと見渡した。
そして、軽くジャンプすると屋敷の塀に飛び乗り、そのまま一気に屋敷の屋根の上へと飛び上がった。
周りを囲んでいた屋敷の警備の人間達が慌てたような声を出しているのが聞こえる。
何というか、新しいアトラクションみたいで楽しさすら感じる。
「おっ、ここから感じるのか。」
屋根の上に乗り移ったウルが俺にこの下だと言わんばかりに目線を送る。
下からはヴェネーノ家の警備の人間の怒号が聞こえてくる。
「このさらに下からなんだよな?」
俺は一応、ウルに確認する。
ウルはコクリと頷く。
俺はそれに満足そうに頷き返す。
「おい!剣か!何でここにいる!」
サタンの声が聞こえる。
俺はサタンの方を一度見る。
「お散歩に来ただけだよ!というわけで、ウル!軽く運動するとしようか!」
俺はサタンに言い返すと、ウルに再び指示を出す。
ウルは高らかに空に向かって鳴くと、一気に屋根をぶち抜き屋敷内へと突撃した。
恐らく、ここから地下まで最短距離で行けるはずだ。
行けなかったら、また再度探す羽目になるのは少し面倒だ。
あっという間に床をぶち抜くと、ウルと俺は地下の遥か深くに辿り着いた。
そして、目の前にいる化け物が目に入った。
「いや、デカすぎだろ!」
俺は思わずツッコむ。
ウルが威嚇をしていた。
「あの中にルルちゃんがいるの?」
俺はウルに尋ねる。
ウルが頷く。
俺は、“退魔の剣”とルシフェルから教えてもらった大剣を出す。
そして、それを肩に担ぐ。
「よし、じゃあもう一仕事と行くか。ウル。」
俺は、ウルの頭を撫でてやる。
ウルは少しだけ甘えるような声を出していた。
「どこにルルちゃんがいるか、ピンポイントでその場所まで向ってくれ。」
俺の指示を聞くや否や、ウルが化け物に向かって飛びかかる。
口と思われる場所が紫色の光を発した。そして、それはビームのように俺達に襲ってきた。
「ウル!避けろ!」
俺はウルに今日何度目かになる指示を出す。
ウルは華麗に避けると、頭上に乗る。
そして、軽く周りを確認すると巨大な化け物の上を走り抜ける。
自身の上に何かがいることを嫌がっているのか、化け物が振り落とそうと暴れ回る。
「ジェットコースターかよ…。」
俺はウルの背中から振り落とされないようにしがみつく。
下見ると、緑色をした皮膚が見えた。
何か色も相まってあまり長く見ていたいモノではない。
その時だった。ゴポゴポと音がどこからか鳴っているような気がした。
「ウル!下だ!」
俺の声にウルが宙を舞う。
間一髪で、皮膚から飛び出して来た何かを避ける。
よく見ると、それは人間の形をした何かだった。
まるで俺達を捕まえようとしているかのようだった。
そして、それは俺達を捕まえられなかったと悟ると皮膚の中へと戻る。
ウルが再び、皮膚の上に降りる。
すると、再度それが現れる。
「ウル、あまり時間ないぞ。さっさとご主人様を見つけるんだ!」
下手するとウルがこれに足を取られて身動きを取れなくなる危険性がある。
俺は、大剣の届く範囲でそれらを斬り落としていく。
「…キリがない。」
まるでウジ虫のようにうじゃうじゃと湧き出てくる。
本当にこの中にルルがいるのか。
そんな不安が頭によぎって来た。
ウルが一気に飛び上がって、最短距離でその場所に向かおうとした。
恐らく、今日見た中で一番の跳躍だろう。
ウルは再び皮膚の上に飛び降りると、その下を大きな声で鳴いて俺に見せてくる。
「この場所で合っているんだな?」
俺はウルに確認する。
ウルが大きく頷く。
正直、俺にはルルの場所を正確に発見する力なんてない。賭けだろうが何だろうがウルのことを信じるしかない。
「これで間違えてたら、1週間はドックフードのランク落とさないといけないな。」
俺はウルの方を見ると、言う。
ウルは大丈夫だと言わんばかりに首を横に振る。
俺は大剣を振りかぶりながら、ウルに対してニヤリと笑う。
「うおおおお!!!」
俺は声を上げると、振りかぶった大剣を思いっきり皮膚の上に突き刺す。
化け物がその直後、悲鳴を上げる。
鼓膜が破れそうな甲高い悲鳴だ。長く聞いていると、本当に意識を持って行かれそうになる。
俺は、そのまま突き刺した大剣をさらに奥へと刺していく。
掻きわけるように、大剣で皮膚を斬っていく。
すると、中から皮膚の中に徐々に取り込まれていくルルを見つけることが出来た。
「よくやったぞ、ウル!ビンゴだ!」
俺はウルに言う。
ウルはその言葉に俺のすぐ側に近づく。そして、ルルに対してワンワンと鳴き始めた。
どうやら、ルルの意識はないようだ。
俺は取り込まれそうになっているルルの胸倉を思いっきり掴む。
そして、無理やりにでも引き剥がそうとする。
「固い…!」
思ったよりしっかりと皮膚に吸い付いているのか、簡単に引き剥がせれるような状態ではなかった。
俺は両手でルルの胸倉を掴むと地面に植えられている野菜を引っこ抜くような感じでルルを引き揚げようとする。
「…いや、マジで離れねえ。」
俺は顔を真っ赤にしてルルの体を引っ張る。
ウルも見かねて、俺の服を口に咥えて一緒に引っ張る。
気づくと、化け物も俺達が自分の体のどの場所にいるのか気づいたのか先程何度か見ていた人間のような何かを1つに集中させていた。
これは、本当にマズい。早く引き抜かないと、俺達まであの世行きだ。
「とっとと、抜けろー!!!」
俺は強引にルルの体を引き抜こうとする。
すると、勢い余って後方に吹き飛んでしまった。
ルルが抜けたのは良かったが、掴んでいた手は離れてしまいルルが宙を舞っている。
「ワン!!!」
ウルがルルが宙に飛んでいるのを確認すると、飛び上がってウルを咥える。
そして、俺は空中で態勢を整えると近づいてくるウルの背中を掴む。
ウルは俺とルルが2人とも無事であるのを確認すると化け物から逃げるようにして跳躍した。
俺は、掴まっていたウルの背中の上を登り先程と同様に乗った。
見下ろすと、巨大な緑色の人間の塊がルルが取り込まれていた場所を攻撃していた。
本当にあと一歩遅かったら、あれに俺達も取り込まれていたのかもしれないと思うと恐怖で震えてくる。
ウルは距離を取るように離れた場所に着地した。
ルルを優しく地面に降ろす。
俺はウルの背中から飛び降りるとルルの側に近寄った。
「起きろ!こんなとこで死ぬような子じゃないだろ!サタンと並んで人類最強の魔術師なんだろ!」
俺はルルの体を揺らしながら叫ぶ。
せっかくここまで来たのだ。こんなところで死んでもらってたまるか。
まだ、この子にはあの化け物を倒すという使命が残っている。
少なくとも俺とウルであの化け物を倒せと言われても無理だ。
というか、もしそうなったらルルの亡骸を持ったまま戦線離脱しかない。
「…うん。うるさいですね。」
ルルのか細い声が聞こえる。
ウルがワンワン、と騒がしくルルの耳元で鳴き始めた。
「起きろ!まだ意識はあるか!俺のことが見えるか!」
俺は先程よりもさらに強くルルを揺らす。
「…剣さん?」
ルルが俺の顔に気づいたのかポツリと言う。
そして、少しだけ間を置くとクスリと笑みを浮かべた。
「本当に来たんですね。相変わらずですね…。」
「ヒーローらしいからな。来てやったよ。感謝しろよ。」
俺はルルの顔を覗き込むと、言う。
その時だった、ウルの激しい鳴き声が聞こえる。
「うおっ!!!」
ウルが俺と俺に抱きかかえられた状態のルルを咥えて後方へと逃げる。
先程の化け物の巨大な手が俺達のいた場所にあった。
巨大なクレーターような穴がそこには開いていた。
「…あぶねー。」
俺は小さな声でつぶやく。
そういえば、ルルを起こすことで忘れかけていた。まだ、あの化け物は健在であることに。
「剣さん、まだ戦えますか?」
俺に抱きしめられた状態のルルが尋ねてくる。
「俺は大丈夫だけど、そっちは?」
俺よりもむしろ自分の状態の方が大丈夫か気にしろよと言いたい。
ルルはその言葉にニコリと微笑むとフラフラと立ち上がった。
「大丈夫ですよ、ちょっと意識が遠のくような感じはありますけど何とかなります。」
そう言うと、杖を出す。
そして、構える。
「手伝ってもらえませんか?あの中にジョニーさんがいます。そして、あの怪物は大量の人間の命で作られたモノです。ここで潰します。」
俺はルルの言葉にコクリと頷く。
そして、ルルの隣に並ぶ。
「いいよ、ここまで来たんだ。今回は最後まで付き合ってやるよ!」
そう言うと、俺は大剣を構えた。




