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しょうがねえな…

ルルと別れた後、俺はウィザード家の屋敷へと帰って行った。

正直、このままどこかに隠れていたいとも思った。

だが、どうせ隠れたところでサタン達が探しに来るのが分かり切っているので帰ることにした。

屋敷に帰ると、慌ただしく走り回っている人達が多く見られた。

恐らく、ルルの件で色々と動いているのだろう。

俺はサタンの部屋に入った。無駄に大きな声が聞こえてくるので、いるのは何となく廊下を歩いていても気づいた。

俺は、サタンの部屋のドアを開けた。

目の前にはサタンを中心として、いつもの面々が何やら地図を見ながら話し合っていた。


「ここから一応侵入は出来そうですが…。」


リヤドの声が聞こえる。

恐らく、どこからか忍び込んでルルを攫おうという作戦なのだろう。


「いや、やっぱりなしだ。そもそも、それをしてもこちらが悪いということにされる危険性が高い。」


サタンの反対する声が聞こえる。

俺はそのサタンの言葉を無視するようにして、部屋の中に入る。

ドアの開いた音で全員が俺が帰って来たことに気づいていたようだった。


「来たか!剣。随分と遅かったな。」


サタンの声が部屋の中に響く。

疲れているのだから、もう少し声の声量を落として欲しいものだ。

俺は、適当に部屋に置かれていた椅子に座った。

そして、サタン達に背を向けた状態で背もたれにもたれかかった。

正直、もう何もやる気なんて起きない。


「おい、どうしたんだ!?今からルルを救いに行く作戦を考えているんだ。お前も参加しろ!」


サタンが俺の元に近寄ると、声をかけてくる。

ルル自身が拒絶しているのに、何が掬いにいくなのだろうか。

正直言って、最初から破綻している作戦だと思う。


「俺はもう今回は関わらないことを決めたから。後はお前達でやってくれよ。」


俺はサタンの方を振り向かずに言う。

これでいいんだと、思う。

ルルは、俺の助けはいらないと言っていた。

それはサタンに対しても同じように言うのだろう。

そもそも、俺の助けなんて借りなくてもサタンが何とかすればいいだけの話なのだ。

加えて、あの子自身が自分の意志で決めたこと。

俺がこれ以上できることなんて何もない。


「…それはどういう意味だ?」


サタンの声が静かに聞こえる。

この声の時は怒っている時だろうな。

そこそこに長い付き合いだから、だいぶこの女がどういう感情の時にどういう風になるのかは大体分かって来ている。


「そのままだよ。そもそも、ルルちゃんが自分で決めた結婚なんだぞ。だったら、俺はその選択を尊重するだけだよ。」


それに、と俺は小声で言うとサタンに話を続けた。


「いつかはあの子だって遅かれ早かれ結婚っていう話はあったんだろう。だったら、ちょうどよかったじゃないか。自分で作った孤児院も守れるし、それなりに家柄の良い魔術師の家系に婿入りも出来る。万々歳だろ。」


俺はどこか投げやりになりながら言う。

そう、何も問題ないのだ。

孤児院の子供達はこれからも平穏な生活を続けられ、ルルは良家の出来の良い跡取り息子の将来の嫁としてイギリスに戻り学校生活を送って行く。

俺が何か関われることなんて何もないのだ。


「じゃあ、何だ?お前はルルがこのまま私達の前からいなくなってもいいと言うのか?」


サタンの震えた声が聞こえてくる。

歯ぎしりをする音もするし、手を握りしめている音もする。


「そうだな。あの子が嫌がっているんだったらお前の意見に従うつもりだったよ。でも、あの子が勝手に決めて、勝手に出て行ったんだろ。だったら、俺に出来ることなんて本当に何もないんだよ。」


そう、これは俺と何の関係もない問題だ。

ただ、知り合いの少女が自分と何の縁もゆかりもない家に結婚するだけの話。

俺がそれに介入する方がおかしいのだ。


「…剣。」


サタンの声が聞こえる。

俺は、何だよと面倒くさそうに振り向いた。

その直後だった。

サタンの拳が俺の顔面に飛んできた。そのまま右の頬を思いっきり殴られると俺は椅子から転げ落ちた。

この女、本気で殴りやがった。

右の頬が腫れているような気がする。


「あいつがッ…!あいつがどれほどお前のことを大切に思っていたのか!」


サタンは俺に向かって、叫ぶと歯をグッと食いしばり感情を押し殺そうとしていた。

そして、再び振り上げた拳をギリギリのところで収めた。


「…もういい。」


サタンは小さな声で言うと、俺に背を向けた。

そして、歩き始めた。


「お前がそんな薄情な奴だとは思わなかった。だったら、勝手にすればいい。私は、私の進むべき道を進む。」


そう言うと、部屋のドアを乱暴に開けると出て行った。

その後ろ姿を部屋の中の全員が追って行った。ただ1人、ルミナを残して。


「…剣様。本当にこれで良かったんですか?」


ルミナが殴られて尻もちをついている俺を見下ろしながら尋ねる。

本当に良かったのか、って良いと思ったからこの選択肢を取っただけだろう。

別に、サタンが取る選択肢をを否定するつもりはない。だが、俺はあいつみたいに最強でも何でもないのだ。

自分の未来を自分で決めた少女の意志を否定してまで、阻止する気はない。

ルミナは何も言わない俺を少しだけ見ると、微笑んだ。


「分かりました。私はあなたの選択を尊重します。」


そう言うと、サタンによって開かれたドアの外を見ていた。

そして、再び俺を見る。


「ですけど、少し前にも言いましたけど私は今回はサタン様の方に付いていこうと思います。」


勝手にすればいいと思う。

俺と違って、ルルとルミナは10年近くの腐れ縁だ。

例え、毎回怒られても嫌味を言われてもそれがこの2人にとっての最適なコミュニケーションだったのだろう。

別に、ルミナがルルを助けに行く選択肢を否定するつもりはサタンの時同様に俺にはない。

むしろ、それが正しいのだろうとも思っている。


「勝手にすればいいんじゃない…。」


俺は熱を持って熱くなっている右の頬を擦りながらルミナに言う。

ルミナは無言で頷くと、再び優しい笑みを浮かべて部屋の外に出て行った。

サタンと違って、部屋のドアを静かに閉めて。


「…どいつもこいつも。いった。あの女、本気で殴りやがった。」


俺は立ちあがると、右側の歯が揺らいでいないか確認した。

一応、歯に損傷はなさそうだった。

これで歯が折れてたら、あの女に後で文句を言わないといけない。

まあ、もうあいつと一緒にいるかなんて知らないが。

俺は、先程までサタン達が話し合っていた机に広がっている地図を見た。

案の定、ヴェネーノ家の屋敷の間取り図だった。

忍び込むとか言っていたが、盗賊か何かかと言いたい。


「どうしようもないよな、なかったんだよ…。」


俺は机に並べられていた椅子に座り直した。

そう、どうしようもなかったのだ。

俺は結婚なんてよく分からないし、これから先もするかどうかなんて分からない。

でも、本人がそれを望んだのならそれを否定してはいけないと思う。例え、それが脅された形で認めたとしてもだ。

その時だった、足元に何やら気配を感じた。

俺は、椅子に座ったまま視線を足元に移した。

そこには、ウルがハアハア言いながら走り回っていた。

そういえば、まだこの犬がいたなと思った。

飼い主なのに、自分のペットくらい連れて行けよ。

これ、下手するとこれからは俺が世話をすることになるのだろうか。

そんなことを考えていると、ウルの口元に何かが咥えられているのに気付いた。


「…何だよ。お前も文句あるのかよ。文句あるなら、これからのドッグフードの量を減らすからな。今日からは下手したら俺がお前の飼い主になる可能性があるから。」


どうせ、サタンにまともにペットを育てられるような甲斐性があるとは思えない。

自然と俺と俺が学校なりでいない間は母が世話をすることになるのだ。

あまり生意気言うなら、それ相応の態度で接してやろう。

ウルはそんな言葉など知らないとばかりに俺の足元に近づいた。

そして、口に咥えられた1枚の写真を見ろとばかりに俺の足元にすり寄って来た。


「何、これを見て欲しいってか。」


俺は1枚の写真を受け取った。写真の他に何やら封筒もあった。

封筒の中は膨らんでいて何かが入っているようだ。

俺はまず最初に写真を見ることにした。

それは、数日前に日本で撮ったばかりのクレアとアリスとルシフェルの歓迎会の際の写真だった。

サタンが真ん中にいて、ルルとルミナの肩に手を回して2人はサタンの頬に自分の頬を近づけていた。ルルの胸にはウルが抱きしめられていた。

サタンとルルの後ろには俺とリヤドがいた。リヤドは相変わらずの無表情だった。そんなことだから、ルルからもう少し愛想を良くしろと言われるんだぞと言いたい。

ルミナの後ろにはクレア達がいた。クレアがアリスにちょっかいを出してアリスが泣きそうな顔になっていた。その後ろではルシフェルが笑いながら止めているという写真だった。


「本当にまとまりのない連中だよな…。」


俺はポツリとつぶやく。

よくもまあ、こんな自由な面子が集まったよなと今更ながら思う。

まあ、その1人に自分がいるのだから自分も似たようなモノかもしれないが。

俺はそのまま、封筒を開けた。

中からは何やら液体の入った小さな瓶が入っていた。

栄養ドリンクか何かかな?

俺はそれを机の上に置いて、封筒の中に入っていた紙を広げた。

筆跡的にルルからだろう。


『剣さんへ


この手紙が届いたということは私はもうあなた達の元にはいなくなっているでしょう。

私はジョニーさんと共にフォード・ヴェネーノの企みを止めることにしました。

これは、お姉さま達にも言っていないことです。

何であなたにだけは伝えたのかと不思議に思うかもしれませんね。理由は何となくです。

これはウソでも何でもない本当の事です。

そして、私がいなくなった場合にウルの世話をお願いしたいのです。お姉さまだと、割と面倒臭がりで散歩すらしてくれなさそうなので…。

最後に、私がいなくてもお姉さま達と仲良くしてくださいね。私にとってあなたはヒーローでした。きっと、これからもそう思うことでしょう。

ルルより

p.s.あなたに何かあった際にウルの力を一度だけ解放出来る薬を入れておきます。もし、何かあった時に使ってみてください。                         』


俺は手紙を読み終えると、再び封筒の中にそれをしまった。

そして、瓶の中の液体を眺めた。


「…ヒーローか。」


ルルが最後の最後まで言い続けていた言葉。

俺は自分のことをそんな風に思ったことはない。

むしろ、それとは真逆の人間だ。

だけど、そうだな。そこまで言うのなら、少しばかりヒーローっぽいことでもしてみるか。

俺は、椅子から立ち上がるとウルに視線を向けた。

ウルは俺の視線に首を傾げていた。

俺はウルに笑いかけた。


「今日はまだ日課の散歩に行ってなかったよな。今から、行くか。ついでに、元飼い主様に挨拶をするためにもな。」


俺はそう言うと、ウルに瓶に入っている液体を飲ませてあげた。

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