待たせたな!
俺達が転移魔術を終えると、すでに目的地の小学校の前には4人の姿があった。
ルシフェルと、ウィザード家から派遣された3人である。
「結界が張られているのか…。」
サタンが4人に近づくと、つぶやく。
小学校全体を覆う巨大なドーム状の結界。
「どうやら、我々3人とルシフェル殿を弾いているようです。」
アレウスがサタンに報告する。
ルシフェルが手を触れると、バチッと音を発した。
「侵入を拒絶する結界ですか…。」
ルルが結界を見上げながら言う。
「ルル様、私は入れるみたいです。」
ルミナが結界が張られている薄い紫色の膜のような部分に手を触れるとそのまま腕が空間を貫通した。
俺もルミナに習って、同じように腕を突っ込む。すると、俺の腕も同じように貫通した。
「ルミナは魔力がない、剣は闇属性の魔術の影響。…なのか?」
サタンはそう言いながら、俺達と同じように結界の中に腕を突っ込む。
「…どういうことだと思う?」
俺とルミナの2人と同じように腕が貫通したサタンはルルに尋ねる。
ルルは少し、考え始めた。
「4人のみを限定して拒絶しているということでしょうか?そんな限定的な結界を張るなんて出来るんでしょうか…。」
ルルも自身の腕が貫通したことを確認すると、不思議そうに言う。
「足し引きの概念としては出来なくはないでしょうね。ただ、私を完全に拒絶した結界となると…。」
そう言うと、ルシフェルはアレウスとゴレイヌ、バルバトスの3人を見る。
3人はその視線を受けると、同時に結界に手を触れる。
「…入れますね。」
アレウスが驚いた表情を見せると、つぶやく。
「なるほど。最初はこの4人を限定して拒絶。その後、時間差でルシフェルさんのみを拒絶する結界ですか…。」
ルルは結界を見つめながらつぶやく。
「確かに、足し引きの概念で言うなら可能ですね。永久に4人を拒絶するのは不可能ですが、3人を途中で条件から省けばルシフェルさんのみを拒絶するという結界に変えることも理論上は可能です…。」
「…理論上、は?」
サタンがルルに聞き返す。
ルルはサタンの方を振り向くと頷く。
「はい、理論上はです。じゃあ、実際にやってみろと言われたら相応の時間がかかります。」
「まあ、人間が行う場合はですけどね。」
ルシフェルが補足するようにルルの言葉に口を挟む。
ルルも同意するようにルシフェルに頷き返す。
「つまり、この結界を張ったのは人間ではないと?」
サタンがルシフェルに尋ねる。
「…恐らくは。それも大天使以上のレベルの者でしょうね。」
そう言うと、再びルシフェルが結界に手を触れる。
しかし、やはり電撃のようなモノが走りルシフェルが結界の中に入ることを拒んだ。
「とりあえず、ルシフェル以外は入れるんだから先に行った方がよくないか?2人のことももちろんだけど俺の従兄妹も中に閉じ込められているわけだし。」
俺はサタンに言う。
サタンも同じ思いなのか、俺に頷く。
「よし!とりあえず、入れる人間だけで行くぞ!ルシフェル。どのくらいでこの結界を破れる?」
中に入る前にルシフェルの方を振り向いて、尋ねるサタン。
ルシフェルは少しばかり、天を眺め考えていた。
「まあ、大体1時間もあれば解けるかと。」
その答えに満足したのか、サタンはニヤリとルシフェルに笑みを浮かべる。
そして、勢いよく結界の中へと入って行った。
「待ってください!いきなり入ると…!」
ルルの言葉が飛ぶ。
しかし、その言葉がサタンに届くのは少しばかり遅かった。
サタンが結界の中に、入ったと同時にサタンの足元に光が浮かんだ。
そして、魔法陣が浮かび上がるとサタンの姿が足元から徐々に消え始めた。
「待てっ!!!」
俺は大剣を取り出すと、魔法陣が浮かび上がっている地面に突き刺そうとした。
もしかしたら、この大剣で魔法陣の効果を無力化出来るのではないかと思ったからである。
ただ、あと一歩遅かった。俺が地面に突き刺したと同時にサタンの姿が消えた。
「…どうしましょうか?」
ルミナが不安げにルルに尋ねる。
ルルは頭を抱えていた。
「まあ、ただの空間転移の魔術ですから。お姉さまなら、少し頑張れば戻って来るとは思いますけど…。」
「大体、どれだけ早くても1時間近くはかかるでしょうね。つまり、私がこの結界の中に入る時間とほぼ同じくらいかと。」
ルシフェルがルルに言う。
「前もこんなことあった気がするんだが…。あいつは、あれか?学習しないのか…。」
肝心なところでいなくなる自称人類最強様がいなくなったことで、俺達だけで戦わなければならなくなった。
正直言って、かなりの戦力ダウンだ。
戦う相手も、恐らく大天使以上の相手なのは予想出来る。ルルがいるとは言え、そのレベルが何人いるか分からない。
「お姉さまに、先に言っておくべきでしたね。」
はぁ、っと大きくため息をつくとルルが言う。
そう言うと、ルルは細心の注意を払って結界の中に足を踏み入れる。
どうやら、ルルまでも閉じ込められることはなかった。
「とりあえず、クレア殿とアリス殿の捜索が先決ですね。」
同じく結界内に入ったリヤドがルルに言う。
ルルはその言葉に頷く。
しかし、すぐにそれが簡単には行かないと言うことを理解する。
「かなりの数ですね…。」
ルミナがつぶやく。
目の前には数10人どころではない数の武器を持った者がいた。
「天界護衛騎士団ですね。各大天使直属の部下です。」
結界の外にいるルシフェルの声が聞こえる。
「これを倒すのが先か…。」
早く行かないといけなというのに余計な手間が増えた。
すると、俺達3人の前にアレウスとゴレイヌ、バルバトスの3人が立っていた。
「ルル様。こちらは、我々が相手しましょう。結界の中にすぐに入れなかった遅れ、ここで取り返します。」
アレウスはそう言うと、腰に差していた大剣を抜く。ゴレイヌとバルバトスの2人も臨戦態勢に入る。
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息切れした荒い呼吸が耳に聞こえる。汗も額から滝のように流れ落ちている。
クレアは、両手に持っている短刀を握り直す。
「中々にタフだな。」
男の声がする。
どのくらい、この男に傷を付けただろうか。正直、100は超えていると思う。
しかし、全く男にダメージを与えられている気配はない。
以前、ルミナが戦ったという幻術を使う大天使とはまた違っている。
この男に関しては、確かに本物の肉体を斬っているという感触があるからだ。
「不思議か?自身の攻撃が全く届いていないことに?」
顔の半分を仮面で覆った男はクレアに楽しそうに言う。
まるで余裕だと言わんばかりの表情だ。
ムカつく、とクレアは思った。この男、絶対に自分を遊んでいるとも感じた。
ただ、どうやらアリスの方には誰かが向かっている気配はなさそうだ。
そして、見知った魔力の気配もいくつか感じ取れる。
この男の魔術のネタが分からない以上、助けが来るまで時間いっぱいいなすのが得策だ。
クレアはそう思うと、立ち上がる。
「あんた、大天使でしょ?おかしな能力持ってる集団みたいだし、別に攻撃が効かないくらいは想定内よ。」
クレアは強がりで言う。
「想定内か。ならば、教えてやろうか。ちょうど、自己紹介を兼ねてな。」
「随分とお喋りさんなのね。別に私からしたら構わないけど。」
クレアはそう言うと、両手に持った短刀を構える。
スピードで自分がこの男に劣っていることはない。
クレアは一度呼吸を整える。
「俺の名はゼラキエル。そして、俺の能力は、“不死身の領域”。俺の体は不死身だ。」
「随分な言い方じゃない?不死身なんて存在しないわよ。」
クレアはそう言うと、ゼラキエルの背後を狙う。
雷の属性を持つ魔術。純粋な身体能力強化に特化した使い方をしている。
「…存在しないか?ならば、今の貴様が見ているモノは何だ?」
ゼラキエルはそう言うと、わざとクレアの一撃を食らう。右腕が切り落とされる。
クレアは余裕の表情を見せるゼラキエルに対してそのまま首を落とそうとする。
「言ったはずだぞ。俺の体は不死身、だと。」
そう言うと、先程切り落とした腕がすでに治っていた。そして、その右腕でクレアはゼラキエルのパンチを防ぐ。
後ろに押し戻される。
これだ。先程から、致命傷に近いダメージは与えているはずだ。
だが、それが一切効いていない。
「…私の一番の弱点が露呈してるタイプね。」
汗を拭いながらクレアがつぶやく。
スピードで相手を翻弄して、仕留める。それがクレアの戦い方だ。
だが、サタンとルルとの違いは確実に一撃で仕留めれるような攻撃手段がないことにある。
いかに手数を稼いで、相手を疲弊させるか隙をつくかがクレアの戦い方の肝となる。
それが、ほぼ無限に回復して来るこのゼラキエルとは相性は最悪だ。
「あまり、魔術師っぽくなくて好きじゃない戦い方だけどしょうがないか。」
クレアはそう言うと、先程拳を防いだ腕を確認する。痺れもない。大丈夫なようだ。
クレアは自身の魔力を全身に纏う。体は黄色に光り、全身からパチパチと音がする。
「“雷獣”!」
クレアはそう叫ぶと、ゼラキエルの前から一瞬にして姿を消す。
「…芸がない。スピードは飛躍的に上昇しているが、ただそれだけだ。貴様には、確実に仕留める一撃がない。」
つまらん、と言った風にゼラキエルが言う。
「だったら、仕留めてあげるわよ。」
クレアはそう言うと、ゼラキエルの全方位に向けて短刀を投げる。
増幅魔法を用いた、物量による攻撃。ただ、恐らくこの程度の攻撃では傷を受けながらも避けて体は元通りに回復するのは目に見えている。
予想通りに、ゼラキエルが攻撃から抜け出す。
「そこにしか逃げる場所がないもんね。分かるわよ。」
空に向かって飛びあがったゼラキエルのさらに上からクレアは蹴り上げて地面に叩き返す。
ゼラキエルが土ぼこりが上がる中、起き上がる。
「言ったはずだぞ、芸がないと。」
その時だった。空から大量の札が降ってきた。
その数は千、いや万は超えるだろうか。
「不死身なんてモノは存在しない。一撃で仕留めるか。それか、魔力が尽きるまで無限に攻撃を叩き込む。その二択よ!」
そう言うと、クレアは札を起爆させる。
校庭に凄まじい爆破音が鳴り響く。
ほぼ魔力は使い切った。変身を解くと、クレアは呼吸を整えるように地面に片膝をつく。
その時だった。背後から気配を感じた。
まずい、と思い後方に逃げようとする。しかし、魔力は使い果たし動ける気力はもうなかった。
「悪くはない策だったな。だが、何度も言っているだろう。その程度の攻撃では俺は倒せん。」
クレアの首を掴むと、持ち上げてゼラキエルが言う。
クレアは何とか抜け出そうとするが、もうその力すら残っていなかった。
「でも、これで分かったわ。それ以上の攻撃を叩き込めば、あんたは殺せる。」
「だから、何だ?貴様にその力が残っていると?」
ゼラキエルが勝ち誇ったように言う。
クレアはニヤリと笑う。
「時間稼ぎは十分したわ。あの、馬鹿も大丈夫そうだしね。」
そう言うと、ゼラキエルは頭上から何かが来る気配を感じた。
そして、その瞬間だった。クレアを掴んでいた腕が真っ二つに切り落とされる。
「遅いよ、お兄ちゃん。」
クレアは笑みを浮かべながら、自身を抱きかかえてくれた男に言う。
「しょうがないだろ。どこぞの最強様がまた使い物にならなくなっているんだから。」
クレアを抱きかかえながら、やれやれといった風に言った。




