バチカンからの刺客
目の前に現れた複数人の黒いスーツの男達に俺とルミナは警戒心を強める。
「誰、この人達?」
俺はアリスを挟んで隣にいるルミナに尋ねる。
「私が知っているとでも?明らかに狙いはアリス殿かと…。」
座っていたベンチから立ち上がると、ルミナが俺に答える。
だよなー、明らかにバチカンに戻るとか何とか言ってたからな。
「剣様。」
ルミナは俺に小さな声で耳打ちをする。
俺は、それに合わせたようにルミナに2本の刀を渡す。
ルミナはそれを受け取ると、両腰に差して居合の構えを取る。
「素直に渡せば何もしない。抵抗するとならば、こちらにも考えがある。」
B級映画ばりの三下セリフを男の1人が言う。
今時、そんなテンプレみたいなセリフを悪役が吐くなとツッコミたい。
アリスはと言うと、状況があまり読み取れずにオロオロしていた。
俺は、ため息を吐くと頭を掻いた。
本当に日本に戻ったらお祓いに行くことを検討するべきだと思う。
それも近所の神社じゃなくて、そこそこ有名なご利益が強そうな神社でだ。
「なあ、ルミナちゃん。日本にはこんな言葉があるんだけど知っている?」
俺はルミナをチラリと見て言う。ルミナの方も俺が何を考えているのか、察したようだ。
無言で俺に頷く。
「三十六計逃げるに如かず、って便利な言葉があるんだよ!」
俺はそう言うと、アリスの手を掴み男達の反対方向に逃げ出す。
ルミナも後ろからその後を追う。
「逃がすな!挟み撃ちにして捕らえろ!」
先程の三下セリフを吐いた男が周りの男達に命令をする。
どうやら、あれがリーダーのようだ。
俺はとりあえず、裏通りに逃げ込む。ルミナは少しでも邪魔になるように近くにあったゴミ箱を追いかけてくる男達に向けて蹴り上げる。
そして、俺の隣に並んで並走する。
「逃げるのはいいですが、どこに逃げるのですか?」
ルミナが俺に尋ねる。
正直、特に考えもなく逃げたのであまりこの後のことは考えていない。
「とりあえず、ルミナちゃんの家かサタンのとこに逃げ込むのが一番じゃない?どこに行けばいいか分からないけど。」
ルミナは呆れたような目で俺を見る。
「ホント、何も考えなしに逃げたのですね。いいでしょう。正直、裏通りなんてそんなに歩かないのでそこまで地理的優位があるわけではないですが、ある程度の勘で最短距離で逃げます。」
ため息を吐くと、ルミナは俺に言う。そして、俺とアリスを追い抜くと先頭を走る。
目の前には回り込んでいた複数の男達が待ち構えていた。
「もう、来ていましたか。」
ルミナは舌打ちをすると、小声で言う。そして、左に差していた刀から少しだけ刀身を出す。
「ルミナちゃん!一応、殺さない方向で!」
俺は一応、生身の人間であることを考慮してルミナに言う。
「要求の多い人ですね。ですが、下手に殺すと面倒なことになりかねませんし。峰打ちで済ませましょう。」
そう言うと、今日一番の最高速で男達に向かって飛びこむ。
男達の手には拳銃が握られていた。
そして、ルミナに向けて発砲しようとする。しかし、その弾が発射されることはなかった。
銃身が真っ二つに斬られると、男達はルミナの一撃によって気絶して倒れる。
一瞬だけ、視界が開ける。
「こっちです!」
ルミナはそう言うと、角を曲がる。
俺はアリスの手を引っ張って、その後を追う。
そして、角を曲がったところでルミナの姿を一瞬見失うと、次の瞬間に右腕を強く引っ張られる感覚を覚える。
左手で掴んでいたアリスを体で抱きかかえるようにして、角の曲がったすぐ近くの隅に隠れる。
複数の男達の声が聞こえる。どうやら、とりあえずは撒いたようだ。
「一応、こちらの姿は見失ったようですね。」
そう言うと、ルミナは携帯をポケットから取り出す。
そして、電話帳を開くとその中の1つに電話をかける。
「シェフィールですか?今すぐ、こちらに来てください。何者かに追われていますので。」
聞こえるか聞こえないかレベルの小さな声で電話をするルミナ。
どうやら、ランスフォード家でメイドをしているシェフィールに電話をかけているようだ。
「えぇ、今は家からすぐ近くの公園から離れた場所の裏通りにいます。とりあえず、手の空いている者にサタン様へ伝言するように伝えてください。あなたはすぐにこちらに。とりあえずは、地図アプリで最短で逃げれるルートは探すので私か剣様の気配を察して近くまで来てください。」
そう言うと、ルミナは電話を切る。そして、素早く地図アプリを開いて自宅までの道筋を調べていた。
「このルートが一番近そうですね。」
ルミナはそう言うと、軽く画面を見てルートを頭に覚えたのか再び携帯をポケットにしまう。
そして、立ち上がると俺とアリスの方を見下ろす。
「とりあえず、行きましょう。剣様、周りにいそうですか?」
俺はルミナの言葉を聞くと、壁越しから確認をする。
とりあえずは、人の気配はなさそうだ。
「大丈夫そうかな。」
俺はルミナに言うと、再び無言で頷く。
「とりあえず、先頭は私が走りますので剣様はアリス殿を連れて後ろを走ってください。」
「拳銃使ってくる時点であいつら何者なんだよ。」
俺は壁越しで確認しながらルミナに言う。
ルミナは首を横に振る。
「先程も言いましたけど、私が知るわけないですよ。少なくとも、迷子の少女を連れて帰ってくれる優しい人達には見えませんけどね。」
それは俺も同意する。明らかにまともな側の人間ではないのは明らかだ。
「多分、バチカンの教会で雇われている方かと思います。首に付けていたバッジは何度か見たことありますから。」
アリスが小さな声で言う。
ここ数日、何度か耳にする単語。バチカンの教会。
イタリアのローマのバチカンと呼ばれる場所にデカい教会を構えていてキリスト教のカトリック宗派の親玉みたいな存在らしい。
「拳銃放ちまくって、やってることヤクザか何かにしか見えないけど。」
俺はアリスに尋ねる。
アリスの方も状況が飲み込めていないのか小さく首を横に振る。
「とりあえず、状況を確認するのはここを逃げてからにしましょう。シェフィールにはサタン様の方に連絡は行ったはずだと思うので助けも来ると思いますし。」
ルミナの言葉に俺は頷く。
そして、ルミナが俺の前に立ち周りを確認する。誰もいないことを確認すると俺に合図をする。
その合図に合わせて、俺はアリスの手を掴んでルミナの後ろを走り出す。
「いたぞ!!!」
背後から声が聞こえる。どうやら、建物の屋上から探していたようだ。
その声にぞろぞろと足音が近づいてくる。
「アリスちゃん!俺とルミナちゃんの間を走って!」
俺はアリスの背中を押すと、俺とルミナの間を走らせる。
俺は、大剣を出すと肩に担ぐ。
アリスの方はそこまで体力がないのかかなり呼吸が荒くなっている。
「もう少しだけ頑張ってください!」
ルミナはアリスにそう言うと、刀を抜き右手に持つ。そして、空いている左手でアリスの手を掴み無理やり引っ張るようにして走る。
俺の方は後ろから撃ってくる拳銃の弾を防ぎながら何とか2人の後を追う。
「ルミナちゃん!前!」
俺は前を向くと、ルミナに叫ぶ。
4から5人ほどの男達が横に隊列を組んで銃を構えていた。先程までの拳銃と違い、ショットガンのような大きめの銃だった。
「随分と準備がよろしいようで。」
ルミナは半笑いでアリスの手を放す。
俺は息切れしていて倒れそうになるアリスを支えると、そのまま走る。
ルミナは一度、右手に持っていた刀を左に差していた鞘に戻す。
「“二刀流・居合。五月雨”。」
両側に差している刀を逆手で掴む。
そのまま、男達に対して目にも止まらぬ速さで居合の構えのまま斬り捨てる。
男達が地面に倒れ込む。片膝をついていたルミナは素早く地面から立ち上がる。
そして、こちらだと俺達に手招きをする。
俺は、アリスを抱えたまま角を曲がろうとする。
バンッ!!!
背後から銃弾が放たれる音がした。
銃弾が俺の足を掠ると、弾の行く先はルミナの左足を貫いた。
ルミナは足をよろめき、転がる。
「ルミナちゃん!」
俺はルミナに対して叫ぶ。
ここぞとばかりに、男達が取り囲む。
「大丈夫です!ただのかすり傷です!」
ルミナはそう言うと、立ち上がり刀を構える。足からは血が流れている。
男達が一斉にルミナに飛びかかる。
「しょうがない!ルミナちゃん、アリスちゃんを!」
俺はそう言うと、小柄なアリスをルミナに投げる。
ルミナは一瞬、状況を飲み込めず目を丸くする。しかし、すぐにルミナは受け取るとアリスの上に乗りかかるようにして地面に伏せる。
俺は、それを確認すると飛び上がり一斉にルミナに対して攻撃を仕掛けてきた男達を斬り伏せる。
地面に伏せていたルミナが、何かを取り出すと宙に投げる。小さい球のようなモノだったが、それは割れると耳を塞ぎたくなるような音と共に眩しい光を放った。
ルミナはアリスを抱えたまま、俺の手を引っ張る。
男達はと言うと耳をふさぎ、目を潰されたのかお互いの場所すら理解出来ていない状態だった。
混乱した声がする中、ルミナは俺とアリスを連れて路地裏に逃げ込む。
「はぁ、はぁ、はぁ…。とりあえず、逃げ切れましたね。」
ルミナは荒い呼吸で壁を背にして座り込む。足を見ると、無理をしたせいかかなり出血が激しい。
「とは言っても、そんなに距離を離せているわけじゃないから見つかる可能性高いぞ。」
俺も少し疲れたので、ルミナの隣で座り込む。
ルミナは少しだけ苦しそうに汗を流していた。
「大丈夫です。すぐに歩けるようになるので。」
「無理するなよ。出血、かなり酷いんだぞ。」
「体が丈夫なのが売りですから。これくらいならどうと言うこともないです。少し、銃弾が体の中に残っていて痛むだけです…。」
強がりを言うと、立ち上がる。しかし、一歩だけ歩いただけで顔をしかめる。
「だから言ったじゃん。とりあえず、座れよ。」
俺はそう言うと、ポケットからハンカチを出す。
そして、それを広げると座らせたルミナの足に巻いてあげる。
「何もないよりはマシだろ。」
俺は慣れない手つきで応急措置を取る。
「相変わらず、変なところで優しいんですね。」
ルミナは俺を見ながら、少し微笑んで言う。
「うるせぇ、余計なお世話だ。」
少し、強めに巻いてやろうか。
俺はそんなことを思いながら、ルミナの傷口にハンカチを巻き終わる。
隣で心配そうに見ていたアリスが俺達に声をかける。
「…あの、痛いのでしたら私が治しましょうか?」
どういうことだろうか?治療魔術が使えるとかそういうことだろうか?
俺とルミナはお互いの顔を見る。
すると、アリスはルミナの傷口に軽く手を触れた。淡い緑色の光を発するとハンカチを赤く染めていた出血が突然止まる。
ルミナは驚いた表情をする。
俺はそれを見ると、ルミナに言う。
「なあ、ルミナちゃん。」
「大丈夫です、私も同じ気持ちですので。日本に帰ったら、一緒にお祓いに行きましょう。それもとびきり、効く場所に。」
「何でルミナちゃんまで来るんだよ。」
「私にも剣様の変な体質が伝染してる可能性がありますので。」
俺は感染症か何かかと言いたい。
いや、ただ正直言ってこれはどういう原理なんだろう。
ルミナに巻いていたハンカチを取ると、傷跡すら残さずに治っている。
ルルがしてくれる治療魔術ですら、ここまで完全に治ることは珍しい。
「正直言って、これは治療と言うより怪我をする前の状態に戻っていると言った方がいいかもですね…。」
ルミナも同じ気持ちだったらしい、不思議そうにアリスを見る。
アリスは不安げな目で俺達を見る。
「いたぞ!!!手間をかけさせやがって!」
突然、男達の声が聞こえる。
見つかってしまったようだ。だが、運がいいことにルミナの傷は完治している。
このまま一気に逃げよう。
そんなことを思った時だった。
「ルミナ様、ただいま参りました。」
ルミナの背後から突然声がする。
振り向くと、シェフィールがいた。
「本気で心臓止まるかと思いました。静かに来るのはやめてください。」
ルミナが静かに、しかし少しだけ怒りを込めながらシェフィールに言う。
男達が拳銃を構えたまま、少しだけ動揺しているようだった。
その時だった。屋上から複数人の人影を感じる取ると、俺達を囲んでいたスーツの男達を一瞬で気絶させていた。
「通りを囲んでいたスーツの男達はリヤド様の手勢によってほぼほぼ取り押さえました。こちらもランスフォード家の者で取り押さえましたので、あとはサタン様とルル様が来るのを待っていただければ。」
シェフィールはルミナに静かに報告する。
初めて、俺がこのメイドに対して感心した時だった。
2カ月、毎日投稿何とか続けられてます。
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