また会ったね
次の日の昼、やることも特にない俺は散歩に行こうと部屋を出た。
明日には帰るらしいので、この非日常的な生活も残り僅かだ。
まあ、正直言って日本に帰ったところでその生活が日常に戻ったかと言ったら絶対に数週間前と比べたら非日常と言えるだろう。
俺は大きく欠伸をした。
「どこかにお出かけですか?」
ルミナの声が背後から聞こえる。
「暇だから散歩に行こうかなって。と言うか、そっちこそ今日は何もないんだね。」
俺はルミナの方を振り向いて答える。
いつものスーツ姿に着替えていて、身なりも整っていた。
俺はと言うと、寒さも考慮して上にコートは羽織っているが、動きやすい普段来ているような服装だった。
「今日は特にやることもありません。元々、お母さまに報告するのが今回の目的でしたから。それで、どちらに?」
「ただ、近所を散歩するだけだよ。」
「では、私もご一緒いたします。」
ルミナが頼んでもいないのに散歩に同行すると言い出した。
正直、1人で歩きたい気分だから別に一緒に来て欲しいという気持ちは特にない。
「別に大丈夫だよ。ただの散歩なんだし。近所を歩くだけだから迷子にもならないだろうし。」
俺はルミナにやんわりと断ろうとする。
「一応、剣様の付き人ですので。もしもの時のために同行します。」
「別に大丈夫、って言ってるのに…。まあ、一緒に来るのはいいけどそのノリを学校の方には持ち込まないでよ。変な目で見られそうだから。あと、様付けも禁止で。」
俺は、ルミナに指を指しながら言う。
「分かりました。学校の方では気を付けましょう。」
ルミナはそう言うと、静かに俺の後ろを歩き始めた。
何と言うか、こういうのに普段から慣れていないのでやりにくい。
むしろ、こういう状態に慣れているサタン達がおかしいのだろうが。
俺とルミナは家から出ると庭を通り過ぎた。
芝生の長さがほとんど均等に整えられていて、自分の家の気づいたら雑草で溢れかえっている庭とは大違いだ。
どうせだから、ルミナに頼んでランスフォード家の庭師みたいな人がいたら借りて、自分の家の庭も整備して欲しいものだ。
「やっぱり、寒いな…。」
気分で散歩しようと思ったが、思ってた数倍寒い。
昼だから大丈夫だと思っていたが、最低限の防寒具は着ていて正解だと思った。
そのままの何も着込んでいない姿で外に出ていたら、絶対に後悔して帰宅していただろう。
「ロンドンもしっかりと冬ですから。剣様の住んでいる地域よりもさらに冷え込んでいると思いますよ。」
後ろを歩くルミナが俺に言う。
「よくもまあ、そんなスーツ姿で歩けるな。寒くないの?」
俺は特に防寒具もしていないルミナに尋ねる。
「慣れていますので。一応、この中に2から3枚ほど厚着のシャツは着ていますのでそれなりに暖かいです。」
着こんでいる割にはあまり厚みを感じない服装だなと思った。
そんな俺の視線に気づいたのかルミナが俺に冷たい視線を向ける。
「何でしょうか?思う所があるなら、お聞きしますよ。」
「いや、体型って人それぞれなんだなって。」
俺は鼻で笑うようにルミナに言う。
ルミナは少しだけ、口元が歪んでいた。
「ここが外でなければ斬りかかっていたところでした。命拾いしましたね。」
「刀は俺が管理しているから、斬りかかれないよ。残念だったな。」
俺は勝ち誇ったように言う。
ルミナは、そうだったと言った表情をしていた。
「やはり、剣様に預けていたのは間違いでしたかね…。」
少しだけ悔しそうに言う。
預けずに自分で所持していたのなら、本当に斬りかかっていたのかと言いたい。
俺とルミナはそんなことを話しながら近所を散歩していた。
もう、割と見慣れた街並みだ。
通りに構えている飲食店なども営業していて、ちょうど昼食の時間なのか仕事の休憩時間のリーマンなどで賑わっている。
「あれ?あの方は…。」
そんなことを考えながら歩いていると、ルミナが少し先にいる人物を見つけた。
俺はその視線の先を見る。視線の先には、昨日会った金髪碧眼の少女がいた。
名前は確かアリスだったか。昨日と同じ、シスターの服装をしていた。
「やあ、また会ったね。」
俺はアリスに近づくと、声をかける。
アリスの方は突然声をかけられて驚いていた。
しかし、俺達の顔を覚えていてくれていたのかすぐに表情は笑顔に戻った。
「こんにちは。昨日はありがとうございました。」
アリスはそう言うと、ペコリとお辞儀をする。
「何してるんですか?」
ルミナがアリスに尋ねる。
「いえ、少し街を歩いていただけです。昨日はあの後、近くの教会に行ったのですが誰もいなくてそのままそこで少し睡眠だけとらせていただいたのです。」
「寒くないの?」
昼ですらそこそこ防寒具を着ていてそれなりに寒さを感じるのに、あの薄そうな外套とこの服装で暖房器具もなさそうな場所で寝るのは中々にたくましいなと思った。
「一応、シスター見習いをしている時もそんなに設備の整っている場所にいたわけではないので。こういうのは慣れています。」
俺の考えていることを察したのかアリスは説明する。
慣れていると言っても、イタリアとイギリスではだいぶ気候に違いがあるだろと言いたい。
「もし、泊まる場所とかないのでしたら用意いたしますよ。」
ルミナは心配そうに言う。
「大丈夫ですよ。正直、勝手に飛び出して来たようなモノですから。最悪、この後どこに行けばいいか分からなかったら近くの人がしっかり運営している教会に頼みに行こうと思っていたので。」
そう言うと、アリスのお腹から音が鳴った。
あの後、何も食べていないのだろう。
アリスはその音を聞かれて、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
俺とルミナは互いに顔を見合わせて、苦笑いをする。
「もしよろしければ、何かご馳走しますよ。」
ルミナはアリスに言う。
アリスは、恥ずかしそうに笑うと無言で頷いた。-
-俺とルミナ、そしてアリスの3人は昼ごはんとハンバーガーを買うと、近くの公園のベンチで座って食べていた。
「ごめんなさい。まさか、2日連続で…。」
アリスは申し訳なさそうに、買ってもらったハンバーガーを食べていた。
「大丈夫だよ。気にしなくても、ハンバーガー程度なんだし。」
「そのお金を払っているのは私であることを忘れないでくださいね。」
俺は、アリスにカッコつけて言っていると隣からルミナが自分の手柄だと釘をさしてくる。
せっかく、年下の女の子にカッコつけてるので邪魔しないで欲しい。
アリスはそんな俺とルミナのやり取りを楽しそうに眺めていた。
「お2人は仲がよろしいのですね。」
ニコニコしながらアリスが言う。
「ただの主従関係なだけです。こんな失礼な男と仲などよくありませんよ。」
ルミナがアリスに否定するように言う。
失礼な男、と言うが俺からしたらルミナの方が失礼なんだがと言いたい気持ちだったがまた言い合いになりそうなのでやめることにした。
「主従関係?あまり聞かない言葉です。」
アリスは不思議そうに言う。
そう言えば、今更気づいたが俺に合わせてくれているのだろうが日本語で喋れるんだなと思った。
「そうですね。少しだけ、話してあげますね。」
ルミナはそう言うと、アリスに俺とのここ最近あった事件についての話をした。
ルミナの表情は少しだけ誇らしそうな表情だった。
アリスもその話に興味津々に聞いていた。
「凄いですね。まるで正義のヒーローみたいですね。」
アリスが目をキラキラさせて俺を見てきた。
その視線は嬉しいが、何と言うかヒーローだの言われるのは恥ずかしい。
「成り行きだよ、成り行き。別にヒーローとかそう言うのじゃないから…。」
俺はアリスの視線から目を逸らしながら言う。
ルミナはニヤニヤとしながら、俺を見ていた。
何だその視線は。普段の喧嘩ばかりしていることを言ってもいいんだぞと思った。
「そう言えば、日本語が話せるんだね。昨日は気づかなったけど。」
俺は話題を変えるために、アリスに話を振る。
「はい。見た目的に日本の人だと思ったので。一応、日本語の勉強も少ししていたんです。以前、祈りをしていた時に日本に行くことがあるだろうって声を聞いたので。それで…。」
アリスは俺に説明する。
また、神託的なモノなのか。あれか?霊媒師か何かなのだろうか、この子は。
「やっぱり、中々信じられない話ですよね。私も、完全に信じれてはいないんですけど…。でも、幻聴かと思う割には鮮明に聞こえてたので…。」
俺の疑いの目に気づいたのか、アリスが少しだけ小声で言った。
顔に出てしまったか、と反省する。
「これだから、剣様は。相変わらずの無神論者ですね。」
ルミナがやれやれと言った風に俺を責める。
「じゃあ、ルミナちゃんは信じるのかよ?この話を。」
俺はルミナに言い返す。
「もちろんですよ。アリス殿はかなり信仰心の深そうな方なので。そういうこともあるかと。」
無駄に信心深いルミナが俺に言う。
その信じている神様とやらが何もルミナにとって救いになるようなことをしていないのだがそれはいいのかとツッコミたい。
「大丈夫ですよ。私が勝手にそう思っているだけの話なので。でも、もし本当にその声が本物だったらって思えたら素敵だと思ったんです。」
アリスは俺とルミナの間で慌てるように言う。
素敵、か。実際に見えていないモノから聞こえて来た声とやらをそう思えるのは凄いなと素直に思う。
俺だったら、寝ぼけているのかなと思って無視すると思う。
俺はそんなことを思いながら、再びハンバーガーを小さな口で食べるアリスを見る。
胸には十字架の形が彫られたネックレスをしていた。
「アリス殿。もしよろしければ、私の家で数日間泊まりませんか?もし、その声とやらが聞き間違いだったのしたらお母さまを通じて大使館の方に話を通して帰国の手続きとかも出来ると思いますし。」
ルミナはアリスに提案をする。
恐らく、この子は例え宗派は違うとはいえ自分と同じく信心深いアリスと名乗る少女を見捨てられないんだろう。
もしかしたら、自分の妹と年も同じくらいでほっとけないというのもあるかもしれない。
アリスはルミナの言葉に少し考えこんでいた。
「…いいんですか?」
不安そうな目でルミナに聞き返す。
ルミナはニコリと笑みを浮かべる。
「はい、もちろん。部屋は余っていますので。何なら、私の妹と同じ部屋でも大丈夫でしょうし。」
アリスはルミナの言葉に少しだけ不安そうな表情が晴れていた。
そして、ルミナに小さく頷く。
「では、それでお願いします。昨日から、色々と迷惑をおかけしてすみません。」
そう言うと、嬉しそうにルミナに笑いかける。
こういう所は本当にルミナは世話焼きだなと思う。
そんな2人を見ていると、俺達の前に数人の黒いスーツとサングラスをかけた男が現れた。
明らかに、まともそうな人間ではなさそうだった。
「アリス・フレイジャーだな。今すぐに、我らと共にバチカンに戻ってもらおう。」
前に出て来た男に1人がアリスに対して言った。




