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不思議なシスター

孤児院を後にすると、俺は泊っているランスフォード家の家に帰ろうと歩き始める。


「随分と早い帰宅なんですね。」


聞き慣れた声が聞こえる。

俺は声のする方向を見る。


「何だ、結局ついて来てたんだ。」


俺は、孤児院の建物を囲んでいる石壁に寄り掛かっていたルミナに言う。


「コッソリとですが。」


正直言って、全く気付かなかった。

俺は気づかないにしても、ルルの方も気づいている感じはなさそうだった。


「完全に気配を消していましたから。もしかしたら、ルル様は何となくで気配を察知していたかもしれませんが。」


ルミナはそう言うと、寄りかかっていた壁から離れて俺の方に近づいてきた。


「尾行なんていい趣味してるじゃん。」


俺は、近づいてくるルミナに言う。

そして、帰るために歩き始める。ルミナも俺の後ろをついて来た。


「と言うか、ここが何の建物なのかは知っていたの?」


俺は、孤児院の方を少しだけ振り返りルミナに尋ねる。


「ルル様が運営している孤児院だと言うことは知っていますよ。出来た当初に一度だけ、見に行きましたから。」


「運営はルルちゃんがしてるの?」


俺は、ルミナに聞き返す。ルミナは無言でコクリと頷いた。


「設立のお金こそ、キール様が出したらしいですがそれ以降の運営はほとんどがルル様とあの神父様が行っているみたいですよ。ルル様が日本に行かれてからは、ルーシー殿が代理で逐一、見に行って報告しているようです。」


「そもそも、あの神父さんは何者なのさ。名前も本人の口から教えてもらえなかったし。」


とりあえず、神父呼びをしているがちゃんと名前を今度会ったら聞いておこうと思う。


「さあ、経歴も何から何までルル様以外知らないんですよね。どこで見つけて、どうして孤児院を任せているのかさえも。」


「まあ、別に悪い人じゃなさそうだからいいだろうけど。ルルちゃんが自分で見つけたなら、それなりに信用出来る人だとは思うけど…。」


「私もそう思いますよ。正直、ルル様が完全に個人でされていることなのでサタン様も特に関わっていないようですしね。私も、外から見て知っているだけの知識しかありません。」


ルミナはそう言うと、再び黙って俺の後ろを歩き始めた。

俺はふと先程、聞こうと思って忘れていたことを思い出した。


「そう言えば、聞き忘れてた。いつから、尾行していたの?」


俺の質問にルミナはため息をつく。


「それ、答えなければならない質問ですか?」


「別にルルちゃんには言わないからさ。何でわざわざルルちゃんに断られたのに尾行までして来たのかなって気になっただけ。」


俺の疑問にルミナは再びため息をつく。そして、やれやれと言った感じで答える。


「ただ、どこに行くのかなと気になっただけです。それに、剣様がルル様におかしなことをしないか見張らないといけないと思いまして。」


「ホント、前から思ってるけど俺にどんな印象を抱いているんだよ…。」


相も変わらず失礼なことを言うルミナに俺は睨みながら言う。


「私を助けてくださった時はあんなにカッコよかったのに、気づいたら元の評価に戻っていたな、という印象を抱いているだけです。」


ルミナも負けじと俺に言い返す。


「あの時はノリと勢いで何とかなったからな。むしろ、普段からあんなノリだとしたらトンデモないナルシストか何かだろ。逆に怖いわ。」


俺は、呆れるようにルミナに言う。

別に俺は漫画の主人公でもハリウッド映画に出てくるような正義のヒーローでもないのだ。そういうのを期待したいなら、そういう人間性の奴にして欲しい。

少なくとも、自分はそんな立派な精神は持ち合わせてはいない。


「まあ、それもそうですね。」


なぜか納得したようにルミナが言う。

それはそれで、何だかムカつくなと思った。

そんな、いつも通りの会話をしながら歩いていた。その時、目の前に小走りで走っている小さな人間がおれにぶつかってきた。

フードを被っていて、顔などの見た目はあまり分からないが背丈は小学生とかそれくらいだろうか。

俺の足元にぶつかり、俺の前に尻もちをついていた。


「大丈夫ですか?ちゃんと前を見て歩かないといけませんよ。」


ルミナが駆け寄ると、怪我はないか確認するためにフードを取った。

フードを取って、現れたのはパッと見てかなり年下の少女だった。

先程の孤児院で出会った子供よりは年上だろうが、クレアと同年代くらいだろう。

金髪碧眼で綺麗な艶のある腰まであるほどの長い髪をした少女。頭には被り物をしており、その見た目は完全にシスターと言った感じの見た目だった。


「ごめんなさい。前をしっかり見ていなくて、ぶつかってしまいました…。」


少女は尻もちをついたまま、俺に謝った。

俺は膝を着き、少女となるべく視線を合わせた状態で話そうとした。


「いや、俺の方は全然大丈夫だけど。そっちの方こそ、怪我とかはない?」


少女は首を横に振った。


「私は大丈夫です。ただ、初めてきた場所でどこに行けばいいか分からなくて…。」


そう言うと、立ち上がり再び走り出そうとする。


「あっ、ちょっと待ってください!そんなに急がなくても…。」


俺と同じように中腰で少女のフードに付着していた砂ぼこりを払っていたルミナが声をかける。

その時、少女のお腹からかなり大きな音がした。


グゥ~…。


少女はかなりの空腹だったらしい。音と同時に地面にうずくまってしまった。


「…大丈夫?」


俺は不安げに少女に近づいて尋ねる。

少女は、無理やり笑顔を作った状態で俺に答えた。


「だ、大丈夫です。飛行機代だけ握りしめて、ここまで来たので。何も食べていなくて…。」


恥ずかしそうに言う。

俺はルミナと顔を見合わせる。


「何か奢ってあげたいけど、今財布持ってないんだよな…。」


俺は自分のポケットを探ると、少女に言った。

こんなことになるのなら、部屋に財布なんて置いて来るんじゃなかった。


「大丈夫ですよ。そんな気を使わなくても。自分で何とかするつもりなので…。」


少女はそう言うと、ふらつく足取りで立ち上がろうとする。


「そんな状態では、まともに歩けませんよ。私はお金があるので、そんなに多くのモノは買えませんが少しくらいお腹を膨らませるモノくらいなら買えますよ。」


ルミナはそう言うと、財布を取り出して自身の持っている金額を確認する。

俺は少女に笑いかけて、言った。


「だってさ。飯くらいなら奢ってあげるよ。」


「奢るのは私ですから。剣様が奢ってあげる、みたいな言い方は語弊を招くのでやめてください。」


俺の言葉にルミナが、即ツッコミをいれて来た。-


-歩いて、5分くらいのキッチンカーなどが色々と出ている通りに俺達は向かった。

ルミナは、サンドウィッチを売っているお店で2から3個ほど買ってくると噴水の前で座って待っている俺達の元にやって来た。


「どうぞ。少しはお腹の足しにはなるかと思います。」


少女を挟むようにしてルミナも座る。

少女は、袋を開けて貰ったサンドウィッチに嚙り付いた。

かなり、おなかが減っていたのだろう。あっという間に1個を平らげてしまった。


「美味しい?」


俺は一生懸命に食べている少女に尋ねた。

少女の方も俺を見上げると、笑顔を見せて来た。


「はい、とても美味しいです。ごめんなさい、ぶつかった挙句こんなご馳走までしてもらって…。」


申し訳なさそうに少女が言う。


「そう言えば、どこから来たのですか?飛行機代だけ、と先ほど言っていましたが。」


ルミナが食べている少女を見ながら尋ねる。

少女は、2つ目のサンドウィッチを齧りながら答える。


「そうですね。説明をした方がいいかもしれませんね。」


そう言うと、少女は口に頬張っていたサンドウィッチを飲み込んだ。

少し急いで飲み込んだからか、咳き込んでいた。ルミナは一緒に買ってきたジュースを渡す。少女はそれを一口だけ飲んで、呼吸を整える。


「ありがとうございます。私は、ローマから来たんです。」


ローマ?ローマと言うことはイタリアか。

随分と遠い所から1人で来たんだなと俺は思った。


「ローマと言うことはバチカンですか?」


ルミナは少女に聞き返す。

少女は少しだけ笑みを浮かべて答える。


「はい、私はバチカンの教会でシスター見習いをしていたんです。あっ、そう言えば名前をまだ言っていませんでしたね。アリス・フレイジャーと言います。」


そう言うと、俺とルミナにそれぞれお辞儀をする。


「そのシスター見習いさんがどうしてこんなイギリスまで飛行機で?」


俺は一番気になることを聞いた。

誰かと来たならともかく、わざわざ1人でだ。

何か、あったのだろうかと疑ってしまう。


「そうですね、信じてもらえるかは分からないですが…。」


アリスと名乗った少女はそう言うと、少しだけ恥ずかしそうに笑う。


「簡単に言ったら、お告げを聞いたからですかね…。ごめんなさい、急に何を言っているんだって話ですよね…。」


アリスはそう言うと、顔をうつむいた。

まあ、信じろと言われて信じれるような話ではないなと思った。


「だ、大丈夫ですよ。そこの無神論者はともかくとして、私もプロテスタントですけど、信心深い人間なので。もしかしたら、宗派の違いはあるかもしれませんが私は信じますよ。」


毎日、朝と寝る前に欠かさず祈りを捧げる習慣があるルミナがアリスを励ますように言う。

アリスはその言葉を聞くと、少しだけ顔を明るくした。


「本当ですか?私はカトリックですけど、毎日教会で祈りを捧げていまして。両親は私が生まれてすぐに亡くなったので、幼い頃からずっと修道院に預けてもらっていたんです。ただ、お世話になっていた私の修道院の神父様が高齢なのもあって亡くなられてしまって、どうしようかなと途方に暮れていたんです…。」


頬を恥ずかしそうに掻きながらアリスが言う。アリスはさらに話を続ける。


「それで、いつものように祈りを捧げていたんです。そしたら、突然声が聞こえて来たんです…。イギリスに行きなさい、って。よく分からなかったんですけど、亡くなる前に神父様がくれたお金があったのでそれでここまで一人で来たんです…。」


アリスはそう言うと、最後のサンドウィッチの一口を口に入れた。

そして、ルミナから渡された飲み物を一口飲むと、立ち上がった。


「ありがとうございました。お陰で、お腹も膨れました。」


笑顔を浮かべて、俺とルミナに礼を言う。


「これからどこに行くのですか?」


ルミナはアリスに尋ねる。

アリスは少し、首を傾げて考えていた。


「とりあえず、聞こえて来た声のままにここまで来ましたので。一度、近くの教会に寄ろうかと。祈りもまだ今日はしていませんので。」


そう言うと、アリスは再び俺達に頭を下げて小走りで去って行った。

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