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ルルの孤児院

次の日、俺はルルに誘われて市街を歩いていた。

昨日は、あの後はルミナの家で部屋を用意してもらい泊まることとなった。

夜はランスフォード家やザスティン家辺りが参加するウィザード家の身内のみのパーティーがあるらしく、俺もまた出席しないといけないらしい。


「なあ、どこに行く予定なんだ?朝早くに急に来て。」


俺は前を歩くルルに尋ねる。

ルミナも一緒に行くとルルに言っていたが、断れたので家で留守番をしている。

ルルは俺の方を振り返る。


「朝早くって、9時ですよ。普段なら学校もある時間です。」


「今日は休日なんだから、ゆっくり寝ようって話だよ。予定も夜からなんだし。」


俺達は軽口を言いながら歩く。そして、俺は軽く欠伸をする。


「いいじゃないですか?女の子と一緒に歩けるんですから?」


ルルがニコニコしながら言う。

それは、そうだが。正直、いい様に扱われている感じがする。


「ほぼ毎日顔を合わせてると慣れちゃうんだよね。ただ一緒に歩くくらいだと。」


女子と歩いた経験なんて数える程度だろと俺を知る人間からは総ツッコミが来そうなセリフを言う。

ルルは、我がままですねと小さな声で文句を言う。

そして、俺は先程からずっと気になっていたことをルルに尋ねる。


「で、この子は誰?」


俺とルルの横をずっと歩いている少女。年はクレアよりさらに幼いだろうか。

ルミナとクレアよりさらに強い色の赤い髪が印象的である。

歩いている通りのアスファルトの模様の同じ色のみを踏みながら歩くという遊びをしながら歩いているので忙しない。


「そう言えば、紹介してませんでしたね。ルーシー、自己紹介を。」


ルルがそう言うと、ルーシーと呼ばれた少女は立ち止まり俺を見上げる。


「初めまして、ルル様にお仕えしているルーシーと言います。剣殿のお話はいつもルル様から聞いています。」


丁寧な口調で俺にお辞儀をする。


「この子、前の時はいなかったよな?」


俺は、ルルを見ながら言う。


「そうですね、少し用事があって家にいませんでしたからね。2年くらい前ですかね。私の部下と言う立場でウィザード家にいる子です。一応、ゼノヴィアの妹と言う立場ですよ。」


「…一応?」


俺はルルの言葉に聞き返す。


「その子は孤児なんですよ。」


ルルは再び、同じ地面の模様を踏みながら歩くという遊びを始めたルーシーを見ると言った。


「私が、2年前に拾ったんですよ。私が買ったパンをひったくったことが原因で。」


俺はルルの向ける視線に流されるようにルーシーを見る。


「まあ、魔術的素養がある子でしたからね。捕まえて、そのまま警察に連れて行こうと思ったんですけど結構いい魔術を持っていたのでウィザード家で育てることにしたんです。今はロンドン市内の小学校に通っている傍らに魔術の勉強をさせているんですよ。」


「相変わらず、優しいんだね。」


俺はルルの話を聞くと、言った。

ルルは俺の顔を少しだけ見た。


「本当にそう思いますか?」


「どういう意味?」


俺はルルの言葉の意味が分からずに聞き返す。

ルルは少しだけ微笑んだ。


「いいえ、何でもありません。着きましたよ。」


ルルはそう言うと、ある建物の前に立ち止まる。

何と言うか、保育園とかそんな感じの建物みたいだ。


「何、ここ?」


俺はルルの隣に立つと、尋ねる。

ルーシーはこの建物が何なのかを知っているのか、何の遠慮もなしに中に入る。


「中に入れば分かりますよ。」


ルルは言うと、門をくぐる。俺もそれに続くようにくぐる。

滑り台やブランコ、砂場などがあり本当に保育園ではないかと思う。

そして、徐々に騒がしい声が聞こえてくる。恐らくは小さい子供のような声だろう。

建物のドアが開くと、数10人ほどの小さい子供たちが一斉にルルの前に集まる。楽しそうにルルに抱き着いたりしている子もいる。

そして、後方からはルーシーが出てくる。

俺はルーシーを呼び寄せると、小さな声で尋ねる。


「…この子供達は誰?」


まさか、ルルの子供とかではないだろう。

だとすると、こんな大勢の子供とはどんな関係なのか。


「孤児院ですよ、ここは。ルル様がウィザード家に頼んで作ってもらったんです。もう、1年以上は経っていますかね。作られてから。」


なるほど、通りで保育園だったり幼稚園を連想させるような建物の構造をしていたのか。

と言うか、ルルが作ったのか。

いや、まあお金を出すのは両親だからこの性格的に謙遜するだろうけど。


「久しぶりですな、ルル様。」


建物の中から遅れて、1人の老人が出てきた。

服装から、神父だと分かる。鼻の下と顎に白い髭が生えた男性だった。


「お久しぶりです。元気そうで何よりです。」


ルルはその老人に挨拶をする。


「あー、紹介が遅れましたね。この建物はウィザード家が運営している孤児院です。この人はここの管理をしてもらっている…。」


ルルがそう言うと、老人は笑いながらルルの言葉を制した。


「名前など別に良いです。ジジイでも好きに呼んでくだされ。名前を呼ばれるほど、立派な人間ではありませんので。」


顎から生えた髭を触りながら、俺に言う。


「えっと、じゃあ神父さんとかでいいのかな?俺の名前は、神野剣って言います。」


俺は神父に挨拶をする。


「初めまして。名前と話だけはこの子から聞いていたよ。ここは、ルル様が作られた孤児院でしてな。縁があって、ここの管理をさせてもらっている。」


神父が改めて自己紹介をする。

ルルは首を横に振った。


「別に私は何もしてないですよ。」


ルルの言葉に神父はニコリと笑う。


「今日は何か用でも?」


そして、ルルに尋ねる。


「久しぶりに時間があったので、様子を見に来ただけです。」


ルルは自分の周りに群がる子供達の頭を撫でながら言う。


「でしたら、ちょうどお昼も近い。食事が用意出来るまでこの人達に遊んでもらいなさい。」


神父が言うと、ルルに群がっていた子供達が一斉に俺の方にも向かってきた。-


-1時間くらい、子供達と遊んだだろうか。

俺は、少し疲れたので遊び場の隅に置かれているベンチに座った。

ルーシーは女の子達と砂場でまだ遊んでいるようだ。

俺はベンチに座ると、隣にはルルが楽しそうにその様子を眺めていた。


「随分とお疲れですね。」


ルルが笑いながら言う。

子供の体力を舐めていた。まさか、無限に鬼ごっこをさせられるとは思っていなかった。


「ホントだよ。汗かいたから、帰ったらシャワー浴びたいよ…。」


俺は汗で濡れた前髪を搔き上げながらルルに言う。

ルルは俺のそんな様子を見ながら笑っている。


「孤児院作るなんて立派なことしてるんだな。やっぱり自分に両親がいないから、とかが理由なの?」


俺は、少し汗が乾くとルルに尋ねた。


「そうですね。まあ、ルーシーを拾ったのが一番の理由ですけどね。」


「よくもまあ、こんなに孤児を見つけて来たんだな。」


俺は、遊んでいる子供達を見ながら言う。

正直、田舎の幼稚園くらいの人数はいるだろう。


「…ねえ、剣さん。もし、先ほど言った理由がでっち上げの適当な理由だって言ったらどう思いますか?」


先程までの口調から少しばかり暗い声でルルが言う。


「逆に、どんな理由でこんなに孤児を拾ってきたのさ。」


俺はベンチに寄り掛かるように座りながらルルに尋ねる。


「さあ、どうしてでしょうね。孤児を拾って孤児院を建ててもらうように両親に頼む優しい人を演じたかったから、とかですかね。」


俺は遊んでいる子供達を眺めながらルルの話を聞く。


「それを何で俺には教えたのさ。今、言わなかったらそれこそルルちゃんの言う優しい人って評価のままだったかもしれないのに。」


「私は、あなたが思うような優しい人間でも素晴らしい人間でもないって知って欲しかったから、ですかね。私はあなたが思う以上に性格は悪いし、ロクでもない人間だって。」


そう言うと、ルルは自身の近くに近寄って来た小さい子供を抱き上げる。

まだ、歩けるようになってほんの数ヵ月とかくらいの子供だろうか。小柄なルルでも簡単に抱き上げることが出来るくらい小さい。


「分かんね。わざわざ、朝から孤児院に連れて行って、それを言うことの理由が。」


俺は、子供達を眺めたままの状態でルルに言う。

ルルは、子供を膝に乗せると頭を撫でた。


「何ででしょうね。本当の私を知って欲しかったから、とかどうですか?」


ルルが少しだけ顔に笑みを浮かべて言う。

俺は、横目でその顔をチラリと見る。


「実はそれもでっち上げ後付け設定でしたとかってオチ?」


ルルはフフフと少しだけ笑う。

ただ、表情は暗いままであった。


「私は、今も昔もただ自己顕示欲が高いだけなんですよ。いい人だと思われたい。優しい人だと思われたい。賢くて、立派な人間だと思われたいって言う。」


「その一環でルーシーちゃんを拾って、孤児院まで作るように両親に働きかけましたってか。」


「ルーシーに関しては、ただの気まぐれですけどね。正直、魔術の素養なかったら警察に突き出していたでしょうし。」


ルルはそう言うと、膝にのせていた子供を地面に降ろす。

子供はルルに対して、手を振るとまた他の子供達が遊んでいる場所へと拙い足取りで戻っていく。ルルは、それに対して手を振り返していた。

…気まぐれねぇ。


「ねえねえ、ルル様!ルル様!」


俺が遠い目で空を見ていると、何人かが近づいてくる足音が聞こえた。

足元には、4人ほどの男の子達がいた。


「どうしましたか?」


ルルが、子供達に返事をする。

先頭にいた子供が後ろに立っていた1人の少年に前に来いと手招きをする。

子供の中から1人が恥ずかしながら、何やらカードを見せてきた。

プロサッカー選手のカードだった。日本にも売られている商品で、地味に俺も集めたりしている。

有名な選手のカードで、価値もかなり高かったことを覚えている。


「見てください!これ、この前当たったんです!」


嬉しそうに少年がルルに見せる。

ルルはそれを受け取り、眺めると楽しそうに笑っていた。


「よかったですね。このカードは結構、価値がありますから、大事にしないとですね。」


まるで母親のように少年に言う。

たまに、自分より年下なのに凄い母性を感じる時があるなと思う。


「ううん!これ、ルル様にあげます!」


少年がルルに言う。ルルは少し驚いた表情を見せていた。


「ダメですよ。せっかく、自分で当てたカードなんですから。大切にしないといけませんよ。」


ルルは少年にカードを返そうとする。

少年は首を横に振る。


「イヤ!ルル様がこのカード集めてたの知ってますから!あげますよ!」


ルルは困ったような表情を浮かべる。

俺は自然とクスリと笑みがこぼれた。


「良かったじゃん、貰ってあげなよ。自己顕示欲だろうが何だろうが、こうやって救われてる子がいるなら十分だと思うけどな。」


俺は、群がる子供達を見ながら言う。


「…そういうモノですかね。」


ルルはそう言うと、少しだけ目から涙が零れたように見えた。


「あー!ルル様を泣かせるな!」


カードをルルにあげようとした少年が俺を睨む。

俺はその視線に気づくと、ベンチから立ち上がり少年の頭を撫でた。


「ごめんな、それは悪いことをしたな。お詫びにこれをあげよう。」


俺はそう言うと、なぜかポケットに入っていた大ファンである声優の人がプリントされているカードを渡した。


「…何これ?」


カードを渡された少年は、不思議そうに見る。イギリスでは知られてないらしい。


「俺にとって大切なカードだ。大事にしてくれよ。」


俺はそう言うと、ルルを見た。

ルルは俺を見上げていた。


「昼飯はいいや。先に帰るから、久しぶりにゆっくりしていきなよ。」


俺はそう言うと、ルルに対して背を向けながら歩きながら右手を挙げて手を振った。

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