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クレア・ランスフォード

ハイヒールの踵部分が俺の右足を踏みつける。

鋭い痛みが右足に走った。


「いった!!!さっきから何回踏むんだよ!これ、風呂に入ったら絶対に沁みるやつじゃん!」


俺は目の前の赤髪のポニーテールの少女に言う。

赤髪のポニーテールの少女ことルミナはムキになって言い返す。


「剣様が私の足の近くでステップを踏むからです!何度も言っていますが、ある程度の距離感を覚えてください!」


「ルミナちゃんがそこは上手い事調整してくれよ!以前ルルちゃんと踊った時はこんなことなかった!」


「社交ダンスというモノは男性が女性をエスコートするモノなんですよ!女性側が男性側に気を使う方がおかしいんです!」


俺とルミナは掴んでいる手を押し相撲をする時かのように押し合う。

お互いに引く、と言うことを知らないので毎度恒例の言い合いが始まる。


「もう、阿波踊りでもいいだろ。と言うか、サタンに動き全部任せたら勝手に上手い事踊れそうに思えてきた。」


「そんな狂った踊り始めたら金輪際他人の振りしますから。そもそも、先程も言いましたけどサタン様と踊る際にサタン様に気を使わせて踊っている時点でダメなんですよ…。」


呆れたようにルミナが言う。

別に、海外に住むことなんてこれからもないであろう自分にそんなこと言われても知らない。

と言うか、もっと上手く教えてくれればこんなことにはならないだろ。


「何ですか、その目は。私の教え方が悪いと言いたそうですね。」


「おっ、よく分かってるじゃん!教え方下手なんだよ。チェンジで!」


俺の考えていることを読み取ったルミナに対して、挑発するように言う。


「ご自身の覚えが悪いという考えにはならないんですね。」


ルミナも負けじと言い返す。

付き人だの何だの言うのなら、主である俺に負担をかけないようにするのは当然だと思う。

いい反論を思いついた。我ながら、今日は頭が回っている気がする。


「覚えが悪いならちゃんと分かるように教えるのが付き人の仕事じゃないの?俺への忠誠心はそんなモノなのか?」


先程思いついた言い訳をさもどうだと言わんばかりにルミナに言う。

ルミナは半笑いの表情でだった。大体、こういう表情をしている時は怒りを我慢している時だ。

そこそこの付き合いになったから、段々と分かってきた。


「確かに、剣様の付き人ですよ。でも、ただのイエスマンになる気はありません!ちゃんと言う時は言います!と言うか、都合の良い時だけそれを振りかざすのやめてください!昨日はあれだけ嫌がっていたくせに!」


段々と、顔を真っ赤にして、今にもこちらに襲い掛からんばかりの勢いでルミナが言う。

どうして、こんな状況になっているかと言うと昨日のサタンとの会話の後、次の日の朝、つまり今日であるが、リヤドの住んでいるマンションの部屋からイギリスへと飛び立ったからだ。

そこそこ見慣れたウィザード家に着くとそのままダンスの練習だとルミナの家に連行され、今に至る。

一応、ルミナの母であるハクと言う女性とこの後会う予定がある。ただ、事後処理だの何だのでかなり忙しいらしく家にいなかったのでそれまで練習と言う話だった。

だが、正直流石に疲れた。服も白いワイシャツに着替えさせられズボンもそこそこ値が張りそうな黒いスラックスを履かされた。


「喧嘩ばかりしてないで、ちゃんと手と足を動かしてください。」


部屋の片隅に椅子を置いて、そこに座ってくつろいでいたルルが俺達に声をかける。

足元にはウルが行儀よく座っていた。


「この子の教え方が悪いんだもん。しょうがないんだよ。」


俺は、やれやれと言った感じでルルに言う。


「ちょっと待ってください!私はちゃんと教えています!剣様の覚えが悪いだけです!」


心外とばかりにルミナが言い返す。

ルミナも俺と似たような恰好をしていた。最近知ったのだが、女性のこういう服装をパンツスーツと言うらしい。

それがどうした、と言う話だがただの知った雑学知識を言いたかっただけである。


「そもそも、ルミナちゃんってそういう場で踊ったこととかあるの?」


「うっ、そ、それは…。ありますよ!当り前じゃないですか!」


嘘だなとすぐに分かった。

そもそも、前回のパーティーとやらでも会場の片隅にいたかと思うとすぐに外に出て行ったのを覚えている。


「私が知る限り、そんな光景見たことないんですけどね。」


飽き始めたのか、携帯をいじり出したルルがボソッと言う。

ルミナは泣きそうな顔でプルプルしていた。


「まあ、そんな気はしていた。」


俺も追い打ちとばかりにボソリと言う。


「でも、今回からはちゃんと参加するつもりです!えー、何と言っても次期当主も一応正式に決まりましたからね!」


ルミナがカラ元気とばかりに大きな声で言う。

あの事件の後、現当主でルミナの母であるハクが正式に次期当主はルミナにする、と言う宣言をしたらしい。

今回の事件で反対派も一掃出来たらしく、ハクと言う女性からしたらかなりスムーズに事が進んだと喜んでいたらしい。


「どうせ、剣さんの金魚のフンになるだけな気もしますけどね。」


ルルが呆れたように口を挟む。

余計なことを言うな、とルミナがルルを睨む。

俺はそんな2人を見ていると、先程から部屋の外から数人の気配を感じていた。

どうも、覗き見をされている気がする。

俺は、ルミナの肩を叩くとドアの方を指さした。

ルミナも気づくと、ため息をついた。


「コソコソと何を見ているんですか!」


ドアの方へ歩いて、バンっとドアを思いっきりルミナが開ける。

外には数人のメイド服を着た女性とスーツ姿の男性が何人か。そして、ヒラヒラとしたワンピースを着ている少女がいた。

メイド服の女性の1人は以前会ったシェフィールと言う女性だろう。そして、ワンピースの少女は確かルミナの妹のクレアだったか。


「いえ、ルミナ様が珍しくサタン様とルル様以外の客人をお連れしていたので面白そうだったので。」


シェフィールがお辞儀をすると仰々しく言う。

さっきまで、ドアの隙間からそこそこの人数で覗き見していたのに態度の豹変ぶりが凄まじい。


「オッス、お兄ちゃん!私のこと覚えている?」


クレアが俺の前に立つと、尋ねる。

ルミナと違って、かなり明るいと言うかハツラツとした少女だなと思う。


「覚えているよ。ルミナちゃんの妹でしょ?クレアちゃんだっけ?」


「おっ!覚えてる!」


嬉しそうにクレアは言うと、俺の手を握り握手をする。

クレアとシェフィール以外の人達は興味津々に俺を見ていた。


「誰?この人達?」


俺は隣にいたルミナの耳元で小声で尋ねる。


「ランスフォード家のメイドの子達と私のお母さまの部下の方々の子供達です。私と同世代かそれより年下の人ばかりです。」


俺はそれを聞くと、開かれたドアの両側から覗き込んでいる男女の数を数えた。

メイド服を着た女性が5人、スーツを着た男性が4人ほどだろうか。

流石に、ルミナにしてもクレアにしてもシェフィールにしても美形なだけあって後ろの男女も美形揃いだった。


「で、何してたんですか?」


ルミナがシェフィールに尋ねる。


「ルミナ様の主を見に行こうと言う話で暇そうなのを連れて参りました。」


悪びれもせずに答える、シェフィール。


「仕事をしなさい!そもそも、お母さまはどうしたんですか?」


「そろそろ戻ってこられるかと。あと、仕事に関しては思ったよりも希望者が多かったのでじゃんけんに負けた者に全て押し付けて参りました。」


「やっぱり、ただサボっていただけじゃないですか!あなた達も、サボっていないで戻ってください!」


俺は珍しく、命令をしているルミナを見ていた。


「意外でしょ?シェフィールにしても、世代近かったり年下の子達はお姉ちゃんのことは大好きだからね。当主として認めたくないって思っているのは上の世代だからさ。本人は気づいていないだけで、その下の世代からは慕われてるんだよ。ただ、素直にそれを言ったら面白くないでしょ?だから、私がみんなで黙っていようってしてるの。」


クレアが俺に耳打ちをする。

何だ、居場所ならちゃんとあるじゃないかと俺は思った。

まあ、本人の勘違いと妹のいたずら心のせいで気づいていないという状態らしいが。

いつか、俺の口からでもいいからルミナ本人にも教えてあげよう。


「はーい、じゃあ撤収撤収。そろそろお母さんも来るかもしれないからバレると怒られるよ。」


クレアが手をパンパンと叩きながら、シェフィール達に言う。

シェフィール達は少しだけ不満そうに部屋から出て行く。


「あなたはどうしているのですか?宿題とかは終わらせたんですか?」


ルミナがクレアに姉らしいことを言う。


「後でやるよ。と言うか、私もお母さんに呼ばれているし。」


クレアがルミナに言う。

その時だった。ルミナの背後に誰かがいるような気配を感じた。

そして、その気配は小動物のように飛び上がるとルミナに抱き着いた。


「久しぶりじゃの、ルミナ!元気にしておったか!」


白い腰まで伸びている長い髪をした小柄な女性がいた。

背丈は、ルルよりさらに小さいかもしれない。


「ちょっと、お母さま!急に抱き着かないでください!ビックリしますから!」


ルミナが慌てたように言う。


「お久しぶりですね、ハク殿。」


ルルがまるで驚きもせずに、ハクと呼ぶ女性に声をかけた。

どうやら、これがルミナの母であるハクらしい。

正直、見た目はもちろん性格も今の所はルミナと似ても似つかない。


「おー、ルルか。久しぶりじゃの。そして、お前が例のルミナの言っていた男か。」


そう言うと、小さい体で俺を見上げた。

俺は我に返ると、ハクに挨拶をした。


「あっ。どうも初めまして。神野剣、と言います。」


「うむ、話は聞いておる。ルミナの主じゃろ?」


ハクはそう言うと俺の前に右手を差し出す。

俺はその手を左手で握り、握手をする。


「別に俺は認めてないんですけどね。勝手にこの子がなる、って話らしいので。」


「ちょっ!剣様!」


ルミナが驚いたように、こちらを見る。

事実なんだからしょうがない。俺は嘘は言わない男だ。


「はっはっはっ!何だそうなのか。それは少し残念。」


少しも残念そうな顔をしていないハクが大きな声で笑う。

どちらかと言うと、クレアに似ているなと思った。


「なーんだ、お姉ちゃんのでっち上げか。」


後ろからクレアが言う。


「違います!本当に付き人になりました!認めさせるという意味で仮と言う話なだけです!」


「やっぱり、でっち上げじゃないですか…。」


ルルが呆れたようにツッコむ。


「そうか、そうか。なら、しっかりと認めてもらえるくらい強くならないとな。」


ハクは少しだけ嬉しそうにルミナに言う。

ルミナもそれを聞くと、笑みを浮かべて無言で頷く。

ハクはルミナの前に1本の刀を取り出した。


「ほれ、ランスフォード家のもう1本の刀じゃ。まあ、仮と言う話ならこれも今は仮と言う形で渡しておくか。」


ルミナはそれを受け取る。そして、それを大事そうに握りしめる。


「何、その刀?」


俺はそれを覗き込むと、ルミナに尋ねる。


「ランスフォード家に伝わる2本の刀の内の1本です。もう1本は私がすでに持っていますが。」


あー、ルミナがいつも使っているあの刀のことか。俺は理解した。


「私は元々、二刀流なんですよ。ただ、この刀をお母さまから頂けるまでは1本でと決めていただけです。」


ルミナは嬉しそうに刀を眺めながら俺に教えてくれた。


「そう言えば、話はそれだけじゃないんですよね?」


ルルが俺達の様子を見ながら、ハクに尋ねる。

ハクもそれを聞くと、ルルに頷く。


「そうじゃ、そうじゃ。後は、そこのクレアをサタン様の日本任務に同行させるという話じゃ。」


「「えっ!?」」


俺とルミナはほぼ同時に声を上げる。

クレアは驚いたか、と言わんばかりの表情をしていた。


「どうも、クレア・ランスフォードです!これからは私もお姉ちゃんと一緒にサタン様の任務に従うことが決まったので!これから、よろしく!」


そう言うと、クレアは俺達に対して元気よく頭を下げた。

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