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突然のイギリス旅行

今日から予定通り、4章です。

「…嫌だよ。ただでさえ、ここ数週間激動の毎日だったんだから。とりあえず、1カ月くらいは普通の生活を送らせてくれよ。」


「お願いします!お母さまに言われたんですよ!すぐに連れて来い、と。ランスフォード家で付き人の儀を行うって!」


「そもそも、あくまで俺は認めていないんだろ!ルミナちゃんが勝手になる宣言しただけの話なんだし。今のところは。」


俺は、自室に突然やって来て我がままを言うペッタンコ娘を追い払うように言う。

俺がルミナと呼ぶ、赤髪のポニーテールの少女はお願いしますと俺の肩を揺らしながら引き下がらない。

せっかくの休日なんだから、少しは静かにさせて欲しい。


「騒がしいな、お前達は本当に。私を見習え。静かに漫画を読んでいると言うのに。」


「人の部屋のベットに寝転んでいなかったら褒めてやるよ。人の自室でゴロゴロしてる奴の言うセリフじゃねえよ。」


俺は、なぜか自分のベットでもないのにまるで自分の物のようにゴロゴロしている黒髪の少女に言い返す。

それを聞くと、都合が悪いのか無視をする。本当にロクでもない女だと思う。


「一緒に行ってあげたらいいじゃないですか?どうせ、私達も用事ありますし。丁度、本国に。」


もう1人、俺の部屋の隅でポチポチとゲームをしている銀髪ショートの小柄な少女が口を挟む。


「俺の部屋はいつからみんなの休憩所になったんだよ!」


俺は立ち上がると、この空間に向かってツッコむ。

窓に寄り掛かっている金髪のイケメンが退屈そうに大きく欠伸をする。

俺の肩をゆすっていたルミナが突然立ち上がった俺にびっくりしたのかビクンと反応する。


「うるさいなー。漫画の内容が全然頭に入らん。」


サタンがやれやれと言った風に漫画で顔を隠す。

何でお前が仕方ないなと言いたげな表情をしているんだと言いたい。

そもそもその読んでいる漫画も俺のモノなのだが…。


「どちらにせよ、イギリスには近いうちに行くことにはなっていたからな。少し早いが、ルミナの用事を済ますついでに全員で行けばいいだろ。」


「何しに行くんだよ?例のルミナちゃんの実家の方の問題は片付いたんだろ?」


以前起きた、ルミナの実家であるランスフォード家のお家騒動。

ルミナの母であるハクによってルミナの次期当主であることに不満を持つ部下の粛清が行われたらしい。


「当の本人達の報告は直接、面会の上で行わないといけないらしくてな。暇な時を見つけて、連れて来いと上からお父さまが言われているらしい。」


どうせ暇だろ、と言わんばかりの表情である。

確かに、学校はあるがどうせもう1つの体を置いて行く状態だからいつでも行けると言えばそうだが。

俺はルミナを見る。ルミナはもう諦めろ、と言わんばかりの表情である。


「それに、ダンスの練習もしないといけませんからね。」


ルルが自然な感じに俺の知らない情報を言ってきた。


「ダンスの練習?」


俺はルルに聞き返す。


「ほら、以前もパーティーがあっただろ。一応、踊れるようにしておいた方がいいって話があってな。今度、本国に帰る際に練習させるかって話だ。」


「嫌だよ…。別に踊れなくても隅で食事だけ食べてるから。」


俺はサタンに断固拒否と言った感じで言う。

何で、日本で一切使わなさそうなことを覚えなきゃいけないのだ。


「もしかしたら、いずれ私と踊る可能性があるかもしれないからな。それの練習だ。諦めろ。私の命令だ。」


「別にお前の部下になったつもりなんてないんだけど…。そもそも、それならそこにいるリヤドと踊ればいいだろ。」


俺は特に何をすることもなく窓に寄り掛かっているだけの男を見ると言った。


「うーん、それでもいいんだけどな。いいじゃないか。私と踊れるんだから。光栄なことだぞ。」


珍しくサタンがしどろもどろになりながら俺に言う。

別に光栄なことなんて思わない。


「まあまあ、そういうことでそこのルミナさんと練習してもらいますから。付き人の儀とやらの合間に。」


「えっ!?聞いていませんが!?」


ルミナが初めて聞いたとばかりにルルに驚いたように聞き返す。


「それは今、話しましたからね。どうせ、パーティーがあっても隅でコソコソしているだけなんですからこれを機にちゃんと表に出れるようにしてください。ランスフォード家の次期当主なんでしょ?」


ルルに痛いとこを突かれたルミナは黙ってしまった。

そして、俺の方を見てくる。

その視線は何だと言いたい。別に助け船なんて出す気はないぞ。

俺は再び、椅子に座り直す。


「まあ、いいや。事情説明とかはあるのは分かったよ。ただ、付き人の件は別にルミナちゃんが勝手に自分で言ってるだけなんだから俺は行く必要ないだろ。」


「仕える主がいないと儀式は出来ないんですよ!お願いします!先程も言いましたけど、お母さまにももう言ってしまったんです!」


「じゃあ、本人にやっぱり断られましたでいいだろ。」


「それじゃあ、私のメンツはどうなるんですか!?」


「どうもならないよ!そんなことでどうにかなるようなメンツなら捨てちゃえよ!」


ルミナはそれを聞くと、グスンと涙を浮かべていた。

サタンとルルからの冷ややかな視線が先程から痛い。別に俺は悪いことなんて何もしていないのに、なぜか俺が悪いみたいに思われるからその視線はやめて欲しい。

と言うか、泣き落としは流石にズルすぎる。


「…ダメでしょうか?」


ルミナは地面に正座をすると、両手を組んで胸の前に出して俺に対して上目遣いに頼んで来た。

まさか、こういう顔も出来るとは。俺はため息をついた。


「…しょうがないな。」


俺は諦めたように言う。

ルミナの顔が急にぱあっと明るくなる。

分かりやすい子だと思った。


「どうせ、こうなるんだから最初から文句なんて言わなければいいのに。」


サタンがやれやれとこちらを見ながら言う。

俺はそんなサタンを無視して、先程からどうしてここにいるのか謎のリヤドを見た。


「で、お前は何でここにいるの?俺に用事なんてなさそうだけど?」


リヤドはチラリとこちらに視線を向ける。そして、再び遠くを見つめていた。


「ただ、サタン様に呼ばれたからだ。特に君に用事があるわけじゃない。」


「って、言ってるけど?」


俺はサタンの方に視線を移す。

サタンはよいしょと、寝転んでいた体を起こす。


「お前とルミナのくだらない漫才を見せられていて、話すのが遅れただけだ。」


誰と誰のやり取りが漫才だ。

俺は満足そうな顔をしているルミナを睨む。ルミナの方はその視線に気づいたのか、ふんと顔を背ける。

本当に可愛げがないなと思う。

あの事件の後、少しは俺に対して物分かりがよくなったと思ったが、こういうとこはまだまだ変わらない。

ルルの素直さの数割でも移植できないモノかと思う。


「リカルド、でしたっけ?剣さんとルミナさんを襲った人は?」


ルルがサタンに代わって話を始める。

俺とルミナは互いに顔を見合わせる。そして、同時にルルに対して無言で頷く。


「ルミナさんは聞いているかもしれませんが、リカルドとそれに同調したランスフォード家内の人間はクーデターが成功したらイギリス教会側に逃げ込むつもりだったそうですよ。」


ルミナはえっそうなのか、と言った顔をしている。

何で、俺はまだしも当事者が知らないんだと言いたい。


「お母さまから、今回の件は時間が経ってから話すと言われたからです。まさか、ルル様から聞くとは思いませんでしたけど…。」


俺の考えていることを察したのかルミナが俺に言い返す。


「そもそも、イギリス教会側って何だよそれ?そんな組織があるの?」


「簡単に言えば、イギリス国内の宗教団体を統括している一番大きな協会の組織だ。お前でも理解しやすいように言えば、ローマ教皇のイギリス版みたいな感じだ。」


サタンの説明に少しだけ俺は納得する。


「でも、同じイギリス国内なんだろ?」


「国内の組織がみんな仲いいとは限りませんからね。正直、政府と教会で利権争いもありますし必ずしも一枚岩じゃないですよ。」


俺の質問にルルが答える。

ただ、とルルが少しだけ考えているようだった。


「教会に保護をしてもらい、強引にランスフォード家をウィザード家から離脱させる。いくらなんでも力業すぎますし、雑すぎると思うんですよね。」


「それこそ、ローマ教会が関わっているとか?」


ルルの独り言にサタンが尋ねる。


「ローマ教会がイギリス教会と手を組むとでも?あの犬猿の仲なのに?」


「まあ、ないだろうな…。」


サタンもルルの反論に納得する。

正直、魔術世界のパワーバランスなんてサッパリな俺からしたらチンプンカンプンな会話だ。


「まあ、そういうわけでウィザード家としても日本に出来たら数人ほど送りたいらしい。お父さまの考え的にはな。」


そう言うと、俺の方を見てきた。

俺は首をすくめる。


「まあ、俺は構わないけど。流石にここに居候させるって話ならもう部屋はないから両親も断るだろうけど。それよりも…。」


俺はルミナとリヤドを交互に見た。


「この2人は大丈夫なのかよ?」


リヤドはまだマシかもしれないが、ルミナなんて転校した日本の中学校ですでにボッチ予備軍になりかけている。

知らない人間が増えたらコミュ障が加速するだけだろう。


「大丈夫だ。そこは、なるべく私達と縁がある人間にしたいらしい。そもそも、別に決定権は私にあるらしいから。必要なさそうなら断ればいいだけだしな。」


「お姉さまに任せたらただの仲良し軍団を形成しそうなのでちゃんと誰にするかは私も一緒に決めますからね。」


ルルが釘を刺すように言う。

確かに、コイツに任せたらそうなりそうだ。と言うか、すでにそうなっている。


「ハイハイ。安心しておけ、ルル。これ以上、お前のライバルになりそうな女は呼ばないから。」


サタンがニヤニヤしながらルルに言う。

ルルは一瞬だけ顔を赤らめて動揺した表情を見せた。


「ち、違いますから!ちゃんと、バランスを考えてと言う話をしているだけです!そもそも、ルミナさんがどうしようが私には関係ありませんので!」


正直、なぜこの子が動揺しているのか分からない。

ルミナは突然、ルルに睨まれて慌てふためく。


「だ、大丈夫ですから!私はこの男のことなんて何とも思っていませんから!剣様、変な目で見ないでください!」


顔を真っ赤にして俺にキレだすルミナ。

サタンはニヤニヤしたままこの様子を見て、リヤドは興味がないとばかりに目を閉じて何か考え事をしている。

そんな、騒がしいいつもの日常だった。

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