付き人
自転車で10分ほど、家から少し離れた場所にある河原の芝生の上で俺は寝転んでいた。
リカルドとザドキエルとの激闘の後、ルミナと2人で地面に寝転んでいたところを無事サタンとルル、そしてリヤドが助けに来てくれた。
俺の見立て通り、結界が張られたことにすぐ気が付き結界を破ろうとはしていたらしい。しかし、思いのほか精密な作りをしていたらしく解除に時間がかかった。
ルルが言うにはそう言うことらしい。
最強だの何だの言っている癖にその体たらくは何だと言いたい。
正直言って、俺自身の覚醒がなかったら今頃ルミナと仲良く2人であの世行きだったのではないかと思うと恐怖で震える。
ルミナと一緒にルルから治療は受けたが、体の痛みが完全に無くなるまで何だかんだ2日くらいはかかっただろうか。
ルミナに至っては、急所を外したとは言え胴体を貫かれていたのでかなり貧血状態だった。回復にもかなり時間がかかったらしく、次の日は学校を休んでいた。
一応、あの後の後始末としてウィザード家を主体とした調査が開かれたらしい。
ランスフォード家では、ルミナの母のハクが今回の騒動の責任を取ろうとしたがキールによりこれまで通りにランスフォード家の当主であることが決まった。
そして、今回の件でクーデターに関わった者を一斉に粛清が行われるらしい。すでに、誰が関わっていたかは見当はついているらしく、これからその細かい調査が行われるらしい。
俺としては、とりあえず今回も無事生き残って一安心と言う気持ちしかない。
毎回毎回、変な騒動にばかり巻き込まれてサタンと出会ってから変な呪いでもかけられたのではないかと疑う。
一度、神社にでも行ってお祓いをしてもらおうか。
「そんなところにいたんですか。」
聞き覚えのある声が聞こえる。
俺は顔を見上げると、ルミナが俺の顔を覗き込んでいた。
ルミナは自転車に乗っていた。自転車の柄的に俺の祖父の自転車を借りたのだろう。
背中には見慣れた袋を背負っていた。
「何で、俺がここに来てること知ってるんだよ?誰にも言わなかったはずだけど…。」
「家に行ったらいなかったので。サタン様とルル様に聞いても分からないと言われて、剣殿のお母さまに聞いたらここじゃないのかと言われまして。」
そう言うと、ルミナは俺の隣に座る。
冬で風が少し強いのか、ルミナのポニーテールが風に吹かれてなびいていた。
「…あの、剣殿?」
「前言っていた話なら、気持ちは変わらないよ。嫌だよ、そんなの。」
俺は、ルミナが何を言おうとしているのか分かっていたので先に断る。
ルミナの言おうとしていたのは、俺の付き人というモノになると言う話である。
ルミナがあの日、俺に伝えたサタンの騎士になると言う夢を諦める代わり。
それが、俺の付き人になるというモノであった。
ランスフォード家には代々、女性の魔術師は自身が仕えると決めた男性の付き人になると言う慣わしがあるらしい。
ルミナの母である、ハクと言う人はルミナの亡くなった父親。つまり、自身の夫の付き人であったらしい。
「別にいいじゃないですか?」
ルミナは何が不満だと言わないばかりに俺に言う。
「何となくだよ。何か、重そうだし。一時の気の迷いによるメンヘラムーブで判断を間違えると後で後悔するぞ。」
俺はルミナに言い返す。
ルミナはため息をつく。
「別に、気の迷いで言ったわけじゃないんですけどね。私なりの今回の剣殿に対してのお礼のつもりなんですけどね。」
「お礼なら形になるモノにしてくれよ。そもそも、付き人って聞く感じ要はルミナちゃんの主になるみたいな話なんだろ?中世時代じゃあるまいし、そんなの遠慮するよ。」
俺は普通の高校生だ。別に部下が欲しいわけでも、常に付き従うお供なんて欲しくはない。
「形になるモノですか?ホント、ブレない人ですね。何が欲しいんですか?恋愛漫画みたいにありがとう、って言ってキスでもしてあげたら満足ですか?」
「な、何を言ってるんだよ!?べ、別にそんなの期待なんてしてねえよ!そう言うのは好きな人とかにするもんだぞ…。」
俺はルミナの突然の言葉に動揺する。
ルミナはクスクスと俺の慌てふためく様子に笑っている。
「好きな人、ですか。そうですね。まあ、でも。私は剣殿のことは嫌いじゃないですよ。」
「今、何て言った!?」
俺は起き上がるとルミナに聞き返した。
ルミナは俺を見ながら言う。
「嫌いじゃない、と言いました。」
好きです、ではないんだなと思った。いや、まあ期待なんてしてない。
顔は可愛いとは言え、顔を合わせれば喧嘩腰で事あるごとにケチをつけてくるような女なんだ。
別に恋愛感情なんてないのに浮かれてしまった自分が恥ずかしい。男なんて生き物はちょっと女からよさげな言葉を貰うとウキウキしちゃう残念な生き物なのだ。
俺は不貞腐れるように、再び地面に寝転ぶ。
「別に私が剣殿の付き人になったところで何かが変わることなんてありませんよ。ただ、呼ぶ時の名前が殿から様になるだけです。」
「割と変わるだろ、それ…。」
俺は呆れながらルミナに言う。
「そもそも、サタンの騎士の夢諦めたから俺の付き人になるってのが何かムカつくんだよな。サタンの代わりみたいな言われ方で。」
そう、何となくあの自己主張が無駄に激しい傲慢女の次みたいな扱いなのが腹立つのだ。
ちょうどいい理由だから、これで押し通そうとしよう。
俺は、自分自身に言い聞かせた。
「そうですね、確かに言い方的にサタン様の代わりみたいに思われてもしょうがないですね。」
ルミナはそう言うと、空を見上げる。
ここ数日続いている晴天だが、今日は一段と雲一つないいい天気だ。
「でも、私は本気であなたの付き人になるつもりです。だって、私はあなたに助けられたんですから。」
ルミナは立ち上がる。そして、視線の先は流れる川のさらにその先を見ていた。
「あなたは私を褒めてくれた。私を認めてくれた。だから決めたのです。今度は私があなたを守る番だと。」
そう言うと、ルミナは背負っていた袋を背中から外し、両手に持った。
そして、その刀をジッと見つめると握りしめた。
「自分自身が生涯を賭けてでも守りたいと思えるような人に出会え。私が昔にお母さまから言われた言葉です。正直、今でもそんな人に出会えるなんて思っていないですけどね…。」
そこで、俺のことって言う流れではないんだなと思った。
今の流れ的に絶対俺のことを指していると思っていたのだが…。
「例え、失礼で口が悪くて、いつも面倒くさがってばかりいるような人ですけど。私は、あなたの言葉に救われたんです。少なくとも、それは事実ですからね。」
「少なくとも、俺への評価が全く上がってないんだなってのは分かった。」
俺はルミナを見上げながら言う。
ちょっとは変わったかと思ったが、そんなことはなかった。
相変わらず、俺へはなぜか辛辣ないつもの見慣れたルミナだった。
ルミナはそんな俺を見ると、クスリと笑みを浮かべる。
「元が最底辺でしたからね。これでもかなり最初と比べたら、私の中では剣殿の評価は上がっていますよ。」
一体、最初の俺への評価はどのレベルだったのだろうか。
この言い方だとミジンコかそれ以下レベルじゃないか。
まあ、別に正直言ってルミナからの評価なんて別にどうだっていいが。
「そんなに不貞腐れないでくださいよ。言い過ぎたとは思っています。」
本当に反省しているのだろうか。
俺は、ルミナから視線を外して空を見上げた。
「生涯を賭けて、とまでは言うつもりはありません。あなたに受けた恩を返せるまで付き人になるだけの話です。」
ルミナはそんな俺を見ながら言う。
俺は目を瞑り、ルミナの言葉を無視していた。
そんな俺の姿にため息をつくと、独り言のようにルミナが言う。
「そうですね。だったら、こうしましょう。私はこれから私の意志で勝手にあなたの付き人になることにします。」
「俺の話聞いてた?そんなのになる必要ないってずっと断っているんだけど?」
俺は起き上がると、何も理解していなさそうなルミナに言う。
「聞いてましたよ。だから、言ったじゃないですか?勝手になるんです。」
そう言うと、袋にしまってある刀を俺の前に見せてきた。
そして、俺を見下ろしながら宣言するように言う。
「我が名はルミナ・ランスフォード。ランスフォード家の次期当主にして、神野剣の付き人にいずれなる者。」
そう言うと、一呼吸を入れる。そして、どこか吹っ切れた表情をしていた。
ルミナと言う少女に会って、初めてと言えるくらい心の底から笑っている笑顔だった。
「勝手にあなたの付き人を名乗るだけです。だから、あなたが認めてくれなくても今はいいです。今はただ、あなたの刃になります。この刀と共に。」
そう言うと、ルミナは片膝をついて俺の前に頭を下げた。
「いずれ、私があなた自身に認めさせます。と言うことで、これからよろしくお願いします。剣様。」
俺は、ルミナの顔をまじまじと見つめた。
強情で、人一倍に負けず嫌いで。そして、自分が自分でいられる居場所を誰よりも欲していて見つけられずにいた。
居場所なんて、すでにあったと言うのに。
「いいよ、じゃあ認めさせてくれよ。俺に。ルミナ・ランスフォードが俺の付き人になる日とやらを。」
俺はそう言うと、立ち上がった。
主なんて大層なモノになる気は全くない。だが、少なくともこの少女にとっての居場所くらいにはなってやろう。
そう決意すると、ルミナの手を握った。
3章はこれにて終わりです。次回から4章に入る予定です。
もう少しで連載を始めて2カ月になります。モチベにも繋がるので、ブックマークや評価お願いします!




