本気の勝負
「3日連続なんて初めてじゃないですか?」
もう恒例となった祈りを捧げ終わったルミナが声をかける。
俺も同じことは思っていた。
ここ数日は雨も降らないのも連日行く理由の1つでもある。
流石に雨が降っていれば、濡れたくないし風邪も引きたくないので行こうとは思わない。
まあ、ルミナは多少小雨程度なら行っているらしいが。
「どこかの誰かさんが怒られてここ数日落ち込んでいたからね。慰めに来てあげてるだけだよ。」
俺は、照れ隠しにルミナに言う。
「先程は、思いっきり逃げようとしたくせによくそんな言葉が言えますね。」
呆れているのか、白い目で俺を見ながら言うルミナ。
「でも、俺のおかげで仲直り出来ただろ?」
「偶然じゃないですか。むしろ、あれを狙ってやったって言うならこれから先もルル様に怒られた時はお願いしますね。」
疑いの目を向けながら、ルミナが言い返す。
「嫌だよ。そもそも怒られないようにルミナちゃんがしてればいいだけの話なんだから。」
俺はやれやれと言った感じで座る。
そして、黒い空間を出してルミナの刀を取り出す。
そして、それをルミナへと投げて渡す。
ルミナは刀を掴むと、鞘から刀身を抜く。
そして、一度呼吸を整えて集中をすると頭上に振りかぶった刀を左足を踏み込んで振り下ろした。
空気を斬る音が静かな空間に響く。
「でも、そうですね。偶然とは言え、剣殿のおかげでルル様と仲直り出来たのは事実ですから。礼は言わないとですね。」
再び、最初の構えに戻ったルミナが俺の方をチラリと見ると言う。
「意外とお礼とか言えるんだね。俺に対しては毎回、何かしら噛みついて来てるからそう言うことしないのかと思った。」
俺は地面の小石を拾って手の中で転がしながら言った。
「感謝をすれば礼くらい言います。剣殿は私のことを何だと思っているんですか?」
俺はそれを聞くと、立っているルミナを見上げた。
「ツンデレ、かな?」
「本当に失礼な人ですね…。」
ため息と共にルミナが言う。
そう言うと、再び刀を振り下ろす。
何日も見ていて思うが、よくもまあ飽きずにできるものだと改めて感心する。
部活の練習や宿題みたいにやっていないと怒られるというわけでもない、スポーツ選手みたいにお金を稼ぐためでもない。
ただ、生まれた家の当主になりたいという理由だけで。親からなれと言われているわけでもなく。恐らく、周りの誰からも望まれていない状況。
サタン達の関係だって、当主になれなかったら今の関係が終わるわけでもないのに。
恐らくこの光景をルミナのことを馬鹿にしている連中に教えても、見せたとしても評価が何一つとして変わることはないだろう。
それでも毎日のようにひたすら続けている。
ただ、自分を認めてもらう為に、いつかサタンとルルに追いつけるかもしれないという雲をつかむような希望の為に。
「どうしたんですか?そんなにジッと見ていて。」
ルミナが俺の視線に気づいて、尋ねてきた。
俺はルミナのフォームを見ながら言った。
「いや、何でもない。ただ、10数年も毎日毎日続けていて凄いなってちょっとだけ尊敬しただけだよ。あとは、何でルミナちゃんの武器って刀なんだろうって。」
正直、この努力出来ると言う精神は本当に尊敬に値すると思う。
自分なら、同じことをしたとしてもどこかで適当な理由をつけてやめてるだろう。
俺は、適当に付け加えた理由と共に言った。
「ランスフォード家は元々、純潔なイギリス人の血ではないですからね。私のさらに数世代前の先祖が日本人と結婚したらしいんですよ。まあ、日本人の方も陰陽師とかそっちの家の人間らしいのですが。だから、ランスフォード家にはその名残で日本の魔術要素がいくらか残っているのです。」
なるほど、だから刀なのかと俺は少し納得した。
そんな俺の表情を見ながらルミナが話を続ける。
「しかし、尊敬ですか…。私のお母さまやサタン様みたいなことを言いますね。まあ、サタン様の場合は呆れているってのもあるでしょうが。」
「毎回思うけど、お母さんっていい人なんだな。まあ、本人が望むから周りの反対を無視してってことが優しさなのかは分からないけど。」
俺はそう言うと、よいしょと立ち上がった。
「そうですね。お母さまは優しい方だと思いますよ。実際、才能がないから無謀な夢は諦めた方がいいとも言われたこともありますし。」
「それでも諦め切れないんだ。」
「言いましたよね、もし諦めたら私の10数年が無駄になるって想像するのが怖いんです。だったら、無謀な夢だとしてもそれに縋りたいんですよ…。」
「新しい、出来そうな夢に変えればいいだけだと思うけどな。」
俺はそう言うと、ルミナが持って来ていた木刀を持った。そして、軽くルミナのように素振りをした。
俺がルミナの道具を仕舞えるようになったので、持ってくる荷物がかなりスリムになった気がする。
「剣殿って、結構いい加減な人ですよね。人生をぬるく、楽に生きていきたいみたいな感じで。」
ふと、ルミナが失礼なことを言う。
「リアリスト、って言って欲しいね。あえて難しい道を進んだり、辛いことするくらいなら楽に生きたいのは当然だろ。」
俺は、少しだけルミナを睨みながら言う。
「楽に生きたい、か…。そうですね。それが一番なんでしょうね。」
ルミナは空を見上げながら小さな声で言う。
まるで自分に言い聞かせているみたいに。
そして、再び俺の方を見てきた。
「やっぱり、ダメな人ですね。剣殿って。」
また失礼なことを言うルミナ。
学校ではオドオドして誰とも上手く喋れなくて、ルルに怒られるくらいなのにどうして俺に対してはこうも毒舌なのだろうか。
本当に一度ガツンと俺も言った方がいいのではないか、と温厚な俺は思った。
「…でも、何となくサタン様とルル様が気に入っている理由も分かる気もします。」
そう言うと、自身が握っている刀をジッと見ていた。
そして何か決心をしたのか、刀を俺の方に見てきた。
「剣殿。少し、お願いがあります。私と勝負をして貰えませんか?」
「えっ、嫌だよ。何でいきなり。」
俺は即座に断った。
ルミナはペースを乱されたのか、少しばかり言葉に詰まっていた。
「本当にお約束、みたいなモノを悉く外す人ですね。普通、こういうのはよし分かった敵な感じで了承するものでしょうに。」
ルミナが呆れながら言う。
「俺にお約束とかそう言うのは通じないんです。何でいきなり勝負とか言い出したんだよ。今日、別にルミナちゃんの機嫌損ねるようなことしてないだろ。」
「私を機嫌が悪くなると喧嘩を仕掛けるようなチンピラみたいに言うのはやめてください!」
少し声が大きくなり否定すると、ルミナは軽く咳をして元の口調に戻った。
「自分の中でケジメをつけたいだけです。」
「ケジメって。それと俺との勝負に何の関係があるのさ?」
「魔術に触れてまだ数週間の剣殿と戦って、私自身の今の実力を知りたいのです。」
「勝ち負けはどう決めるのさ。流石にお互いボロボロになるまでとか嫌だぞ。それに、それだと俺は魔術を使って戦っていいってこと?」
「そうですね。剣殿は何を使ってもいいです。では、勝ち負けはどちらかが参ったと言うまでにしましょうか。」
「それだとお互いボロボロになる可能性あるんだけど…。」
俺は言ったことを何も理解してないルミナに呆れながら言った。
そして、俺は覚悟を決めた。ここ数日の付き合いで言っても聞かない強情なとこがあるのは理解している。
「いいよ、じゃあそれで。負けても文句言うなよ。」
俺はそう言うと、大剣を取り出す。
そして、ルミナに対して構える。
ルミナの方も構えた。
「もちろんです。剣殿こそ、速く終わらせたいからと手を抜いたりしたら承知しませんよ。」
そう言うと、ルミナが先手必勝と言わんばかりにほぼフルスピードと言わんばかりの勢いで突っ込んできた。
俺は体の周りに魔力を帯びた。ここ数日、自分なりに戦い方的なモノを考えた結果だが、せっかくカウンター出来るような攻撃手段があるのなら自分からわざわざ突っ込むより待機戦法の方が適していると感じていた。
ルミナは姿勢を低くして、俺の懐に潜り込むと刀を一閃と言わんばかりにしたから振り上げてきた。
俺は急所を守るように大剣を構えた。
「クッ!!!」
ルミナが顔をしかめて、俺から距離を取った。
俺に与えようとした攻撃がルミナにカウンターとして当たったようだ。
ルミナは刀を一度腰に差していた鞘に納めると、居合の構えを取った。
「“居合・鎌鼬”。」
そう言うと、鞘に納めていた刀を少しだけ出した。瞬間、俺の目の前に複数の斬撃が飛んできた。
俺は、無効化する魔力を纏わせていた大剣でいくつか防ぐと、空に飛びあがった。
「そっちに逃げますよね、確実に。」
ルミナは俺のさらに上に飛び上がっていた。
そして、再び居合の構えをしていた。
「“居合・鬼熊”!」
カウンターを受ける前提でルミナは俺に突っ込んできた。
俺は地面に叩きつけられた。
ルミナがこれを好機とばかりに、そのまま土煙が上がる場所に突撃する。
ある程度、場所を目測で決めていたのだろうか。何の迷いもなく、鞘から抜いた刀を振り下ろした。
しかし、カツンと言う金属音が響くだけだった。
俺は、地面に叩きつけられた瞬間に昨日覚えたばかりの気配を消す魔術を使い姿を隠していた。
そして、一瞬視界を失って周りをキョロキョロしているルミナに対して大剣を思いっきり振った。
「しまった!」
ルミナが声を上げると同時に、右手に握られていた刀が宙を舞う。そして、刀は地面に突き刺さった。
ルミナに教わった相手の武器を狙った一撃であった。
ルミナは自身の右手に刀がないことを確認すると、両手を上げた。
「参りました。そう言えば、気配を遮断することが出来ていましたね。すっかり、忘れていました。」
俺は、荒い呼吸を整えるとルミナに言った。
「いいのかよ、まだそこの刀を取って俺と戦うことだって出来るのに?」
極端な話、参ったと言わなければ負けではないのでルミナのスピードであれば刀を抜いて俺に襲うことだって出来たはずだ。
「魔術も武術も未熟なあなたにそれをして勝ったとこで意味なんてないですよ。そもそも、刀を奪われた時点で私の中では負けですから。」
そう言って、夜空を見上げた。
そして、何か踏ん切りがついたのか晴れやかな表情で地面に突き刺さっている刀を抜いた。
「いつもより、少し遅い時間ですので今日はもうこれで終わりますか。」
そう言うと、刀を鞘に納めて俺に渡してきた。
昨日のように仕舞ってくれと言うことだろうか。
俺はルミナから刀を受け取った。
その時だった…。
「これはルミナ様。こんなところにいましたか。」
突然、聞き慣れない声が聞こえてきた。




