喧嘩の仲裁
サタンと共に自転車で家に帰ると、近所のバス停にちょうどバスが止まっていた。
そこから、3人の男女が降りてきて歩いていた。
遠目からでも、シルエット的にルルとルミナとリヤドの3人だと分かった。
授業が終わってからだいぶ経っているので、意外と今日は帰る時間が遅いんだなと思った。
「あの3人も同じくらいの時間なのか。珍しいな。」
サタンも気づいたようで俺と同じ感想を述べた。
いつもなら、もっと早い時間に帰っているはずだ。
と言うか、明らかに3人の様子がおかしい。正確にはルルとルミナだが。
ルルが珍しく機嫌が悪そうな表情をしていて、ルミナは完全に怒られた後みたいにしょんぼりしていた。リヤドは、まあいつもと変わらないな。
「よう。今日は遅いな。久しぶりに喧嘩でもしたか?」
サタンがルルが家の前まで来ると言う。
久しぶり、と言うとこの2人は喧嘩をするのか。
何と言うか、意外だ。
「喧嘩でもないですけどね。あまりにもクラスメイトと喋らないし、私を介してのコミュニケーションに頼るから怒っただけですよ。リヤドですら、聞かれたことはちゃんと答えていると言うのに。」
ルルが呆れているのか、怒っているのかよく分からない声音で言う。
ルミナを見ると、別にいいじゃないですかと小声でブツブツ言いながら拗ねていた。
正直、人見知り激しい性格の上に自分のことをよく知っているルルが同じクラスにいるならまあ頼るわなと俺は思った。
それで頼りすぎて、怒りたくなルルの気持ちも理解は出来る。
サタンはと言うと、まあそうだよなと言った表情をしている。
コイツからしたら割と見慣れた光景なのだろうか。
「まあ、予想は出来ていたことだろう。それでも、まあ何とかなるだろと言っていたのはルルの方だろ。」
一応、間を取り持とうとしているのかサタンがルルに言う。
「限度がありますよ。まったく…。もう明日からは私は何もしないので自分でしてください。」
そう言うと、ルルは先に家の中に入る。
ルミナはえっ、と言った声を出して絶望に満ちた表情をしていた。-
―夕ご飯を食べた後、俺は少しだけ母に散歩に行くと言って家を出た。
目的地はここ最近、日課となっていたルミナの鍛錬場所である。
いい呼び方が思いつかないので、もうこの呼び名でいいかなと思いつつある。
着くと、いつものようにルミナがいた。
いつもなら夕飯前に終わらせているのだが、今日は帰る時間が遅かったのでこのくらいの時間かなと思っていたがドンピシャリだ。
「珍しいですね。部活の練習がある日は来ないのに。」
ルミナが俺に気づくと、声をかけてきた。
「まあ、本当は行く気はなかったんだけどね。だから、今日は特に動く気はあまりないかな。」
俺はそう言うと、ルミナの近くにある少し大きめの石に腰かけた。
そして、素振りを繰り返すルミナを見た。
「今日は何か雑だな。その前の時も終盤は雑だったけど。」
この数日でルミナの素振りを何度も見ていた俺は、ある程度素振りを見ただけでその日のルミナの調子が分かるくらいには目が肥えてきていた。
「今日は、調子が悪い日ですからね。よく、分かりましたね。」
ルミナが少し驚いた顔で俺の方を振り向いた。
「そりゃあ、ほぼ毎日のように見ていたらな。ルルちゃんと喧嘩したからか?」
「何だか、評価されているみたいで気持ち悪い気がしますね。まあ、でもそうですね。正直、ルル様は酷いですよ。」
そう言うと、イライラを抑えようとしたのかブンブンと数回、刀を振り下ろす。
「人と話すのは苦手なの?」
俺はルミナの素振りを見ながら尋ねた。
ルミナは振り下ろしていた刀を一度やめると、額に浮かんだ汗を腕で拭う。
「まあ、そうですね。私なんかがあの輪に入っていいのかとか思ってしまって。話して、ダメな奴だと思われるのも怖いですし。」
「その割にはサタン達とは普通に話せてるじゃん。あと、初対面の時に俺に喧嘩売って来たし。」
「あれは忘れてください。あの時は、気が動転していただけですから。そうですね、それと。」
そう言うと、ルミナはクスリと笑った。
何と言うか、一瞬ルルが見せるような表情に似ているなと思った。
「剣殿からは何となく私と同類の匂いがしたので、キャラ被りを防ごうとしたのかもしれませんね。」
…おい、それはどういうことだと聞きたい。
いくら、俺でもここまでコミュ障ではない。
「今、人生でも5本指に入るレベルの罵倒を浴びせられた気がするんだが。流石に、ここまで人付き合い悪くないぞ。ルルちゃん曰く、いつもクラスで独りぼっちでいるとも聞いてるし。」
「余計なお世話ですよ!あの人は、余計なことを…。でも、剣殿だってイジメられたことあるって言ったじゃないですか。その時点で私と同類です。」
この子にイジメられた経験を離したことを今、もの凄く後悔している。
ちょっとでも親近感を抱いたあの時の自分をぶん殴りたい気持ちだ。
俺はため息をついた。
「…ったく。こんなことなら、来なきゃよかった。せっかく、ルルちゃんに怒られて落ち込んでると思ったから励ましてあげようかと思って来てあげたのに。」
「あら、意外と優しい所があるんですね。茶化しに来たと思っていました。」
「一度、俺に対する印象をどう思っているのかしっかりと話し合う必要がありそうだな。」
俺はああ言えばこう言う生意気なペッタンコ娘を睨みながら言った。
「そうですね、いつか話し合いましょうか。その前に、私に剣術で勝てるようになってから言ってくださいね。」
そう言うと、気分良くなったのか振り下ろす刀にいつものキレが戻っているように感じた。
確かに、まだルミナには一度も勝てていない。
魔力を用いた勝負をしたらどうなるのかな、とは思うのだが何かそれで負けたらそれはそれでここぞとばかりに煽ってきそうなので気が引ける。
「と言うか、今日は本当に何もする気がないんですね。」
一通り、素振りを終えたのかルミナが刀を鞘に仕舞うと俺に言ってきた。
何もする気がない、どころかそもそもあの状況を見なかったら行く気すらなかったのだから当たり前だ。
「さっきも言ったけど、ルルちゃんに怒られてしょんぼりしていたから来ただけだしね。」
「先程は喧嘩って言っていたのに、どんどんグレードが落ちていませんか?いえ、まあ気にしないですけど。」
ルミナがちょっと心外とばかりに俺に言う。
実際、あれは喧嘩と言うには一方的に怒られている感じだった。
「でも、どうするのさ。明日から。」
ルルが助けてくれないのであれば、よりボッチが加速するような気もする。
まあ、本人的にはそれでもいいのだろうが。
恐らく、世話焼きのルルがそれはそれで怒りそうな気もするので結局何の解決にもならない気がする。
「まあ、とりあえず最低限話しかけられたら話すのは頑張りますよ。」
「せっかく、新しい異国の地に来てルミナちゃんのことを知らない人ばかりなんだから友達作れるチャンスなのに。」
俺は呆れながら言った。
それが簡単に出来たら苦労はしないです、とまたボソボソとルミナが言う。
「ルル様にも同じこと言われましたよ。いつまでも私達が近くにいるとは限らないって。別に、私はサタン様にお仕えする身なんですから一生あの2人といる予定なのに。」
「傍から聞くと、寄生する前提みたいな言い方だな…。」
俺のツッコミが気に入らなかったのかチラリと睨むルミナ。
実際、事実だろと言いたい。
「私達と家族周り以外で仲良くしている人なんていないでしょ、名前くらい出してみてくださいとまで言ってくるんですよ。いくらなんでも言いすぎですよ。」
地面の小さな小石を蹴りながらいじけるようにして言うルミナ。
そして、俺の方を見てきた。
「そうだ!剣殿って言えばよかったんです!一応、仲良くかは別としてこうして話せているわけですし。明日、ルル様に言い返せますね!」
何を思ったのか嬉しそうな顔をするルミナ。
いや、多分私達の中に俺も入っていると思うんだが…。
言おうかどうか迷ったが、どうせ明日それを言って言い返されて泣いている姿が鮮明に想像出来るので言うことにした。
「それ、言ったとこでルルちゃんから私の知り合いですね的な返しされて積むだけだぞ。」
その言葉にルミナは再び軽く絶望していた。
そして、今日はもうお終いなのか刀を袋の中に仕舞っていた。
いつもなら、ここから俺と木刀で練習に付き合ってくれるのだが俺自身にやる気がないので木刀も同じように仕舞っていた。
俺はそんなルミナの姿を見ながら、暇なのでルルから教えてもらった魔力操作の練習を少ししていた。
そして、最近出来るようになった黒い空間を出した。
「何ですか、それ。あまり見ない魔術ですね。」
ルミナがそんな俺に気づいたのか、尋ねてきた。
「最近、出来るようになったんだよね。何だか、物の出し入れも出来るみたいでさ。適当に何か入れて出してをして遊んでいる。あと、たまに家の戸棚にある食べ物隠すのに便利だったりする。」
俺はそう言うと、地面に作っていた空間を宙に上げてルミナに見せた。
「また、しょうもないことに魔術を使っているんですね。でも、何と言うか便利そうですね。」
「うん、色々と物を出し入れ出来るから便利だと思うよ。まあ、別に日常生活で使って知らない人間に見られたらビックリされるからやらないけど。」
ルミナが興味深そうにそれを見る。
「ちょっと、私の刀を入れてみてもいいですか?」
「どうぞ、ご自由に。」
俺がそう言うと、ルミナは袋に仕舞った先程の刀を取り出して空間の中に入れた。
俺は立ち上がると、ルミナの前に黒い空間を出した。
基本的に複数の物を入れても、自分の意志で欲しい、取り出したい物を取捨選択出来るらしい。
今は、先程預かった刀しか入ってないので意志を伝えなくても刀が空間からスッと出てきた。
ルミナはそれを取り出した。そして、何やら考えているようだった。
「これ、私の持っている刀だったり魔道具の保管用に使ってもいいですか?正直、今回の引っ越しで家の中にケースに大量に入った箱は持って来たのですがそのお爺さまやお婆さまに見られるのも嫌ですし…。」
確かに事情が知らない、俺の祖父母にそんな物騒なモノは見せたくない。
「いいよ、じゃあ明日来る時に持ってきてよ。」
ルミナが顔をパアッと明るくした。
そして、何やらまだ何か伝えたいのか悩んでいた。こう言う、オドオドして自分の言いたいこと言えないからルルにも言われるんじゃないかと言いたかった。
まあ、かと言ってルルみたいに誰にでもニコニコして自分の本心を隠すコミュニケーションの取り方もどうかと思うが…。
「…、その。剣術を教えるついでに私に魔術使った戦い方の慣れる練習に付き合ってもらえませんか?多分、ちょうど剣殿にとっても使い方の練習になってもいいと思いますし。」
「そんなことかよ、別にいいよ。じゃあ、明日からするか。」
俺は、それを言うために迷っていたのかと呆れながらルミナに言った。
ルミナははい!と嬉しそうに言った。
こうして、日課に新しい項目が増えた。




