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おかえり…!

「結局、あの男は失敗したのか。所詮は、己の魔術を過信しすぎた人間だったな。」


ザドキエルが、水晶を見ながら事の顛末を知ると吐き捨てるように言った。

せっかく、魔力を増幅できる神具を与えてやったのにと苦々しい思いだった。


「これなら、私も手助けをした方が良かったかもしれん。」


本人の戦闘力自体は大して高くないエンポリオに自身の作り上げた兵隊が全て倒されてしまってはこの結末は見えていたからだった。


そんなことを考えながら、水晶の前の椅子に座っている女性を見た。

女性は、ザドキエルとは裏腹に満足そうな顔をしていた。


「そんな失望した顔をしなくていいわ。お陰で計画は順調に運んでいるのだから。あなたが、あの権力に囚われた馬鹿な男をいい感じに騙してくれたおかげね。」


そう言うと、女性は水晶から映し出される映像を止めた。

水晶は輝きを失い、丸い青色の球体に姿を変えた。

そして、ただ…、と小さく呟いた。


「ただ、彼の持っている武器は私の想定とは違っているわね。まあ、多少の計画の進みに前後はあるモノだから。そこは心配してないけど。」


そう言うと、ザドキエルを見た。


「便利なピエロが2体もいなくなったからな。3体目のピエロを用意するとしよう。次は、私自身も表に出る。」


「あら、頼もしい。期待しているわ。でも、あの少年は殺しちゃダメよ。あと、サタン・ウィザード。あれにも手を出さない方がいい。片腕のないあなたでは勝てないから。」


女性の言葉にザドキエルは苦々しい表情を浮かべる。

サタンに斬られた片腕の傷が疼くような気がする。


「興が削がれた。私は、次の準備をする。」


そう言うと、ザドキエルは部屋から去って行った。

部屋に1人取り残された彼女は、輝きを失った水晶に触れた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「よし!帰るか!」


自室のベットに座っていたサタンが俺達に言う。

準備が終わったのか、行きに背負っていたバックを軽く叩いた。

部屋には、俺とルミナがいた。


「帰るかって、それ俺が言うセリフだろ。」


呆れながら俺は言った。

あの後、治療をしてくれた人達のおかげで無事に痛みも取れ全快の状態だ。

何だかんだ、あの後も安静にするということで2日ほど滞在してしまった。

もし、ダミーの体を日本に置いておかなかったら1週間近く留守にしていたことになっていた。

親や学校への言い訳を考えただけでも、想像しただけでも震える。


「…しかし。本当に良かったのですか?」


ルミナがサタンに尋ねる。

本当に良かったのか、とは恐らくリヤドのことだろう。

あの後、サタンや色々な人が止めようとしたが結局ザスティン家を去ることを決めたらしい。

融通の利かない、あいつらしい話である。


「構わん。あれだけ言っても聞かないのだ。もう、あいつの好きにしてやればいい。」


サタンはルミナに言う。その表情はどこか、寂しそうにしていた。


「そう言えば、ルルちゃんはどこに行ったのさ。」


俺はサタンに言った。

これから、日本に転移魔術で帰ろうと言う所なのに一緒に行くはずの3人の内の1人がいない状態だ。

サタンは首を横に振って、答えた。


「さあな。何か用事があるから、少し遅れるとは言ってはいたが。」


「あのルル様が遅れるなんて、珍しいですね。明日は雨とかが降ってきそう。」


サタンの言葉にルミナが小声で独り言を言う。

そんないつもと変わらない会話をしていた時だった。


「誰が珍しいですって?」


背後から突然声がすると、ルミナがビクッと姿勢を正して後ろを振り向いた。

後ろには腕を組んだルルが立っていた。

そして、足元にはウルと呼ばれるペットの犬も。


「いえ、違うんですよ。ただ、ルル様が時間通りに来ないなんて珍しいなって話をしていただけです。」


ルミナがしどろもどろになりながら、ルルに言い訳をする。

ルルはそんなルミナを見ると、サタンに言った。


「準備は出来ましたか?お姉さま。」


「私の方は万全だ。そう言うお前こそ、もう大丈夫なのか?」


ルルに逆に尋ねる、サタン。

笑顔を見せてはいるが、どことなく寂しそうな顔をしていた。


「私の方は大丈夫ですよ。そう言えば、お姉さま達にお会いしたいと言う人が1人いますがどうしますか?」


ルルはそう言うと、俺達3人にニッコリと笑った。

俺達に会いたい人?一体、誰だろうか。

サタンの家族とかならこんな回りくどい言い方はしないはずだ。

俺がそんなことを想像していると、サタンは無言でルルに頷いた。

ルルはそれを確認すると、閉めていたドアにどうぞと声をかけた。

ガチャリ、とドアが開けられるとそこには1人の少年が入って来た。

長身でハリウッドスターと見間違えそうなイケメン。眉間に皺を寄せ、鉄仮面のように表情を変えないここ数日、すっかり見慣れたリヤドの姿だった。

リヤドは部屋に入ると、直立不動で俺達の前に立った。

サタンは座っていたベットから驚いたように立ち上がった。隣に立っていた、ルミナも同様の表情をしていた。

恐らく、俺も同じ表情をしているのだろう。

ただ1人、ルルだけが事情を知っているのかニコニコとしていた。

直立不動で立っていたリヤドは、突然サタンに向けて深々と頭を下げた。そして、この数日会って初めて聞く大きな声で言った。


「リヤド・ザスティン!再び、サタン様の側役を命じられ、ただいま戻って参りました!」


表情を一切変えずに、サタンに対して言うリヤド。

俺は、リヤドの視線の先にあるサタンを見た。

サタンは、目に涙を浮かべていた。そして、必死にその涙を見せまいと顔を真っ赤にしていた。


「遅い、遅すぎるぞ。もう、出発するところだった。」


そう言うと、感極まったのか目に浮かべていた涙がポロリと零れ落ちた。

そして、満面の笑みでリヤドに言った。


「お帰り、私の大切な友人よ。」


その言葉に、リヤドはニコリと笑い返事をした。


「はい。今後とも、よろしくお願いいたします。」


そう言うと、再び深々とお辞儀をした。

俺は、そんな感動的な場面を見ながらルルに近づいた。

そして、耳元に顔を近づけて尋ねた。

すぐ近くには、事情を知ろうとルミナもいた。


「どんな手を使ったんだよ?」


ルルは意味ありげに、ニヤリとすると答えた。


「簡単な話ですよ。別に、去ったのならまた呼び戻せばいいだけの話ですから。」


事情はこういうことらしい。

リヤドはザスティン家を通して、主人であるウィザード家に辞表を提出した。

それを一度は受理した後に、ただのリヤドとなった男を再び養子としてザスティン家に迎え入れたらしい。

そんなことアリかよ、とも思ったけどそれがまかり通ったのだから一件落着なのだろう。

俺は、リヤドに近づくとここぞとばかりに意地悪気に言った。


「もう、帰ってこないんじゃなかったのかよ?」


リヤドは、フンといつもの鼻で笑う癖をすると俺に言う。


「僕は帰るつもりはなかった。だが、どうしても戻って来て欲しいとそこのルル様に言われたからな。だから、前までいたリヤド・ザスティンとは別の人間として雇われることになっただけだ。」


それに…、とリヤドが言葉を続けた。


「君1人にサタン様を任せるのが心配になっただけさ。ルル様の負担がデカくなるような気がしてな。」


この男は、最後に何か嫌味を言わない時が済まない病気なのだろうか。

俺は、口元が歪んでいるのを感じながらリヤドの顔を見て呆れるように言った。


「よくもまあ、そんな小学生みたいな言い訳を考えたモノだな。」


「どこかの誰かさんの悪い所が移ったのかもしれないな。」


どこぞの誰かさん、とは一体誰のことなのだろうか。

まさかとは思うが、俺のことだろうか。

俺は、相も変わらず嫌味な感じのこの男を睨んだ。

すると、ルルがサタンに対して言った。


「で、どうされますか?お姉さま。まだ、正式には決まっていませんので。後は、お姉さまの判断待ちと言ったところなのですが?」


そう言うと、ルルがニヤニヤと笑う。

どうせ、自分の姉がどう答えるかなんて分かっている、と言った風だった。

俺とルミナはサタンの顔を見た。

その顔には先程浮かんでいた涙はもうなくなり、いつもの表情に戻っていた。


「私の判断、と言うのなら先程もうリヤドに言ったはずだ。決まっている。また、よろしく頼む。」


そう言うと、サタンはすぐ近くにいた俺とリヤドの肩を掴み自分の方に引き寄せた。


「そういう訳だ!これからは、この5人だな。仲良くするんだぞ!」


先程まで見せていた寂しそうな表情とは打って変わって。いつもの調子でサタンが俺達に言う。

俺は、ため息をつくとサタンに言った。


「俺、コイツとはあまり意見が合わなさそうなんだよね。」


「奇遇だね、僕もだ。サタン様、出来たらあまりこの男とは話さないようにしたいのですが。」


この数日ですっかり、お互いが合わないことに気づいた俺達が互いに毒を吐く。

サタンは、俺達の肩を掴みながら嬉しそうに笑っていた。


「すっかり打ち解けたようで何よりだな!じゃあ、行くか!日本に!」


俺達、4人を見渡すとサタンが大きな声で言った。

俺は、サタンとルル。ルミナとリヤドの顔を軽く見て、またこれからどんなことに巻き込まれるのやらと思っていた。

しかし、まあ今回ばかりはサタンの笑顔も戻ったのだから良かったのかなと少しだけ思った。

2章はこれにて終わりです。次回からは3章に入るのを考えています。

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