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いざ、救出へ!

後部座席に俺とルミナの2人が座ると、一気にアクセルをべた踏みした車が急発進する。

シートベルトはしっかりしておいた方がいい、と横のルミナから忠告を受けたからしておいたが、してなかったら前の座席に顔からぶつかっていた気がする。


「運転荒すぎだろ!」


俺は思わず、叫ぶ。

夜中で車の往来が少ないのをいいことに車線変更はしまくるわ法定速度なんてナニソレ状態のやりたい放題の運転である。


「ルミナ様より、全速力で向かえと申しつけられたので。」


運転席の黒いサングラスをかけた女性が俺に言う。

腰付近まで伸ばした紫色の髪に、前髪を上げてと言う髪型だった。

服装はサタンの家にいたゼノヴィアみたくメイド服だった。違いがあるとすれば、少しこちらの方がスカートの丈が短いと言うことくらいか。


「シェフィール!確かに全速力で向かえとは言いましたが、警察に捕まるかもしれないレベルの運転はしろとは言ってないですよ!」


後部座席から顔を出したルミナが言う。

どうやら、この女性の名はシェフィールと言うらしい。


「大丈夫です。このシェフィール、持ち前のドラテクで警察の追跡ごとき華麗に撒いてやりましょう。」


「違う!そういうことを言っているんじゃありません!」


車内からやかましい2つの声が響く。


「うるさい、2人とも。お兄ちゃんがドン引きしてるじゃん。」


助手席のクレアが耳を抑えながら顔をしかめて言う。

確かに、この2人の会話は耳に響く。

と、そんなことよりこの子。今何て言った?


「今、俺のこと何て呼んだ?」


助手席に顔を出すと、俺はクレアに尋ねた。

クレアは顔をこちらに向けると、答えた。


「ん?お兄ちゃんって言ったけど。ダメだった?」


「いえ、大丈夫!何なら、お兄さま呼びでもいいよ。じゃあ、俺の方はクレアちゃんって呼ばせてもらうね。」


「んー、流石にお兄さま呼びはいいかな…。私の方は好きな名前で呼んでいいよ。」


少し呆れたようにクレアが俺に言う。


「待ってください、クレア。いつから、この人とそんな呼び合う仲になったのですか?」


実姉のルミナがクレアに言う。


「いや、別にお姉ちゃんの友達なんでしょ。じゃあ、お兄ちゃんでいいじゃんって思っただけ。」


「いや、別にこの人と友人関係になったつもりはないのですが…。それよりも、血の繋がりのない年上の男性をお兄ちゃん呼びは何と言うか姉として心配になるのですが…。」


ルミナがブツブツと言う。

俺としては、年下の女の子にお兄ちゃん呼びされたのでもう大満足だ。


「そう言えば、私の詳しい自己紹介していなかったね。名前は、知っての通りクレア。今は小学校の5年生だよ。」


俺の予想通り、やはり小学校の高学年くらいの年だった。

そう考えると、それなりに年の差がある姉妹のようだ。


「この男はサタン様曰く、ロリコンの気があるようなので。あまり、仲良くさせたくないのですが…。」


「あいつは俺にどんなイメージを持っているのか、一度しっかり話し合う必要がありそうだな。」


ルミナの失礼な言葉に俺は言い返す。

そんなとても今からリヤドを助けに行くような雰囲気ではない車内で運転席のシェフィールと呼ばれた女性がルミナに声をかける。


「ルミナ様、そろそろ着きますよ。」


その言葉にルミナの顔が少しばかり強張る。

俺は100キロは余裕で超えて公道を走る女性を指さして、ルミナに尋ねた。


「そう言えば、この人は誰なの?」


「シェフィール。私とクレアの幼い頃の世話係です。シェフィール、一応剣殿に挨拶をしてください。」


そう言うと、シェフィールはフロントガラスを通じて俺を見ると、軽く頭を下げた。


「初めまして、剣殿。私の名は、シェフィール。ルミナ様とクレア様の世話係兼ランスフォード家で最も使えるメイドです。」


「どの口が言うんですか、全く。」


シェフィールの自己紹介にルミナが呆れた顔で言う。

そんなことを話していると、シェフィールは市街地から少し離れた場所の人気の少ない場所に車を急停止した。

危うく、舌を噛むところだった。


「着きましたよ。」


そう言うと、シートベルトを外した。

もう、この人の運転する車には2度と乗らないようにしよう。

俺はそう決心した。


「あの家ですね。」


ルミナが通りを挟んで建っている一軒家を見て、言った。

そして、シェフィールに指示を出した。


「シェフィール、あなたは今すぐ帰ってランスフォード家で動けそうな人を数10人ほど連れて来なさい。恐らく、サタン様達もザスティン家と共に捜索部隊を出している最中でしょうから、そのまま合流して向かってきなさい。」


「承知しました。」


シェフィールはルミナに一礼すると、再び車に乗り凄い勢いで走り出した。

それを見送ると、俺達3人は互いに顔を見合わせて無言で頷いた。

建物の前に立っている木に身を隠すと、様子をうかがった。


「随分と、見張りがいるけど。」


クレアが様子を見ながら言う。

家の前には数10人ほどの人影が見えた。


「恐らく、エンポリオとか言った人が作った奴らでしょうね。」


ルミナが俺の足元からクレアに言う。


「あー、お姉ちゃんが言ってた例の無駄に硬い人形みたいなのか。」


クレアはそう言うと、腰に巻いていたポーチバックから短刀を出し、両手に構えた。


「…、クレア?何をしようとしているんですか?」


ルミナが不安気に尋ねる。

俺も何やら嫌な予想が頭をよぎった。


「ここは、裏から侵入した方がいいんじゃないかな?」


クレアに俺は言う。

しかし、そんな俺達を見るとクレアは言い放った。


「分かってないね、2人とも。そんなとこで隠れて作戦会議なんてしたとこで何も始まらないよ!」


そう言うと、隠れていた木から勢いよく飛び出した。


「あの子は!ちょっと!無策にもほどがあります!」


ルミナの声が響く。

しかし、クレアはその声を無視して目の前の数人を一撃で倒した。

以前も見たが、やはり何かしら電撃のようなモノが体を駆け巡っていた。


「あー、もう!剣殿!行きますよ!この際です、私達も突撃します!」


そう言うと、腰に差していた刀を抜くとルミナも飛び出した。

俺もその後を追うように飛び出す。


「いいね、いいね。そうこなくっちゃ。スピードイズパワー!パワーイズスピードだよ!」


クレアが集まり始めた敵に両手に持っている無数の短刀を投げつけながら、脳筋みたいなことを言う。


「まあ、でも確かに下手に隠密でリヤドのいる場所を探すよりは早いのかもしれませんね。」


クレアの後を追いながら同じく襲ってくる敵を切り捨てるルミナ。


「と言うか、速すぎないか。あの子。」


俺は、目で追えないスピードで駆け巡るクレアを見て言った。

気づくと、もう玄関前にいた敵を一掃し建物内へと侵入していた。


「あの子の魔力の属性は雷。故に雷の魔力を纏うことでサタン様を除き最速の魔術師の名を持っているのです。加えて、増幅魔術の扱いが上手いのであのポーチに仕込んである短刀をほぼ無限に増やして戦うと言うスタイルです。」


俺の露払いをするように前を進むルミナが説明をする。

そんな俺達を振り向くと、クレアが言う。


「お姉ちゃん!やっぱり、予想通りだよ。コイツら、所詮は魂のない人形。命令されたとおりしか動かないから敵の数が多い部分に突っ込んでいけば自然と術者の本丸を襲える。よっぽど、いっぱいお人形が作れたのが嬉しかったのかな?無駄に、見回りを増やしすぎたね。」


そう言うと、どんどん建物の奥へと向かう。

確かに、クレアの言う通り別の場所にいたであろう人形も集まり始めている。


「そうは言っても、流石にこれは多すぎないか?」


俺は、ルミナの取りこぼした敵を斬りながら言う。


「まあ、とは言ってもどこかで終わりはあるでしょう。いくら、大量に作れると言っても限度はあります。無限に作れるなんて話は存在しないですからね。例え、どんなに人間離れした力があったとしても。」


ルミナが俺に言う。

そして、前を進むクレアに言う。


「クレア!一度下がりなさい!」


背中越しにルミナの言葉を聞くと、クレアは自身の周りに集まっていた集団を体を回転させることで切り刻んだ。

そして、そのまま華麗に飛び上がると、俺達の背後に着地した。


「まあ、ここら辺が限界ってとこかな。」


クレアはそう言うと、両手に短刀を構え直した。

後ろから追って来ていた、人形達の動きが止まる。

そして、前方にも集団が距離を少しづつ詰めてきていた。

しかし、よく目を凝らすとその先にある階段からは誰も降りてくる気配がない。


「恐らく、1階に集合させて、残りは自身の周りに固めていると想像出来ます。明らかに、ここの範囲以外から魔力を持った何かしらの動く存在を感知出来ないですから。」


ルミナはそう言うと、刀を鞘にしまった。

そして、鞘に仕舞った刀の柄を掴むと、


「“居合・つばめ返し”!」


そう叫ぶと、凄まじいスピードで正面の敵の集団を切り裂く。

まるで、一本道のように階段までの道が開けた。


「ここは私達2人で食い止めます!ですから、剣殿はリヤド殿の元へ!」


そう言うと、俺の背中を軽く叩いた。


「早く行かないと、せっかくお姉ちゃんが作ってくれた通り道がなくなっちゃうよ。」


後ろからクレアの声もする。

俺が振り向くと、クレアが笑顔を見せた。


「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんのことは私がしっかり守ってあげるから。知らないかもしれないけど、私ってかなり強いんだよ。」


そう言うと、両手に持っていた短刀をクルクルと回した。


「余計なことは言わなくていいんです!早く、行ってください!そして、とっととリヤド殿と共に帰って来てください!」


俺はルミナの言葉に頷くと、階段まで真っ直ぐ伸びた道を振りむくことなく走った。

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