リヤドの家へ訪問
朝早くからサタンが父と兄と出かけたため、俺は暇を持て余していた。
どうやら、昨日の件で事情説明諸々などがあるらしい。
恒例通り、掃除の為に部屋から追い出され1人で朝ごはんを済ませた俺は廊下を歩いていた。
この時間帯なら部屋の掃除も終わっているだろうから、とりあえず今日1日は部屋に引きこもっていようと思う。
しかし、リヤドはどうするつもりだろうか。
昨日言われたように指定の場所とやらに行くのだろうか。
「まあ、止める止めないの話はサタン達がどうにかするだろうし。下手に関わらない方がいいよな。」
俺は呟いた。そもそも、昨日突然来た男の正体すら分からないのだから。
リヤドの家に行ってみるかと思ったが、それこそ余計なお世話だろう。
「暇ですか?」
ルルの声が聞こえた。
ルルはペットのウルを連れていた。
「もしよろしければ、この子の散歩に付き合ってもらえませんか?」
ルルは笑顔で言ってきた。
家の庭を抜け、昨日見たばかりの大通りに出た。
「昨日のあれ、どんな人間か知ってたりするの?」
基本的に何でも知っていそうなルルに俺は聞いた。
ルルは首を横に振った。
「さあ、さっぱり。顔はもちろん声も聞いたことない人でしたね。」
そう言うと、俺とルルは無言で歩く。
「今日は何をする予定だったのですか?」
「別に、朝ごはんも食べたから1日部屋にいる予定だったけど。」
「あら意外ですね。剣さんの性格的にリヤドの家に行くものかと。」
ルルが何やら意味ありげな顔で言う。
この子は何を言っているのだろうか。短い付き合いだが、俺がどういう人間か知っているだろと言いたい。
「行くわけないだろ、厄介事の匂いがプンプンするんだし。」
「あら?私やお姉さまの時には自らその厄介事に巻き込まれに行ったのに?」
「あれは偶然だろ。サタンの時はもちろんだけど、ルルちゃんの時だってサタンが勝手に押し付けてきただけなんだし…。」
俺はそう言うと、ルルの視線から目を逸らした。
この子は今回の件で何か俺にさせようとしているのだろうか。だとしたら、迷惑だから断りたい。
そんな会話をしていると、ある家の前にやってきた。
ルルは門の前に立った。
「俺、帰るわ。」
そう言うと、俺はルルと歩いてきた方向に再び歩き始めようとした。
「まあまあ、そう言わずに。いいじゃないですか。」
顔に笑みを浮かべたまま、ルルが俺の服を行かせまいと引っ張る。
俺は構わず歩き出そうとした、その時だった。
「何をされているのですか?お2人とも…。」
聞き覚えのある声が聞こえる。
俺は声の方向を振り向くと、珍しく私服姿のルミナがそこに立っていた。
「あら、珍しい。むしろ、ルミナさんこそどうしてここに?」
ルルがルミナに尋ねる。
ルミナは少し間を置くと、恥ずかしそうに答えた。
「…、いえ。そのですね。昨日のこともありましたから、その…様子を聞きに行こうと思ったのです…。」
答える声が段々と小さくなる。
「奇遇ですね、私達もなんですよ。もうここまで来たら逃がしませんからね。」
そう言うと、ルルは連れていたウルを俺の目の前に放ち、前方を防ぐようにした。
俺は、大きくため息をついた。
「嫌な予感したんだよな…。もう、いいよ。で、ここからどうするのさ。」
俺は諦めたようにルルに尋ねた。
すると、ルルは門の前のインターフォンを押した。
「とりあえず、リヤドの様子を確認しましょう。話はそれからです。」
ルルが俺とルミナを交互に見ると言った。
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「…出てきませんでしたね。」
ルミナがルルに小さな声で言う。
執事のような人は出てきてくれたが、リヤド本人が出て行きたくないの一点張りであえなく、門前払いを食らった。
ルルはと言うと、予想通りと言ったような顔をしていた。
「まあ、リヤドの性格的に自分から出ては来ないでしょうね。それにしても、両親に頼んでも無理と言われたのは意外でしたね。」
家に帰る途中の道を歩きながら、ルルがポツリと呟く。
そのルルの足元には先程から売るが忙しなく駆けている。
「とりあえず、直接本人達に聞くという一番簡単な策が失敗したので次は少し面倒ですが、自分達の足で探すとしますか。」
「「自分達の足…?」」
俺とルミナが同時に聞き返す。
ちょうど、家に着いた俺達にルルが言う。
「そうです、自分達の足です。」
そう言うと、家の門をくぐり抜ける。
俺達2人はその後を追う。
「何するつもりなのか、全然分からないんだけど…。」
「言ったじゃないですか、探すって。あの男とリヤドにどういう関係があるかを。」
家に入り、廊下を歩いていたルルがとある一室の前に立つと俺の方を見て言った。
ルルはポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に刺しこんだ。そして、鍵を開けると部屋の中に入った。
「ここって、ウィザード家の書庫ですよね…?」
俺と共にルルの後から入ってきたルミナが言った。
「そうですよ。昨日、あの男が言っていたことを覚えていますか?」
ルルは、ルミナの方を振り向くと俺達に尋ねてきた。
何か言ってただろうか。そう言えば、当主の座が何とか言ってたような気がする。
俺の考えを読み取ったのか、ルルが説明を続ける。
「あの男はザスティン家の当主と言う言葉を口にしていました。つまりは、ザスティン家に関係がある人物。それも、何かしら血の繋がりがある人物だと思うのですよ。」
ルルはそう言うと、書庫のある本棚に来た。
棚には本と言うより、ファイルで閉じられたモノが大量にあった。
ルルは年代別にまとめられているそれらから、何かを探しているようだった。
「剣さんは、そう言えばリヤドからサタンお姉さまや私達との出会いは少しは聞いたんでしたっけ?」
探しながら、ルルが俺に尋ねる。
「途中で終わったけどね。確か、昔ボコボコにしていたギャングに捕まってサタンが助けてくれたってとこまでは聞いたかな。」
「また、随分と懐かしい話ですね…。」
隣にいたルミナがボソッと言う。
「そこからの話はまだ聞いていないってことですね。」
「そうだね。そこでサタンに恩を感じてサタンに命を捧げます的な流れではないんだよね?」
俺は、ルルに聞き返す。
ルルは、棚から取り出した一冊のファイルをペラペラとめくる。
「そうですね、そんな感動話ならよかったんですけどね。」
ルルは目的のモノではなかったのか、棚に再びしまう。
「あれって、確かサタン様がリヤド殿に勝負を仕掛けたんじゃなかったでしたっけ?それで、リヤド殿が負けたらサタン様の部下になるみたいな賭けだったような…。」
「よく覚えていますね。まあ、話は違うんですけどね。ルミナさんはそう言えば、その場にいませんでしたからね。」
ルミナが聞いていた話と違ったからか、首をかしげる。
「正確には、負けたら私の部下になるという条件で勝負を仕掛けたお姉さまがリヤドに負けた、ですね。」
「ん?リヤドは勝ったのにサタンの部下になったってことか?」
「そうですよ。お姉さまがリヤドを自由にさせてあげる為にわざと負けてあげた。そして、手を抜かれたと怒ったリヤドが本気のお姉さまを負かすまで部下になる、という流れが本当の話ですね。」
「それ、私も初めて聞いたんですけど…。」
ルミナが若干引き気味に言う。
ルルはそんなルミナを一瞥すると、
「そりゃあ、誰にも言うなって話ですからね。」
ルルはそう言うと、読んでいたファイルのページをめくった。
「でも、それを今俺達に言っていいの?3人の秘密みたいな感じじゃなかったの?」
「別に3人の秘密なんて大層なモノじゃないですよ。ただ、リヤドが真実を話さずに自分が負けたからお姉さまの部下になったって話にしてたのでじゃあ黙っておくかって2人でなっただけです。ルミナさんに言うと、うっかり口を滑らせそうなので教えなかっただけです。」
「ちょっと待ってください!私、割と口硬い人間のつもりなのですが…。」
隣ではルルの言葉に地味にショックを受けているルミナの姿が見えた。
「そんな話をしている間に見つけれましたよ。あの男が何者なのか、が。」
ルルはそう言うと、一冊のファイルを俺達に見せてきた。
俺はそれを開いた。英語がビッシリと書かれていて何も読めない。
「…、読めないんだけど。」
「まったく、しょうがない人ですね。私が代わりに読んであげましょう。」
隣から覗き込んでいたルミナが声は理解出来る魔法をかけてもらっても文字は理解出来る魔法はかけられていない俺に言う。
「えーと、どこ読めばいいんでしょうか?」
「ここですよ、ここ。」
ファイルを受け取ったのはいいが、どこを読めばいいか分からないルミナにルルが呆れたようにその場所を指さす。
「エンポリオ・ザスティン。死霊魔術を用いて、怪しげな人体実験を繰り返した事件において、ザスティン家並びにイギリス魔術協会から除名処分。…これって?」
ルルはルミナに頷く。
「恐らく、この写真に載っている男が昨日の男でしょう。これでようやく、腑に落ちました。そもそも、リヤドをウィザード家の預かりになった際にどこかの家に養子に入れようと言う話があったのです。まあ、リヤドの出自を考えたらどこも手を挙げなくて、唯一挙げたのが、ちょうど子供がいなかったザスティン家だったのです。恐らく、この事件があって本来継ぐべき存在がいなくなったからでしょうね。別に、リヤドの今の両親は至極真面目な人達です。ですから、この事件とは繋がりはないのでしょうけど。それを逆恨みして、という流れでしょうかね。」
ルルはそこまで言うと、俺へと視線を移した。
もうすでに先程から嫌な予感を感じているが一層それを感じざるを得ない。
「剣さん。少し、頼みたいことがあるのです。」
ルルはそう言うと、俺の目をジッと見てきた。




