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襲撃者

あの後、先行していたサタンが戻ってくるとちょうど見計らったようにウィザード家から派遣された部隊も到着し、現場を預けることになった。

そして、その日の夜になり俺としては出たくもない会合にサタン達4人と参加していた。


「昼間のあれ、凄かったな。」


俺は部屋の隅で前回、ウィザード家で行われた身内のパーティー同様にバイキング形式での料理を食べながら隣で一緒に食べているリヤドに言った。

俺はここぞとばかりに高級そうな食事で腹を満たそうと皿に山盛りにしていたが、リヤドは少食なのかそれともこう言った場だから遠慮しているのか少なめの量だった。


「ほぼほぼ全ての魔力を全力で使った技ですので。ただ、おかげであれ以上増援が来たら魔力切れを起こしていたので戦力にはなりませんでしたが。」


後からルルから聞いたが、リヤドの氷結魔術は特殊で凍らせた対象が生命があるタイプならば内部の血液から凍らせるため余程特殊な人間でもない限りは急速冷凍のような状態になり動けなくなるらしい。


「水路の水を使うのはでも考えたモノだよな。」


俺があの時の記憶を思い出しながら言った。


「むしろ、自然を操るタイプの魔術は現代においてほとんどあの手のすでに自然界に存在するモノを利用することがほとんどです。逆に無から作り出すとなると、防御に回す魔力が足りなくなりますので。」


リヤドはそう言うと、料理を一口食べた。

サタンやルルのような高速でビュンビュン動けたり、何もない所から炎やら何やらを出しているのはかなり異常であるらしい。

だからこそ、2人とも現代最強なんて通り名が付いているらしいが…。

そんなことを考えながら、会場を見渡しているとサタンの姿が目に入った。

前回同様、赤い派手なドレスを着ていた。

そして、周りには俺達より年上、大体20代以上から中年世代の男が囲んでおり笑顔を振りまいて談笑をしていた。

別に、サタンに対して恋愛感情とかそう言うモノはないが、何とも複雑な心境を感じていた。


「どうしたんですか?お姉さまの方をジッと見ていて。」


隣からルルの声が聞こえた。

振り向くと、ルルと疲れ切ってげっそりした顔をしたルミナが立っていた。

ルミナの方は今日はドレスではなく、見慣れたスーツ姿だった。


「いや、随分と楽しそうに話してるなと思ってみてただけだよ。」


「あら?嫉妬しているんですか?」


ルルが意地悪そうに笑いながら言ってきた。

俺は少し微妙な表情を浮かべた。


「そんなのじゃないよ。ただ、知り合いの女が見知らぬ男と話してるのを見るのって何かこうモヤモヤするんだよ。」


「それはもう嫉妬の感情じゃないんですか?」


俺の言葉にルミナが呆れたように言う。

今日は、影を薄くして存在感を消して腹だけ膨らませて帰ろうと考えていたが、あの談笑している場に割り込んでサタンの友人です感を出してやろうかと考えた。

しかし、知らない、それも上流階級そうな外人達の前でそんなことをする度胸は俺にはなかった。


「まあ、今回の異変でお姉さまが大方片付けてしまいましたからね。ほぼほぼ、パーティーの主役みたいな感じになってますね。」


ルルが俺に言う。

まあ、別に俺としてはサタンがどんな男と仲良くしたり話していようが別に構わないのでいいやと思った。


「そう言えば、結局あれは何が原因で起きたの?」


「今、ウィザード家の方でも犯人捜しをしているみたいですけど…。正直、痕跡も全く残していないですからどこの誰がやったのやら。まあ、唯一の救いは一般人の死者はいなかったことくらいですかね。あの後、現場にいた民間人の方には起きたことの記憶もある程度操作したのでちょっとしたテロ事件に巻き込まれた程度の認識でしょうし。」


「やっぱり、世間一般にはこう言った事件は内緒にするモノなんだ。」


「それはもちろん。そう言った存在があることを世間に知られたら面倒ですからね、政府側からしても。今ここにいる人達も魔術に何かしらの関連もしくは私達のような魔術を扱う家柄の人間ばかりですから。」


ルルはそう言うと、軽く周りを見渡した。

正直、俺もこの能力が発現しなかったら記憶を操作されてこれまで通りの日常生活が送れていたのかもしれないと思うと全く迷惑な話である。


「そこにいたのか。流石に久しぶりにこう言った場に出るのは疲れる。」


サタンの声が聞こえた。

サタンは少しばかり疲れた顔をして、俺達の集まっている場所にやって来た。

そして、軽く首をポキポキと鳴らした。


「随分と楽しそうに話してたじゃないか。」


俺はそんなサタンに言う。


「別に楽しくはない。社交辞令と言うやつだ。むしろ、変に気を使わないといけないから私だって好きでこんな場に出てるわけじゃない。」


サタンは心外とばかりにムッとした表情を見せた。

その割にはイケメン達に囲まれて随分とご機嫌そうだったじゃないかと言いたかったが反論が面倒なのでやめることにした。

そんな風に軽く話していると、


「おやおや、これはサタン殿。今回もまた大層なご活躍だったそうで。」


聞き慣れない男性の声が聞こえた。

俺達が声のする方を振り向くと、中年の髭を生やした中肉中背の男が数人の供を連れてこちらに近づいてきた。


「あはは。お久しぶりです。大層なご活躍とは、また口が上手い。」


普段敬語なんて使っているところを見たことないサタンが見慣れない姿を見せていた。

そして、その男に軽く笑顔を見せると言った。


「いやいやいや。流石は人類最強と呼ばれるだけのことはある。ウィザード家もこれで当分は安泰ですな。」


男の方も笑顔を見せると、サタンの前に立った。

右手にはグラスに注がれていた赤い色をしたワインを持っていた。

別段、何ともない普通の会話のように見えた。

しかし、どうにも男の声がざわざわするような耳障りがする。

どういう風に言えばいいのか分からないが、何と言うか生理的に受け付けない的な何かが…。

そんな俺の視線に気づいたのだろうか。男は俺の方を見てきた。


「見慣れない、男性ですな。なるほど、こちらが例の…?」


チラリと俺を見た男はサタンに尋ねた。

サタンは笑顔を崩さずに答えた。


「はい、そうです。名は、神野剣と言います。」


サタンが、俺の名前を紹介してくれた。

俺は、男に対して軽く頭を下げた。

男の方も何やら俺のことを値踏みしているようだった。


「なるほど、なるほど。相変わらず、サタン殿は面白い方々を仲間にされますな。エルフの真祖の血を引く者に、氷結魔術を扱うザスティン家の狂犬。そして…。」


そう言うと、ルミナの方に冷たい視線を浮かべていた。

その目はまるで人を見る目と言うよりは家畜か何かを見るような目だった。


「魔力を一切持たない魔術師の落ちこぼれ。」


ルミナはその視線にグッと何かを耐えているようだった。

流石に、俺としても今のは気分が悪いと感じた。

サタンを含めた3人も同じ思いだったのだろうか。明らかに周囲に険悪な空気が立ち込めていた。

その空気を察したのか、男は訂正するようにサタンに言った。


「ハハハ。気を悪くされたなら申し訳ない。むしろ、私は尊敬しているのですよ。そのような変わり種を仲間にするあなたの器の広さに。」


そう言うと、サタンの右手を掴み入念に握りしめた。

その目は下卑たイヤらしい目、と言う表現が適切であった。

サタンは笑顔を顔に貼り付けたまま、耐えているようだった。

男はサタンの手を握ることに満足したのか、軽く会釈をすると帰って行った。


「ジェレミー・ポール。ウィザード家と並ぶイギリス魔術界の中で最も大きな家柄の1つの現当主です。サタンお姉さまが幼い頃から、妙にご執心みたいで時々こう言った場でお会いすると必ずと言っていいほど個別で話しかけてくるような人なんです。」


ルルが俺の耳元に顔を近づけて、周りに聞こえないように男の説明をしてくれた。

ルルの言葉には端々から嫌悪している感じが読み取れた。

要はあれか、サタンを自分のモノにしたい的な感じか。ドロドロしたドラマみたいな雰囲気だった。


「まあ、気にするな。もう慣れた。」


サタンはそう言うと、ジェレミーから触られた手を自身のドレスで軽く拭いていた。


「…、お前も色々苦労しているんだな。」


「そう思うのなら、もう少し労わってくれてもいいんだぞ。」


「今のでせっかく同情した俺の気持ちがゼロになったぞ。」


俺はサタンと小声でくだらないやり取りをした。

その時だった…。突然、会場正面の窓ガラスが一斉に割れ始めた。

激しい音と共に、ガラスの破片が飛び散る。

窓の近くにいた人達が一斉に俺達がいた後ろの方に逃げてきた。

その状況の中、窓の近くには1人の男が立っていた。

長身の男だった。シルクハットをかぶり黒い外套を着ていた。

男はシルクハットを取ると、恭しく頭を会場の人間達に下げた。


「初めまして、皆さん。お騒がせをして申し訳ございません。何、皆様全員に用があるという訳ではないのです。」


男は突然、話し始めた。会場がざわめく。

後ろの方では護衛の人間らしき人間達がバタバタと部屋の外から入って来ていた。


「私が用があると言うのは、そこの男。いえ、あなたではありません。隣の男です。」


男はそう言うと俺達の方に指を指してきた。

俺は一瞬自分のことを言ってるのかと思ったが、どうやら違っていたようだ。

しかし、隣の男なんて言っても俺の隣にいる男なんて1人しかいない。

リヤドは自分のことだと気づくと、前に出た。


「僕に何か用が?」


他の出席者が後ろに下がる中、1人だけ前に立った。

サタンとルミナはと言うと、いつでも助けれるようにすでに構えていた。


「なるほど、お前が俺の代わりにザスティン家の次期当主になった男か。簡潔に言おう。今すぐにその座を明け渡せ。さもなくば、昼間の出来事を次は貴様と貴様の周りに起こすと宣言しよう。」


昼間の出来事、と言うと俺達が遊びに行った際に巻き込まれたあの事件のことだろうか。

と言うことは、あの男が犯人なのか。


「まあ、今すぐにと言ったのは決断を急かしすぎたな。時間を与えよう。明日の夜までに指定の場所に来い。」


そう言うと、リヤドに向けて何やら紙のようなモノを投げつけてきた。

リヤドはそれを人差し指と中指で受け取った。


「期限通りに来なければ、先程の宣言通りに実行させてもらう。ちなみに昼間の比ではないということも。よく考えてから来ると良い。」


男はそう言うと、シルクハットを再びかぶり、窓の外へと姿を消した。

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